「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
人間は自然に対して愚かだ
2011/04/16 06:52
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今回の東日本大震災でもそうだが、自然の力というのはとても怖ろしい。人はつい傲慢にもそのことを忘れてしまう。強い自然の中で私たちも動物たちも生かされていることを忘れてはいけないのだ。
百年文庫の20巻めは「掟」というタイトルがつけられ、動物と人、自然と人、そして人と人との関係を描いた3作が収められている。
生きていくことにはしばしば「掟」が定められている。それはこの地球が誕生した時からあらゆるものたちが生存するための約束事であるはずだ。ここに収録された3作はそのことをじっと見つめている。
秀逸なのは、厳寒のアラスカの森に無謀にも立ち入った一人の男の悲劇を描いたジャック・ロンドンの『焚火』だろう。
極寒の日には一人旅などするものではない、という村の老人の意見を聞くこともなく森に入り込んでいく男。次第に手足は麻痺し始める。それでもまだ男は自然の恐ろしさに気づかない。焚火の暖さえとれれば寒さをしのげると思っているのだ。ようやくついた焚火に木のたまった雪が落ち、唯一の暖は一瞬にして消えてしまう。まだマッチはある。しかし、すでに男の手は感覚さえなくなっている。そばにいるのは一匹のエスキモー犬だけ。男にあるのはただ死。
これほどに冷静に死を描いた作品も珍しいのではないだろうか。
片時も目を離せなくなる。愚かな男の過信を私たちは笑うことができない。自然を、あるいは経験を侮ることの恐ろしさを改めて感じる。
戸川幸夫の『爪王』は鷹と赤狐の死闘を描きつつ、鷹を育てる古老の鷹匠の意地にも焦点をあてる。
この物語の主人公たる若鷹「吹雪」の誕生から親離れまでの前章がいい。戸川の畳みかけてくるような短文のリズム感が記録文学のようなリアリズムを醸し出している。
『谷間の百合』などで有名なバルザックの『海辺の悲劇』は、観光気分の男女を震撼とさせる父と子の関係を描いている。
人間には踏み外してはいけないことがある。それが人間の掟として厳然とあるのだと、バルザックは描きたかったのだろう。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。