ハウス・オブ・デット 銀行でもなく、国家でもなく、個人を救え

投稿元：

レビューを見る

アメリカのデータや世界的なデータを分析してみた結果、大きな不況の原因は「家計債務の増大」にあるという主張。
また、対策として、家計債務の減額、責任共有型住宅ローン（SRM）が提案されている。

投稿元：

レビューを見る

20160101
金融危機は、経済力の低い家計が住宅ローンという債務を抱えた後、住宅価格低下により純資産を失い債務超過となり、住宅差し押さえなどを受け、支出抑制→雇用喪失→さらなる差し押さえや住宅価格の暴落というサイクルで発生した。
一方、債権者へ支払われる元本と金利は変わらなかった。
SRMという、住宅価格下落の場合は元本減免、その代わり住宅価格上昇の際はキャピタルゲインの一部を債権者へ支払うエクイティ的要素を持った住宅ローンを作ることで債務者を保護し、危機を回避できた可能性がある。
限界消費性向は一般人債務者が債権者より高いため、債務者の保護は経済にプラス。

以下、読書しながらのメモ
ハウスオブデッド

12/21メモ
貧しい人ほど住宅資産の比率が高い
ローン借りてから住宅価格下落すると、ローン比率高い貧しい人の住宅純資産はすぐに消えてローンだけが残る。
また、この債務を貸してるのは銀行のよきんなどを通じて富裕層。そこの資産は優先請求権？などから比較的守られており、金融危機では貧しい人々の資産が激減するも、富裕層は金融資産のパフォーマンスが比較的良好だったこともあり減少幅が小さかった

12/22朝メモ
アメリカは地域格差が大きい。平均所得の低い地域で住宅価格下落の影響大。
住宅価格下落は、差し押さえを生み、差し押さえからの銀行の投げ売りで安くなるとそれが基準となり残りの住宅価格がさらに下がる。差し押さえについての法律は地域差あり。
保険はリスク分散させるが、債務はリスクを増加させる。
リーマンでは銀行が救済されず資金供給止まり企業投資が減ったのではなく、消費が減少して企業投資が減ったと考えられる。

12/23
住宅価格が下がって債務者が支出減らすと景気悪化。
これに対し、低金利、国内製品の低価格、通貨安が起きても、それでは債務家計からの需要ショックに対応できない。

12/24
債務者支出減ると商品価格下がり賃金低下。これは債権者にも影響。
賃金に粘着性があれば、賃金低下でなく解雇となり、債務者、債権者ともに失業者が発生。
住宅価格下落は州によって程度が違う。
自動車業界の雇用を見ると、全国販売分野(工場での製造)は全国的に雇用が減ったが、地域限定分野(販売店)では、住宅価格暴落地域で大きく雇用が減る一方、住宅価格が落ちなかった州ではほぼ減らなかった。

12/25
経済学では、ある地域で景気悪化すれば賃金低下や労働者の移動が起きると考えるが、実際は賃金がなかなか下がらず(名目賃金の粘着性)、また労働者は動かない(スキルのミスマッチ、差し押さえまでの期間と公的補助、失業保険)。
熱狂的バブル
2000年代前半の住宅ローン伸び、所得増えてない地域で増加。信用力ギリギリの借り手が審査通過する割合増加。
では、
住宅ローン増加→住宅価格上昇
住宅価格上昇→住宅ローン増加
どちら？
住宅立てやすい平坦地域と建てにくい地域でローン増加率比較。
立てやすくて価格上がりにくい地域でも信用力低い借り手への融資増加していることから、
住宅ローン増加��住宅価格上昇
となる。
債務の増加は、信用力低い借り手への住宅ローンだけでなく、住宅価格が上昇した家庭が借り入れを増やしていったことも要因の1つ。

90年代後半のタイの危機から、ドル資産へ資金が流れた。

70年代？あたりからmbsが作られる。
ノンコンフォーミングのトランチングによりリスクが見えなくなり急拡大。ローン間の相関ははっきり見えないため通用した。また、ローン貸し出す銀行がまともに審査せず、持ち家と投資目的の家の区別も虚偽申告をした。
投資家は騙されていた。

12/27
バブルは債務から発生。高い価格で住宅を買おうとする楽観主義者へ資金が集まるため。
バブルのときでも、債権者は想定できる範囲の事態では元本が返ってくるから資金を出す。銀行もそれに合わせた商品を作る。しかし、実際は想定外のことが起きることも。そしてバブルが崩壊し被害を受ける。
キンドルバーガーは2002年に住宅バブルを懸念していた。

スペインは、住宅ローンの借り手が家を差し押さえられても破産しても債務が残る。しかし、スペインはこの銀行を守る法律を変えず、今深刻な不況。
銀行のBSは特殊。資産がローン。

12/29
銀行が融資できるよう救済する銀行融資説があるが、危機で企業は融資を必要としていたのか？データでは、危機の後銀行の融資は減っており企業は信用枠内でやりくりしていた。中小企業が心配されていたが、従業員を解雇したのは、借金背負った人の消費が減って苦しんだ大企業。
不良資産救済プログラムTARPやHAMPによっても、ローンの変更は想定より進まず。TARP資金の75%は金融機関の救済に使われた。

12/30
差し押さえよりローン条件変更の方が関係者にとって望ましくとも、証券化されたあとのローンはそれが困難な取り決めになっていた。
住宅価格暴落時に債務の減免ができれば、経済の回復は早かった。債務者層は、債務が減免されれば限界消費性向の高さから支出が債権者よりも大きく増えて経済を回す。
リーマンでは、FHFAのデマルコが頑なに反対した。
1810年代には債務減免等の法案が簡単に議会通過、1930年代にはHOLCのローンおよび債務の金による元本返済という条項の破棄により債務減免。これは債券と株価の価格上昇を招き、債権者にも利益となった。

1/1
財政金融政策
デフレは債務負担を相対的に増加させ、債務者の購買力を下げる一方、債権者の購買力を上げる。
インフレ起こせれば逆になるが、中央銀行は、金融緩和しても市中銀行の準備金を増加させるだけ。銀行がそこから融資増やさないと流通貨幣は増えないが、不況では銀行融資せず、家計や企業も債務増やしたくないから機能しない。
mbs買い入れなどから住宅ローン金利を下げても借り換えは進まなかった。すでに借りている中で信用力低い人は借り換えできないから。
また、インフレを期待させる政策については、経済回復につれていずれ中央銀行がインフレ抑制に回るであろうことから難しい。
財政刺激策は、ローン元本減免以外では困った債務者に的を絞れないため難しい。
また、アメリカは富でなく所得への課税となっており、高所得低資産の若者などの負担が大きくなってしまう。

アメリカでは、住宅ローンに加え学生ローンも重い債務。卒業時の雇用状況に応じて返済条件が動くローンにすれば改善される。オーストラリアやイギリスはそのような仕組みが作られている。
責任共有型住宅ローン(SRM)で住宅価格変動リスクを分散。下がれば返済が減り、上がればキャピタルゲインの数%を債権者に払う仕組みとする。キャピタルゲインの債権者へのシェアを調整することで、住宅価格下落リスクの債権者による負担を受けた住宅ローン金利の上昇を相殺する。
金融危機におけるSMRは結果として差し押さえを減少させ住宅価格下落幅を小さくし、消費支出増加と雇用喪失の減少をもたらしただろう。
また、SRMは貸し手が住宅価格下落の影響を考えることを求める。借り手についてはキャッシュアウトリファイナンスの抑制となる。

SRMが広まらない理由として、
政府の債務による資金調達への優遇が挙げられる。金利支払いには所得税かからない。住宅ローンにも当てはまる。
また、モラルハザードも。学生ローンで将来所得に応じて返済額を決めると、高い所得を得るインセンティブが減る。
しかし、ここは労働市場全体を指標にすれば解決。
国の債務についてもGDPに連動させるなどすれば、不況に陥った国を助けることとなる。しかし、GDPを不正に下げる行為などが排除できるかは課題。

なんにせよ、もっとエクイティ的な金融システムが作れたら、痛みを伴う景気後退を回避できる。今はデットファイナンスで利益を得ている少数の人間が、改革を阻んでいる。

投稿元：

レビューを見る

近年の不況の原因は家計債務の増大にあると分析し、リスクを債権者に移転できるリスク共有型の債務構造を提案している。

提案している方式で債権者はインセンティブを感じるかしら、あるいは債務にかかるコストが安すぎるのが問題で保険的なオプションを課す方がバブルの誘発を防げるのではという気もしました。何れにしても融資合戦からバブルを誘発し、持たざるものが一番被害を被る構図を変えるべきという筆者の主張、着想には敬意を表したい。

投稿元：

レビューを見る

個人向け住宅、学費ローンが、貸し手保護によっていわばモラルハザードを起こして、オーバーローンを招きバブルを生み出している。金融機関保護のみ優先し、高額のボーナスを手にした金融機関の人間が、政府から金を引き出して逃げおうせたことは、全く許せない！債権者にももっとリスクを取らせる仕組みを導入することが必要なことは明らかだ。もっとこの本を読んで、多くの人がこの事を知るべきだ！！

投稿元：

レビューを見る

バブル崩壊後の深刻な不況の前には、必ず家計債務の上昇がある。2008年の世界金融危機前夜には、2000年から2007年にかけてアメリカの家計債務所得比率は1.4から2.1に跳ね上がり、債務総額は14兆ドルに倍増していた。不況というものは、必ず家計債務の大幅な増加の後に起きる。

バブル崩壊による不況が訪れたときに、割を食うのはいつでも庶民である。世界金融危機時に、最貧困層の債務比率は80%と、彼らは多くの債務を抱えており持ち家を手放さざるを得なかった。一方、最富裕層の債務比率は7%であり、しかも金融資産を多く保有していたので、ほとんどダメージを受けなかった。債務に過度に依存している現状の金融システムは、バブルの発生とその崩壊を繰り返す毎に富の格差を拡大させていると言えよう。

本書では、従来のバブル発生説に代わる理論としてLL（Levered Loss :債務損失幅）理論が提唱されている。この理論によれば、バブル崩壊に伴う住宅価格の暴落は、住宅ローンを多く抱える借り手である債務者の消費支出を大幅に減少させる。債務者の消費支出の減少は、今度は貸し手である債権者にも影響を与える。その結果、債務損失が増幅されて深刻な経済収縮を引き起こす。また、債務増大による住宅の差し押さえにより最初に発生した住宅価格の負のショックは増幅され、増幅された負のショックは債務者に損失を集中させる構造があるという。

バブル崩壊時の住宅債務増加による深刻な経済収縮を回避するための解決案として、従来の住宅ローン契約の代替案として、SRM（Shared-Responsibility Mortgage: 責任共有型ローン）を本書では提示されている。SRMを導入することで、住宅価格が下がった場合には、貸し手はダウンサイド・プロダクションを借り手に提供して、住宅価格が上がった場合には、借り手は5%のキャピタル・ゲインを貸し手に提供する。これにより、住宅価格暴落による債務者の債務増大に歯止めがかかり、景気回復後に住宅価格が上がったときに、債権者はキャピタル・ゲインを受け取れるので、双方が泣き寝入りせずに済むという。

以上が、本書の概要である。「政府黒字の裏側で民間赤字の増大が同時に起こり、それがやがてバブル崩壊による信用収縮を引き起こす」というのがMMTの議論であるが、主流派でも似たようなことを主張している人たちがいるのが興味深かった。最も、MMTerたちは「そんなことはミンスキーが遥か昔か主張している。何も新しいものはない」と言いそうだが。本書では数多くのデータが引用されており論証も手堅い。第６章では、住宅供給が弾力的な土地と非弾力的な土地の住宅価格上昇の比較検討から、鮮やかにアニマル・スピリッツ説が反証されており、社会科学のお手本のような本である。トマ・ピケティの「21世紀の資本」の邦訳が出た同じ年の2015年に本書の邦訳が出た。ピケティ本の影に隠れてあまり話題にならなかったようであるが、ピケティ本と同じくらい重要な本である。必読。