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ずっとお城で暮らしてる みんなのレビュー
- シャーリイ・ジャクスン (著), 市田 泉 (訳)
- 税込価格:726円(6pt)
- 出版社:東京創元社
- 発行年月:2007.8
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文庫
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紙の本
「機会があれば、ほんとうに子供を食べられるかしら」
2009/04/04 21:30
9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:峰形 五介 - この投稿者のレビュー一覧を見る
村人たちに疎まれている二人の姉妹――コンスタンスとメリキャット。
コンスタンスは他者と接触することを恐れて屋敷にひきこもっているので、村に買い出しに行くのはメリキャットの役目。彼女に向けられる村人たちの視線は冷たい。心ない言葉をぶつけられる時もある。その度にメリキャットは物騒なことを考える。
「そもそもこんな人たちが生み出されたことに、どういう意味があるのかわからない」
「みんな死んじゃえばいいのに、そしてあたしが死体の上を歩いているならすてきなのに」
「みんな死んで地面に転がっていればいいのに」
メリキャットは「フシギちゃん」と呼ぶには不気味すぎる。しかし、怖いのは彼女ではない。いや、怖いことは怖いのだが、得体の知れぬ怪物じみた存在は距離を置いて見ることができる。
本当に怖いのは村人たちのほうだ。メリキャットと違って、彼らは理解しがたい存在ではない。どこにでもいる普通の人々だ。そう、読者と同じように……。
村人たちの悪意は読者の心に潜む悪意であり、村人たちの醜い行動は読者がいつか犯してしまうかもしれない(あるいは過去に犯した)過ちなのだ。
終盤、悪意の発露が集団ヒステリーの様相を呈し、村人たちは暴徒と化す。ここまで極端なことになると、読者は逆に安心できるだろう。狂った暴徒たちをメリキャットと同じような怪物と見做し、「俺の中にも悪意の種はあるけど、ここまで非道なことはしないよ」と思い込むことができるだろう。
ところが、そんな安易な逃避を作者は許さない。時が経つと、村人たちはしおらしくなり、姉妹に許しを乞い始めるのだ(卑怯にも匿名で)。こうして、読者はまた思い知らされる。村人たちが卑屈で非力で臆病な「どこにでもいる普通の人々」であることを。自分自身の姿がそこに映し出されていることを。
ああ、怖い、怖い。
ちなみに書評のタイトルはメリキャットが口にした言葉。
それを聞いた姉のコンスタンスはこう答える。
「料理できるかどうか、わからないわ」
紙の本
表紙がまるで<妖精写真>
2016/07/03 17:41
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
<あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。 姉のコンスタンスといっしょに、他の家族が皆殺しにされたこの屋敷で、ずっと暮らしてる・・・>
そんな冒頭の文を見ちゃったら、読まないわけにはいかないではないか。
「あたし」の語りで進む話はいかにもほのぼのタッチに始まるが、次第に人々(勿論「あたし」も含め)の悪意や狂気がほの見え、交錯し、爆発する。 けれど、「あたし」がほんとうのことを語っているのかどうかの証拠はどこにもない。 読み流してしまいそうな文章の隙間に、深淵がひそんでる。
そしてまたほのぼのタッチに幕を閉じるが、それは勿論見せかけである。
かなり薄い本なのであるが、一ページを読む時間が他の数倍かかった。
全開の悪意なのに世界は美しく、人間は醜いのに少女たちはあくまでも無垢。
二律背反しそうな命題を、綱渡りではなくきっちりと描きだすすごさ。
それを一語たりとも読みこぼしたくなかった。