紙の本
ポーランドに生まれたカフカの息子
2006/10/21 16:47
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実の本質とは「意味」であり、われわれに与えられた現実をその「本質(=意味)」に到達させるのが、現実の神話(物語)化としての「文学」という芸術なのだ、というシュルツの芸術論は、ほとんど逃避的に見える彼の作品の幻想性を、マイナスのカードをすべて集めることによってプラスに転ずるようなものとして彼が書いていたのではないかと考えさせてくれる。私はそのような文学観にはいまひとつ共感できないのだが、しかし彼はいかにも若くして去ってしまった。夭折が惜しまれる作家だと思う。しかしそういった理論は理論として、彼自身が故国に紹介したカフカを思わせ、さらにその可能性を彼とは少し違ったところで少しだけ押しひろげてみせたような作品群は、ごく普通に読んでとても面白い(父の表象の素晴らしいことといったら!)。
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グロテスク・レアリズム。ヨーロッパ古典文学におけるもっとも野蛮な手法は、ナチズムによって揺るがせられ、物語は再び、豊饒化する。が、戦争が物語を生むのではない。それは、あらゆる戦争の賛美者が、特に一方的な勝者の側が捏造した美談である。それは談話の部類でしかない。物語は物を語る。物そのものを語る。あるいは物そのものが語る。シュルツのレアリズムは、その意味で徹底している。戦争を呪詛する。
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皆川博子がファンということで読んでみた。やや純文学寄りの幻想小説集。各編は10ページ前後で終わるものの長々と硬い文章が続くせいか読みにくい。どこにあるともしれない裏通りの店を探る「肉桂色の店」「大鰐通り」、読書の際の恍惚感を描く「書物」、一目ぼれした少女との邂逅と切手帖の歴史上の人物の話からとんでもないところへ飛躍する中編「春」、子供の頃の秘密基地を思い出す「夢の共和国」などモチーフとしてはいいだけに短く研ぎ澄まされた表現ができていたらと思った。皆川博子の”明るく狂っている”感じ(これに関してはどこかユーモラスな叔父一家について書かれた「ドド」が該当するくらい)や華美な文体を求めると期待から外れてしまう。後半の第二短編集、砂時計サナトリウムの方が作者自身の一家にそれほど拘らない虚実のバランスが取れた話が多く読者として話の世界に入りやすかった。なお、巻末エッセイでは父親との物語に決着が付く「父の最後の逃亡」の結末が明かされているので注意。
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イマジネーションが新たなイマジネーションを生み出し、それがさらに鮮やかなイマジネーションへと昇華されていく重厚な世界。時に醜悪に、時に繊細に、閉じられた空間は膨張し、別の空間を生成する。文学表現の自由と可能性を感じされてくれます。巻末のシュルツの生涯はとても興味深いです。この本が出るまでシュルツ作品は高価な全集しかなかったので、文庫として出版されたときは「いつもそばにおける!!」と、とても嬉しかったです。
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文体が好き。美しい。
中でも『肉桂色の店』は良作小品。
個人的には読み進むのがもったいないくらい、一文一文感心しながら読めた。また時間見つけて再読しよう。
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色彩の氾濫
精緻な情景描写
比喩に次ぐ比喩
狂った宗教と哲学
精神病
グロテスク
まさに現実の神話化。
言葉で感想を表現しづらい小説です。
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足フェチで宝くじに執心しゲシュタポの銃弾に倒れた田舎の美術教師、シュルツの作品集。
父が突然あぶら虫になったり、アデラの指に襲われたり。
暗い夜の舞台に、極彩色に浮かび上がる幻想的なお話たち。
因果は意図的にぼかされ、誰も掴み得ることはない。
とにかく変ってる。
これ読んだ後暫くは淡い話読めないかも、てくらい厚くて濃い。
『大鰐通り』はブラザーズ・クエイの名アニメ、ストリートオブクロコダイルの原作。
何も直接的でないけどグロテスク要素を感じるのはStreet of Crocodilesの影響?
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ここまで徹底して過剰で狂っている小説は初めてかもしれない。「八月」の強烈な美文から始まり、幻想というよりも幻視に近いメモリを正確にひとつずつ刻むような(そのひとメモリの間を顕微鏡で覗くととんでもなく色彩豊かで豊穣)描写に引きずられる。たった一言でも読み逃したら迷子になる。ポーランド・アヴァンギャルド三銃士とか言われているらしいが、アヴァンギャルドとかいう次元超えてます。
「マネキン人形」「疾風」ではヘーゲルのようなことを言っていると感じた(でも狂ってる。そして私はヘーゲル読んでないからアガンベンからの孫引き)。
とにかく衝撃的な読書。「春」とか本当、読んでいるうちに気がどうにかなるんじゃないかと思った。
「八月」「肉桂色の店」「疾風」「あぶら虫」「大いなる季節の一夜」「書物」「父の最後の逃亡」が特に気に入った。「八月」は読んですぐ再読した。衝撃の出会い。