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回送先:府中市立白糸台図書館
上野千鶴子の退官に合わせてかつて彼女に指導賜った学生さんたちによる「上野の著作を総括する」という試み。当然総括なので、上野によるリプライがついていることは言うまでもない。
主編者の千田によれば、このような退官記念(やアニバーサリー記念)の論集は往々にしてその教員を「ヨイショ」する内容になりがちだという。確かにこれは高等教育機関における最終講義なるものでは顕著な傾向であり、特にその教員が何らかのセクトに属した過去があるならばそのセクトの構成員が集結するという文字通りの「最悪の展開」に至ってしまうのはこれまでも何度か見てきた。
かかる状況を踏まえた上で本書を見る。上野の学術書が変遷してきた流れを大きく3つに分けたうえで、それぞれの教え子が論じるという中身になっており、最初に80年代の「女という存在」、ついで90年代の「国民国家とジェンダー」、そして2000年代の「ケアとジェンダー」という3つに大きく分類することができる。
共通しているのは、一般書としての知名度が高い本や『家父長制と資本主義』に代表されるような「マルクス主義フェミニスト」としての上野千鶴子というある意味ではラベリングされやすそうな箇所をはずしていることも評価できようか。
難点を言えば、98年に刊行した『サヨナラ、学校化社会』を用いた原稿がなかったことだ。これについてはちくま文庫で文庫化した際、北田暁大が解説を記しているが彼の解説では不十分だったことに由来する。門外だといえばそれまでかもしれないが、インターディシプリンの観点から論じてもよかったのではなかろうかと思う。