紙の本
倫理とは…
2016/10/28 11:34
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投稿者:390 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間だけでなく様々な生き物に見られる「協力」そして「罰」。協力のみならず「罰」も同様に多くの生き物の間で社会システムとして存在する。「協力のための罰」がこれほど根源的なものだとは…ちょっとフクザツな気分。罰とは…、倫理とは……
紙の本
協力あるところに罰はつきもの?
2015/06/03 16:11
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書前半の「協力」や「共生」の話はどこかで読んだこともあるものも多い感じがする。後半になり「罰」を考える章に入るとがぜん面白くなる、というのが正直な感想だ。本書のタイトルは「協力と罰」になっているが、著者の感心も「罰」の方にあるようだ。
多くの生き物が近くで暮らしていれば、その工夫として「協力」が始まる。協力するシステムができると「ただ乗り」も出てくる。人間社会でも、「皆がルールを守ればスムーズに行く」と決められた規則はたくさんあり、そしてそこに「ちょっとぐらいいいだろう」と「ずる」をするもの、悪質なものもいるのが事実である。「働かないアリにも意義がある」ようだが、いいところだけ取っていく「ただ乗り」が増えすぎればシステムは崩壊する。それを防いでいるのが「罰」だ、という視点で本書は考えていく。
「協力」がヒトにも他の動物にもあるなら、「罰」も同じようなものがあるのだろう、と動物の罰の例も載っている。人間の、心理学的なゲーム実験なども紹介されている。「罰を与える」側の脳に「快感物質」が分泌されるとか、「罰を与えたものの評価が上がる」など面白い結果があるものだ。
協力のためのルールに従わせるためには、実は「報酬」という方法もある。本書で紹介された実験では、どうやら報酬(誉めるとか評価を上げることも含める)の方が罰よりも効果があるという結果のようだ。たしかに「人を動かすには叱るよりも誉めろ」と言う。「子供はほめて育てろ」ともうのではないだろうか。
人間以外に「報酬」でルールを守らせている動物は何かあるのだろうか。犬や馬、家畜では「誉めて教える」ことは結構多い。サルならグルーミングとか「誉めて動かす」行動がある。では犬同士、馬同士でも「誉める」行動があるのだろうか。協力を維持するために罰はつきもの、と動物一般では言えるようだが「報酬」は?さらにいろいろ知りたくなってきた。
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人間の協力志向を説明するのに、他人からの評判を気にするとのことだが、納得できる説だ.また人間は村八分のような罰を相手に与えることがあるが、他の生物も同様な罰を与えている由.豊富な事例をもとに分かりやすく解説している.
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とあるラジオ番組で筆者がフリーライダーの話をしていたのが私的に興味深いトピックだったので、すぐに書店に行き購入した。ヒト以外の生物の世界における協力的、懲罰的行動、とっても面白いテーマを面白く解説してくれている。ただ、わかりやすく説明してくれているのだけれど、少し説明が噛み砕きすぎているかな、と感じる部分もあった。また、私の勉強不足もあろうが、それは本当に「罰」と解釈していいのかな?と思うところもあった。例えば接着物質をつくれないキイロタマホコリカビが村八分を受ける話。そのようなキイロタマホコリカビは何も選択的に接着物質をつくらない手段をとったわけではなくて、つくることができない、つまり「裏切り者」と形容するよりも「先天的な病気、障害を抱えた個体」と形容した方が妥当な気もするし、とすればそういう個体への「村八分」という解釈は不適切ではないか、と思うのである。こういう例は協力と罰の観点から見るよりも、単に生存競争に勝ち残れないダーウィンの自然淘汰説から見た方が、やはりすんなり腑に落ちやしないか、と思った。
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フリーライダー、囚人のジレンマなど、生物学の本?というキーワードが登場します。生物の世界では、他人の活躍にただ乗りするものは駆逐されていきます。人間の暮らしも仕事場も同じく、助けて助けられの関係が築けないと孤立し、排除さていくことになる、はず。気をつけよう。
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生物の中に、アクセルとブレーキのような機構が必ず併存してるってのは何となく理解していたが、個体間でも同様の事が有り、更に罰まであって面白い絡み合いをしているってのは初めて(多少体系的に)理解出来た。
それがDNAの中に織り込まれていて、社会や科学の進歩には早々に変化追従しないってのも、なるほど感あり。
100ページちょいしかないので、軽く読めます。
この分野に関心のある方なら一読をお勧めできるけど、お値段も考えると、買ってまで読む?という点では微妙かも知れない...。
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菌類、昆虫、動物、人間、どの生物もDNAレベルでプログラムされている所作や「社会」の均衡を保つためのルールが備わっています。
生物は皆、種を残すために種同士、あるいは種を越えて「協力」というかたちで共生します。しかし同時に、協力行動に“ただ乗り”して楽して種を残そうとする非協力者(フリーライダー)も一定数いるもので、そういったフリーライダーが幅を利かせるのを食い止めるために様々なかたちの「罰」が存在します。
果てしなく長い過程のなかで、「協力」と「罰」の双方が絡み合いバランスが保たれている『自然の摂理』。その一片を垣間見ることができる1冊。
血を口移しで分け合うコウモリ、クマノミとイソギンチャクのwin-winの関係性、中絶するユッカなど、生物学の研究結果を一般の読者にも分かるようとても噛み砕いて解説しているため、分かり易く何より興味深く読み進められる内容です。
種全体のために率先して自身を犠牲にすることもあれば、ルールに沿った本能的な行動が期せずして種を存続の危機に陥れることになる等、規則的に流れているように見える世界でも、そこには様々なドラマがあり驚きと発見があります。
この本を取っ掛かりにもう少し専門的な本に手を伸ばしたくなる面白さ。好奇心が刺激されました。
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最近話題に上ることの多い「利他的行動」。
利他的行動は虫からほ乳類までに見られるとのこと。
これはこの行動に生存的メリットがあることの証拠だと思った。
希薄になってきたといわれることの多い最近の人間関係は、われわれの生存&永続に影響を与えるのだろうか?
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アリやハチといった社会性昆虫は、自らは子孫を残さないワーカーが群れの大部分を占める。自分の遺伝子を次世代に伝えることが生物の究極の目的だとすれば、子を作らずに働くワーカーって「変」だ。ダーウィンも悩んだらしい。
本書は、上記の謎解きから、ルールを破るもの、フリーライダーに対する罰の効果までをまとめてくれる。実例が豊富でわかりやすい。むしろ豊富すぎて個別の例に気を取られ、俯瞰的な見識を形成するのが難しいかもしれない。
いずれにしてもこの分野の入門書としてはよくできてて、じゃあ血縁によらない人間社会の協力関係は? とか、ぼくたちが倫理観、道徳観として捉えている感覚は、ひょっとしたら生き残りのための本能に根ざしているの? とかいろいろ考える。読んでで疑問が発展してくるのが科学啓蒙書の醍醐味だ。
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生物の協力/互恵関係について書かれたものは見たことがあるが、罰にフォーカスしたものはこれまでなかったように思う。平易に書かれておりなかなか面白かった。
P84 AならばBが成り立っているかどうかを調べるためにはAであるのにBでない場合があるかどうかを調べる必要があります。そこでコスデミスはこの問題に社会的文脈を添えて被験者に解かせることを試みました。【中略】文脈が与えられるとこの問題は簡単になったように感じられます。事実被験者の正答率も格段に上昇しました。ヒトは裏切り者検知の問題が得意であることを示していると言えるのです。
P100 (人はあまり公共財に投資しない人を罰するが)しかし同時に罰を与えた人がどのような人に罰を与えたのかを詳細に分析したところ、自分より公共財へ多く投資した人へも罰を与えている例があったのです(非社会的罰)
集団主義的な社会では「協力しすぎる人」は「協力しない人」と同じように集団の輪を乱す存在と考えられる可能性があります。
P107 罰の限界を伺わせる例「報酬を与える人」は評価されるのだけど「罰を与える人」は特に評価はされないらしいという研究
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他人に罰を与えると、尾状核が活性化する。尾状核は欲求が満たされた時に活性化し、快感を引き起こす部位。快楽の情動が伴っている行動は、進化の過程で有利だった証拠。
他人に報酬を与える人は評価されるが、罰を与える人は評価されない。
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1320
大槻久
1979年福島県生まれ。2006年九州大学大学院理学府生物科学専攻修了(理学博士)。ハーバード大学Program for Evolutionary Dynamicsポストドクトラルフェロー、科学技術振興機構さきがけ「生命現象の革新モデルと展開」専任研究者を経て、総合研究大学院大学先導科学研究科助教。専門は数理生物学。協力の進化理論をはじめ、進化ゲーム理論、人間行動進化学の研究に携わる
協力と罰の生物学 (岩波科学ライブラリー)
by 大槻 久
私はその中でも、生物の協力と罰という仕組みについて興味をもって研究してきまし
協力とは、ある個体が他の個体に対して利益を与えることをいいます。人間社会の場合、利益というと、金銭的な利益を想像される方も多いかもしれません。たとえば、困っている人に資金を援助すること。これは、お金をもらった側が利益を得ているので協力です。しかし、利益は必ずしも金銭的なものばかりではありません。お年寄りに席を譲ること、重い荷物を運ぶのを手伝うこと、もしくは、道に迷った人に道案内をしてあげること。これらは全て、他者に形は違うけれども何らかの利益を与えているので、協力とよばれ
台所の排水溝のヌメリ汚れは、臭い匂いを発するし、なかなか落ちないのでその掃除も大変です。実はこのヌメリ汚れの中に、生物の協力が潜んでい
実はバイオフィルムは、我々の身近なところによく存在しています。歯磨きで大切なのはうがいだけではなく、念入りなブラッシングです。これは、細菌が歯の表面に、歯垢という形でバイオフィルムを形成しているからです。我々の口の中も、細菌にとっては絶えず栄養分が流れてくる好適な環境です。毎日のブラッシングは、実は協力する細菌たちとの格闘なの
中南米に生息するチスイコウモリは、その名の通り、大型動物の血を吸うことで生活しています。そのターゲットはウシやウマなどの家畜で、夜にねぐらを飛び立つと、無警戒な相手にを立て、そこから流れ出る血を舐めとって食料とします。体長は 10 ㎝ほどしかなく、生き延びるためには基本的に毎日、動物の血を吸わなければ
ません。たった二晩か三晩血にありつけないだけでも、飢えのため死んでしまいます。そのため、毎晩の食事が成功するか否かは、チスイコウモリの生死に直結してい
ウィルキンソンは、血を与える側と与えられる側の関係も調べました。するとその7割は、母から子への吐き戻しでした。しかしそうではない3割を見ると、母子以外の血縁関係に加えて、個体間の「仲良し度」も影響していたのです。仲良し度というのは一緒に行動している時間の割合を表す指標で、いつも一緒に観察される場合に、ウィルキンソンはその2個体を大の仲良しとみなしました。困っている友人に手を差し伸べるのは、人間もチスイコウモリも一緒のよう
このような、協力をしない個体のことを「フリーライダー」とよびます。英語では free-rider、 要するにただ乗り者、ということです。フリーライダーは周囲に協力をさせておきながら、自分は協力をせずに、その分の
や時間を繁殖に振り向けるので、協力する個体はその繁殖スピードに追いつけず、最終的に協力というシステムが破壊される原因となります。そして実は、自然淘汰説の予測通り、自然界にはさまざまなフリーライダーが見つかってきているの
すなわちフリーライダーは、周りに協力個体ばかりがいると成功を収めるのですが、いったんフリーライダーばかりになってしまうと、もはや自分で自分の子を育てることができず絶滅してしまうという、進化の行き止まり状態をもたらしてしまったの
このように、自分の評判などを通じて過去にした手助けが間接的に第三者から返ってくるメカニズムは「間接互恵性」とよばれています。アレキサンダーは、ヒトのもつ道徳性をこの間接互恵性として理解しようとしました。つまり、見知らぬ人を助けるのは、第三者からのお返しが期待できるからだ、という説明
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動物の共生の話かと思いきや、もちろん共生も出てきますがそれに限らず、ヒトの話まで出てきて、とても幅広い。しかし文章は平易で、読みやすくてわかりやすい。良い本です。
みんなが協力している中で、自分は協力せず、みんなの協力の結果にただ乗りするのが「フリーライダー」。許せませんよねこんなヤツ。どうやってフリーライダーを排除するのかなど、興味深いです。
経済学的な実験を行う際に、ヒトの脳はどのように働いているかを調べる学問が「神経経済学」と呼ばれるそうです。作者は理系的な「神経」と文系的な「経済学」という言葉が合わさったこの言葉がとても好きなようですが、私も同意します。面白い視点ですね。