紙の本
秋はやっぱり読書でしょ
2011/10/16 20:06
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
芥川龍之介の短編に「秋」という作品がある。その内容はほとんど忘れているのだが、何故か物語の最後に主人公の女性が「秋―」とつぶやくシーンがあったことだけを覚えている。今度読み返してみて確かにその場面があった。
秋、とはそんなつぶやきのような感じが似合う。
「百年文庫」第4巻は「秋」というタイトルで、芥川作品以上に秋らしい作品が3篇収められている。
志賀直哉の『流行感冒』、正岡容の『置土産』、そして里見とんの『秋日和』。読み終わったあと、思わず芥川の作品の主人公のように、「秋―」とつぶやきたくなるような名品ばかりである。
志賀直哉は「小説の神様」とまでいわれた作家だから、多くの人は国語の教科書などでその作品を読む機会があったのではないだろうか。その作品の多くは私小説で、この『流行感冒』もそのひとつ。
最初の子供を亡くした主人公の「私」は娘の健康にすこぶる神経質になっている。ある時、流行性の感冒が流行り出して、娘に罹ることを恐れた「私」は女中たちにも余計な外出を禁じる。ところが「石」という名の女中がこっそりと芝居見物で抜け出してしまう。
神経質な「私」と田舎者の鈍な女中。ともに相容れないながら、いつしか「私」は「石」の素朴さを認めていく。「石」という田舎娘の個性が見事に描かれている好編だ。
正岡容の『置土産』は講釈という芸人の世界を描いている。
若い講釈師万之助が芸を学ぼうと近づく師匠はぬらりくらりと芸の伝授を先延ばしする。そのつど、万之助は師匠の借金の肩代わりをするはめになる。
この師匠のコミカルな話術がまるで舞台の演技そのもので、読む者を愉快にする。いつしか万之助と同じように師匠に強くひかれているのを感じる。
のどかといえばのどかだし、宵越しの金は持たないといった江戸っ子の粋な感じがよくでている。
里見とんの『秋日和』は小津安二郎によって映画化された作品。主人公の秋子は原節子が演じた。
未亡人の秋子には一人娘のアヤ子がいる。適齢期を迎えた娘にどう結婚に気持ちにさせるか。秋子だけでなく、亡き夫の友人たちが奔走する。
里見と小津は同じ鎌倉に住み、仲もよかったという。最後には嫁いだ娘の幸福に満足する秋子の頭上にひろがる、秋の空。
いずれの作品も、読書の秋にふさわしい、一級品である。
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里見弴の「秋日和」、読みながら「これ、小津安二郎の映画みたいな小説だよなあ」と思いつつ、解説を読んでびっくり!実際にこの小説を小津安二郎が映画化したとのこと。
知らなかった。小津安二郎って、この小説のような雰囲気が好きだったんですね。
とりあえず、ポプラ社刊の「百年文庫」のうち1冊を読了。
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志賀直哉『流行感冒』
娘が感冒にかかるのを神経質に心配する父とお手伝いの娘、家の中のお互いの心の機微
正岡容『置土産』
そのまま落語の小噺のような師弟関係
里見弴『秋日和』
それぞれちょっとおせっかいだったりもする人情が心地よい一品
小津により映画化されたのも納得(某gooの映画紹介ではなぜか原作者「さとみ・じゅん」となっていたが…)
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110428読了
タイトル町でもいいんじゃねとか最初思ったけど秋でよかったなあ、すがすがしいかんじが今思うと合ってるとおもうの
最初と真ん中がよかったなあ
あたたかくてやさしい話
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志賀直哉『流行感冒』、正岡容『置土産』、里見弴『秋日和』の3篇を集録。
一番好きだと思ったのは、芸人小説の『置土産』。
破天荒な師匠に振り回される弟子の様子をコミカルに描いた文章のリズムの楽しさと、後半にようやく芸を伝授する師匠の芸の美しさ・凄まじさにまつわる描写の迫力のギャップがたまらない。
強い師弟愛を感じさせる、主人公である弟子の正直な語り口もまた爽やかでよい。
本のタイトル通り、秋空のように爽やかな読後感を味わえた。
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志賀直哉「流行感冒」。このように主人の心の中を書き綴り、読み手を主人公と同化させる。逡巡する心の動きが、見た目が厳格であろう主人の風貌を想像するにユーモラス。
正岡容「置土産」。立ち上がりは退屈と思ったが、物語全体に引き込まれる。皆が明日をも知れずに精一杯生きた時代の物語。良い話です。
里見弴「秋日和」昭和35年頃の話。後段、主人公が入れ替わりながら心情を綴っていく。不自然さがなく、物語も淡々と進んでいく。
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『流行感冒』志賀直哉
不器用な女中。そこそこ。
『置土産』正岡容
猫の落語。いまいち。
『秋日和』里見弴
姉妹なような母娘。娘の結婚。まあまあ。
あまり印象に残らない三作だったな。
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「置土産」は、小学生のころに読んだ、おもしろい昔話のような作品。大丈夫金の脇差、という表現を初めて知り、今度だれかに使ってみます。
「秋日和」は、映画にもなってるそうなので、そっちも見ます。
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志賀直哉の「流行感冒」が一番好きだ。
読みやすく、感情移入しやすい。
やりすぎなほど、病気を警戒する様子や、石に対する猜疑心が、とてもすんなりと感じられた。
終わり方もよかった。
「置土産」も、とても楽しく読めた。
如燕の飄々とした感じが印象的だ。
もちろん、身近にいると、相手をするのが大変だけれど、魅力的な人物だ。
病床で教える猫の演技の描写も、比較的さっぱりと描いているけれど、目の前で繰り広げられているかのような臨場感を持って読めた。
楽しかった。
「秋日和」は、ちょっと読みにくかった。
題材も、それほど興味をそそられなかった。
男が描く女の物語って、ちょっと違和感が残ることが多い気がする。
そんな、ちょっとした違和感を感じた。
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秋といえばこの3作品、にどうしてなったのかはさておき、著作権フリーとかあるんかな。中でも志賀直哉、正岡容の2作品は突っ張ったところのない、ウォーミングなお話で、小説というと肩肘張りそうになるところで、人間の嫌疑とか、いやらしさとかに、最後は人情が勝るという作品を書けるところが著名人が著名たる所以だと思いますね。もちろん、それとは反対の姿勢を貫く太宰治みたいな人もいますが…3作品目はイブモンタン出てくるしね。しかし名前が「いるる」に「とん」だもんね。読めん。
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『流行感冒』志賀直哉
教科書で読んだことがあったか「小説の神様」。私小説=心境小説とのことだが、まさに。平凡ながらもリアルな心情をたくみに描いている。どこが面白いか分からんところもあるが、子の病気を心配するってのはいまの自分にはいかにもリアルではある。オダサクや太宰からは批判されてたのね、よく分からんが。1919年発表。これはスペイン風邪か?
『置土産』正岡容
セリフの調子がたまらない。オチまでついて落語のよう。寄席評論家として安藤鶴夫と双璧だったらしい。うん、これはすばらしい。
『秋日和』里見とん
最後の白樺派だとか。小津映画の原作になった作品。小津映画自体見たことないのだがナルホドと感じる。少し女性の語りが伝法すぎやしないかとも思ったが。しかしこれ作者が70歳越えてからの作品なんだよね。多視点ってあたり技巧を振るっている。
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どの話も普通の人のありふれた日常が描かれ、ほっとさせられる。美しい国、日本‥‥なんてフレーズを思い出してしまった。
このシリーズは短時間でスラッと読めちゃうので、隙間時間を埋めるにもちょうどいい。
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どの話も読後感はさわやかで、嫌みがない。
『流行感冒』については、どうしても今の時代と重ねてしまうが、
人間、考え方も行動も、そんなに変わっていないよなぁと思う。
どこまでも神経質な主人公だが、完璧にはなれない人間を
受け入れるあたたかさはどこかにあり、それが人間臭くてよかった。
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百年文庫4冊目。
どこか牧歌的で濃密にも感じる人間模様。
憧れる気もするし、少し濃すぎにも感じる。
作品は凄くよかった。
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#読了 NHKでドラマ化した志賀直哉の「流行感冒」が読みたくて。ドラマも面白かったけど、やはり小説でも面白い。今も昔も、流行感冒に対する人の動きって変わらないんだなぁ。
正岡容は存じ上げず、初めて読んだ。小説の題材そのままのような軽快なお話だった。師匠が病床で猫をやってみせたけど、その描写はわずかにも関わらず眼に浮かぶようだった。
里見弴の「秋日和」は、周りのおせっかいにイラッとさせられながら、きっとその当時はこういうおせっかいをする人情がそこかしこにあったんだろうなと、少し寂しさを感じると共にあったかい気持ちにもなった。