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紙の本
職業の物珍しさもさることながら、働く人を支える家族や友人の存在に強く魅かれた
2005/05/31 11:37
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
俗曲師、銭湯絵師、街頭紙芝居師、能装束師、席亭…。昭和の頃まではまだ街なかで見かけることがまれではなかった日本的職業11種(+真剣師)に今も携わる人々を取材したルポ。著者がいうところの「絶滅危惧種」である職業に携わる人々は皆、私のような給与所得者とはおよそ縁遠い、起伏に富んだ人生を辿っていることが描かれています。
本書で印象深かったのは、彼らの浮沈の激しい人生を静かに支えてくれる家族や仲間の存在です。
幇間・悠玄亭玉八には小学校の校長を務める妻がいて、こんな風に胸を張ります。「これまで夫の職業を隠したことは一度もありません。(中略)自分の身ひとつで人を感動させたり、充足感を与えることができるんだもの。私にとって誇りです、夫の職業は」。
野州麻紙漉人・大森芳紀には二人三脚で麻紙作りに取り組んだ妻・淳子さんがいます。麻紙制作に成功したことを大森が淳子さんに知らせる葉書の挿話には心打たれました。
真剣師・大田学には、金に苦労する息子を黙って支え続けた母がいました。母が亡くなった時その布団の下から出てきたある物は、哀しいまでの母の深い愛情を示しています。
こうした周囲の人々の支えがあってこそなのは、なにもこうした絶滅の危機にある職業ばかりではないでしょう。家族の理解、上司や先輩の励まし、友人の支援。どんな職業に携わる人々にも支えてくれている人がきっとどこかにいるはずです。あなたにも、そして私にも。
本書内の職業が30年後も残っているかどうかは残念ながら怪しいといわざるをえません。本書がやがて、昭和から平成の初期に姿を消した職業図鑑のような存在になってしまうのもやむをえないでしょう。
それでもこれが、人と人との温かい結びつきを見せてくれる書として編まれている点を、私は評価します。職に就くというのは、そうした支援をしてくれる人々にゆっくりと出逢っていくことなのかもしれません。
紙の本
職業外伝
2005/05/16 14:50
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:多忙は怠惰の隠れ蓑 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「職業外伝」。この本は表紙と帯が目に留まって手にした本です。
伝統ある企業やロングセラーの商品を取り上げた本や、テレビの特集は比較的多いですけど、この本で取り上げているような「絶滅危惧職業」を取り上げた本は、そうはなかったと思います。
2003年に村上龍が「13歳のハローワーク」を出したときも、「へ〜、世の中にはこんな仕事もあるんだな〜」と、感心しながら読んだんですけど。まぁ「13歳のハローワーク」は「小中学生に向けた職業ガイド」というタイトルが一人歩きしてしまいましたが。。。
この「職業外伝」は飴細工師、街頭紙芝居屋、見世物小屋、といった今ではもう見かける機会もなくなってきている職業と、今現在、実際にその職に従事している人たちにインタビューをして構成しています。
ざっと読んでみて印象に残ったのは──こんな「職業」があったんだ!
ほんと、テレビのドラマで垣間見るくらいでしか知らなかった人びと。
当たり前のことかも知れませんけど、「仕事」って「職業」ですし、そこには「ひと」がいるんですよね。
目次から紹介されている職業をざっと上げてみます。
・飴細工師→ 専門の生業としている人の仕事はまさに神業の域です。
・俗曲師→ 俗曲師は「伝統的な歌舞伎曲を三味線をつま弾きながら唄い、踊る」芸人さん
・銭湯絵師
・へび屋→ へび屋は文字通り、まむし、コブラ……蛇全般に通じた職業。漢方薬、薬膳にも重用しますね。戦後しばらくは都内に30数軒のへび屋があったそうです。
・街頭紙芝居屋
・野州麻紙紙漉人(やしゅうまし かみすきにん)→ 野州は今の栃木県。大麻を原料にすき、紙を作る職人。大麻っていうとネガティブなイメージがありますが、本来の大麻は幻覚作用は弱いんだそうです。むしろ欧米産の大麻が麻薬用に品種改良されたものだそうです。
野州麻(やしゅうあさ)は神社のしめ縄や相撲の化粧まわしなど伝統芸能に欠かせない素材だそうです。
・幇間(ほうかん)→ 読めない漢字だし、知らない言葉でした。宴席で遊客の機嫌を取り、場をにぎやかにする仕事。たいこもち、男芸者のことだそうです。
・彫師→ 若い子が入れたがるタトゥーではないです。イレズミ師ですね。ここに登場する山本さんは昭和49年生まれのハマっ子です。
・能装束師
・席亭(せきてい)→ 席亭とは、寄席や落語の主宰者のことだそうです。江戸の風情を残す数少ない寄席、新宿末廣亭の三代目席亭、北村さんが寄席のプロデュースのコツを伝えてくれています。
・見世物師→ サーカスから移動動物園を経て、見世物小屋に行き着いた大野裕子さん。日本で最後の見世物師と言われています。
番外編として、真剣師となっています。
東京芸大中退の飴細工師、バレリーナと看護婦が夢だった俗曲師、60歳を超えたいまでも現役の銭湯絵師、大正元年創業の由緒あるへび屋、昭和3年生まれの紙芝居屋さん、能装束師の山口さんは明治37年生まれ。番外編に登場する真剣師、大田さんは90歳。
ところで真剣師って何のことだか分かりますか?
本文中では、その強烈な生き様が描かれています。
ここではあえて触れないので、ぜひ読んでみてください。
それぞれの職業の背景や、周辺知識を解説したコラムも充実しているので知らない世界も割りとすんなり読めます。
情報通信が発達している今の日本の中で、ともすれば風化し、消えてしまう危うさを、この本に登場する誰もが持っています。
それでも、この現代の中で懸命に生きている人たちの息吹を、この本を通じて触れてみていただければ、と思います。
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