紙の本
現実を冷徹に見据えた社会派作家として気になっていた著者の未完遺作。
2017/12/11 10:52
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投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実を冷徹に見据えた社会派作家として気になっていた著者の未完遺作。1988(昭63)年7月23日の“なだしお事件”が題材ということで、自衛隊の存在を問う話かなと思ったが、著者が残した全3部からなる「構想メモ」を見て、もっと深い内容だと知った。それは、著者の執筆にあたって」(2013年7月)に明確に記載されている、「戦争をしないための軍隊」(378)という思想である。89歳という高齢と、疼痛症(筋筋膜性疼痛症候群)という難病を抱えながら、実に難しい問題に正面から立ち向かった著者の熱意に頭が下がります。是非、完結した作品を見たかった反面、この問題は日本国民全てが考えるべき問題であり、巻末に収録された<『約束の海』、その後;P-383~P-411>という、山崎プロジェクト編集室&秘書:野上孝子氏などがまとめた、今後の構想予定から自分なりに考えてみる方が良いのかも。
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事実に基く一流のフィクション
2019/11/30 01:09
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投稿者:magoichi - この投稿者のレビュー一覧を見る
事実をいたずらに曲げずに、フィクションとして読ませる、山崎豊子の真骨頂。
実際の潜水艦と遊漁船の海難事故を善悪の切り口でしか報道できなかったマスコミに比べ、双方の事実を掘り起こす観察眼と筆力は素晴らしいの一言。
遺作となってしまったが、最後まで読みたかった。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品は第1部が完結しているが未完であるのは違いない。しかしながら著者の読者への問いかけはそれゆえに強烈とも言える。何気ない日常の描写でさえ意味がある。考えさせる大作である
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完成版を読みたかった!
2020/08/22 07:59
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投稿者:makiko - この投稿者のレビュー一覧を見る
海上自衛隊の潜水艦が民間の漁船と衝突して30人の死傷者を出した事故と、太平洋戦争の真珠湾攻撃で捕虜になった人の戦後が描かれている(描かれていくはずだった)小説。著者の死去により、3部構成のうち第1部のみ完結で、残りは取材や構想メモから推測されるあらすじが書かれているだけ。きっと完成していればとても面白い小説になっていたと思う。第1部だけでも、自衛隊の置かれている立場について考えさせられ、山崎さんの小説は単なる娯楽ではなく社会に問いたいものが明確になっていると感じた。
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山崎さん残念
2016/11/26 17:11
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投稿者:hirotoshi - この投稿者のレビュー一覧を見る
不毛地帯、沈まぬ太陽等で山崎豊子さんの筆力には驚かせられてきましたが、もう新作が読めないのは残念です。これも最後の長編ですが、まだまだこの先があったはずなのに、最後がやはりスッキリ感がイマイチです。いかにも本を読んでいる充実感を与えてくれるのは、今までの作品同様ですので、皆さん読んでおくべきです。
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巨匠の遺作
2021/12/01 05:59
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投稿者:道南 - この投稿者のレビュー一覧を見る
山崎豊子さんの遺作を今さらながらに読みました。
海難事故、海難審判、山崎作品のヒロインの職業にはあまりなかったかと思われるフルート奏者の描写…一気に引き込まれ、読了しました。
第一部は完結していますが、海難審判の行く末、主人公のハワイ行き、捕虜第一号の父親のエピソードなど、残された構想はまだまだこれからというところで、未完となったのが惜しまれます。
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1988年の「なだしお事件」がモデルなんですね。圧倒的な取材力はさすが。
ただただもう、著者の作品が最後という想いだけで読んでました。第1部が完成し、本当は何部構成を想定していたのか。続きが読みたくても読めない辛さ。
これまで、どれだけ山崎豊子作品に心を動かされたことか。主人公と一緒になって憤りや葛藤し、絶望したことももちろん感動したことも多々。著者の作品で戦後の歴史を知ったといっても過言ではない。今自分がここまで本が好きになった理由の一つは豊子先生です。これからも、大事に大事に再読していこうと思います。
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山崎豊子の絶筆が文庫化されたというので、溜まっている積読は気にせずに、先に一気に読みました。
葛藤の心の機微を描くさまは、さすが山崎豊子。
話がこれから大きく展開するっていう第一部だけで終わってしまったのが非常に残念。
残されているシノプスが巻末に収録されているけれど、最終的にどういう風に描きたかったんだろうかと、空想も膨らむ。
駐在時代に戦争三部作とか代表作は読んだけど、また読み返してみたいなと思う。
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作者没によって話の途中で終わってしまった小説に出逢ったのは2作目… 事前にわかってたら読み始めなかったのに。ドラマ鑑賞などでなく、山崎作品をまともに読んだのはこれが初めて。サスペンスでもないのにしっかり取り込まれてしまい気付いたら朝だった――という、本の虫としての至福の時が味わえる。
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いつの年も夏休みは終戦記念日と重なり、たまにはこうしてその時期に合わせ戦争や国防ということについて考えるものだと、山崎豊子の未完の遺作となったこの本を手に取る。
1989年を舞台にしているが、主人公が大学を出たのは1980年ということで、私とはほぼ同年代という設定になる。
私の高校の同級生でパイロットを目指して防大を受験した者もいたが、頭脳明晰に加え体力頑健でなければ通らない難関であったと記憶する。
そこを出て潜水艦乗りのエリートとなった花巻朔太郎二尉の今と過去を追いながら、1988年実際に起こった「なだしお事件」を思わす衝撃的な民間船との衝突事故とその海難審判を中心に描かれる。
尊敬する上官・先輩や同僚との強い絆がある一方、事件に絡めば海千山千の弁護士やいけ好かない同輩が跋扈し、秘めやかなロマンスも塗した物語は、王道とも言える展開を見せる
国民には理解され辛い自衛隊の存在意義、事故が起こればここぞとばかりに叩くマスコミ、事故に対する自責の念も含め揺れ動く主人公の心。
戦没者追悼式での安倍首相の言葉に違和感を抱き、憲法9条を貴重な条文と思いながら、最近の尖閣諸島を巡る中国の行動にも何も出来ない現状を見ると、作者が“執筆にあたって”と記した文章に深く首肯する。
曰く『戦争は絶対に反対ですが、だからと言って、守るだけの力も持ってはいけない、という考え方には同調できません。いろいろ勉強していくうちに、「戦争をしないための軍隊」、という存在を追究してみたくなりました尖閣列島の話にせよ、すぐにこうだ、と一刀両断に出来る問題ではありません。自衛隊は反対だ、とかイエスかノーかで単純にわりきれなくなった時代です。そこを読者の皆さんと一緒に考えていきたいのです。今はその意義を再び考え直すタイミングなのかもしれません』
真珠湾攻撃時に米軍の捕虜第1号となった花巻の父の物語が詳らかになり、紛争の火種となりかねない東シナ海を先の戦争の犠牲者が今もって眠っている鎮魂の海として静かに守ることが出来るかを模索する筈だった第2部以降を読めないことを、とても残念に思う。
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山崎豊子さんの遺作。
自衛隊を描いている。
完結されなかった作品のため、一部で終わってしまっており、後半はシノプシスでまとめられている。
それを見るだけでも、相当に読みごたえのある作品になったであろうことが想像できる。
読みたかったなぁ。
2018.8.6
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海自の潜水艦乗りの主人公が、旧海軍士官の父の足跡や遊漁船との衝突事故などを通して、防衛のあり方や戦争と平和を問う、山崎豊子さんの遺作となった作品。
潜水艦の任務や内部描写など、とても細かく表現されており、いかに大変な取材をされたかが良くわかる。
そして“ただの平和ボケ”ではない、作者の平和への想いが未完でありながら良く伝わっているように思う。
「戦争は絶対に反対ですが、だからといって、守るだけの力も持ってはいけない、という考えには同調できません。いろいろ勉強していくうちに、戦争をしないための軍隊という存在を追求してみたくなりました」と作者は言っている。
ただ戦争反対を謳って終わりなのではなく、どうのようにして戦争を起こさないようにすれば良いか、それを良く考えさせてくれる作品であったからこそ、完結されなかったことは大変残念でならないと思うと同時に、よくぞ一石投じてくれたと思わずにはいられない。
衝突事故のシーンで「弔意を示す人はいない。写真を撮ったら後は知らん顔、あれは人間としてどうなのか。」とマスコミに対して遺族が語る場面がある。
恐らく取材の中か、もしくは作者がそういう場面を垣間見たのではないだろうか。
ぜひともマスコミの方たちにはこの言葉を肝に銘じて欲しいものだ。
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1988年に起きた「なだしお事件」をモデルに、自衛隊の潜水艦に従事する花巻朔太郎を主人公に物語が展開。この作品は3部作予定が作者の逝去により1部での発表となったようですが、巻末のシノプスを読むとこの物語の壮大さが伝わってきます。「戦争と平和」がテーマであるとのことで、自衛隊のあり方や現在の世界情勢も視野に入れて、憲法第9条の改正で揺れる今だからこそ、もう一度考えるよい機会となりました。作者の膨大な取材の量に圧倒され、返す返すもこの先が読みたかったと思いました。
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海上自衛隊の潜水艦「くにしお」と民間船の衝突事故は、過去最大の惨事となった。正義感あふれる主人公・花巻朔太郎は、多数の遺族を前に自責の念にかられ、自らの進退に悩む。一方的に海自側を批判するマスコミ。思いを寄せる頼子との関係はどうなるのか。
と風呂敷を広げきったところで、続きを読みたい気持ちが行き場を失う。2013年、山崎豊子は数々の名作(ほとんど読破した、してしまった)をこの世に残し、そして本作を最後まで書き上げることなく鬼籍に入られた。改憲の議論が高まる今だからこそ、最後まで読みたかったという思いと、最後まで読めなかった分著者が残してくれた問題に自分なりに向き合ってみようという思いが同時に押し寄せる。
『戦争は絶対に反対ですが、だからといって、守るだけの力も持ってはいけない、という考えには同調できません。
いろいろ勉強していくうちに、「戦争をしないための軍隊」、という存在を追求してみたくなりました。
尖閣列島の話にせよ、すぐにこうだ、と一刀両断に出来る問題ではありません。自衛隊は反対だ、とかイエスかノーで単純にわりきれなくなった時代です。
そこを読者の皆さんと一緒に考えていきたいのです。今はその意義を再び考え直すタイミングなのかもしれません。』
あとがきで、このような言葉を残されています。憲法を改正したら徴兵令が復活する、自衛隊の海外派遣は武力の行使だから違憲だ、そんな簡単なものなのか?とは常々思っていたこと。実際にあった「なだしお事件」から海自を一方的に批判したマスコミのようになってはいけない。感情的にならず、全体を見る目を養い、自分の国をいかにして守るべきか、平和への追求を忘れないでおこうと改めて思った。
本作で、海上自衛隊の潜水艦隊という存在とその役割に興味を抱いた。そもそも存在自体を全然知らなかったけれど、北朝鮮のミサイル問題をはじめ、今も国のために暗躍しているんやろうなあ。
知ることは思考の材になる。山崎豊子という尊敬する作家が残してくれたものを、自分の一部にしていこう。
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花巻朔太郎の今後、頼子との行く末、父の軍人としての真実、知りたいことをたくさん残したまま山崎豊子が逝った。