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紙の本
静かにじんわりと忍び寄る「あの夜のささやき」を越えて
2015/03/03 04:12
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る
『はだかのくすりゆび』の続編。あの翠さんの再登場である。秘めやかな中にアツい熱を孕んでいた本編の「その後」は静かで穏やかながら、ふとしたきっかけで灯った火がじわじわ大きくなり、それまで拒んでいたオンナを新たな熱として再び発散させるものだったように思う。
Chapter.1 【明菜】 翠さんが営む小料理屋のアルバイト娘
翠さんは全てを失い、今は寂れた島で1人暮らしを始め、小料理屋で生計を立てている。そこで働いている明菜は性にも快活というか開放的かつ積極的であり、次第に道を踏み外そうともする。以前の自分をダブらせてしまう翠さん。その道は荊であることを「沼」に例えたのは秀逸だったが、ここでは「残された側」の途方もない悲しさが同時に、ずしりと描かれていることが今は傍観者の翠さんに、そして読み手にも語りかけるものがあったと思う。官能面は明菜の一人舞台であり、翠さんはこれを覗き見てしまう程度だが、また別の些細なきっかけが翠さんの奥底に潜んでいた火を灯すこととなる。
Chapter.2 【尾田】 島にふらっと現れた若者
とても小さいながらもしっかり灯った火を自ら慰める日々の翠さんが冒頭から描かれ、官能面もじわりと成分を増してくる。そんな導火線を加速させるのが尾田青年である。彼との出会いは偶然なのか必然だったのか。若い娘さん達にも人気のある彼を意識し始める翠さんの悩ましさは募るばかり。あと一歩を踏み出すのに躊躇して遠慮するのは年の差もありながら本来は堅物の翠さんらしくもあり、かつての過ちを繰り返さないための戒めでもあるのだろうが、相手はフリーだし今は翠さんもフリーなのだからもっと自由であっても良いのでは?という気も起きる悶々とした展開の始まりでもある。また、ここでも覗き見してしまう翠さんは、もう明菜の時とは異なる、明らかに異なる感情と劣情を有してしまっている。
Chapter.3 【翠】 心を解き放った妖艶さは儚く美しく
尾田青年とのふれあいは翠さんを揺さぶり続ける。心と体、理性と感情、本音と建前……相反する全てが揺れても自分からアプローチする術を持たない翠さんの我慢は頂点を迎え、実は尾田青年にも変化が訪れていた時に、それは幻想的な形で結実することとなる。原初のオトコを目にした翠さんが咄嗟の行動に出られたのはオンナのなせる技だったのか。ここからは全てを投げ出すように解放され、弾けるスイッチが入った豹変ギャップの妖艶さはドキッとするほど。読み手にとっても待ちに待った瞬間であるため、その破壊力はなかなかのものとなる。一晩中ヤリ捲りな情交は艶々作品ではお馴染みながら、余分な描写や台詞さえも抑えて、もっともっととせがむお口奉仕を挟みながら体位を変えて延々と続けられる様を表現したのは見事だった。しかし、この物語はきちんとした結末を用意していない。結末を1つにしていないとも言えよう。安息の幸福が訪れたのか、それとも(翠さんには失礼ながら)単に男日照りを癒しただけなのか、あるいは過去の不貞へのアンチテーゼなのか、そもそもこれは恋なのか愛なのかさえもはっきりとは描かれず、ただ何となくそういうことだよねと感じられるような静かな幕引きだったのは、その行く末についてを読み手に委ねているようでもある。
三段構成(序破急)のお手本のような構成に心の機微を巧みに盛り込んだ大人のドラマとしても良かったことに加え、その引き換えに抑えたかの官能場面、とりわけ翠さんのシーンが物足りなくなっても最後に賭けて盛り上がりの切り札としたかのような演出は、元より続編なのだからと思えば、これはこれで1つの形にはなっていたと思う。
電子書籍
続編ということで
2015/11/23 13:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ねいん - この投稿者のレビュー一覧を見る
続編ということで、購入しました。
なかなかタッチがやわらかくて良かった。
雰囲気の良い物語で、そそられます。