紙の本
謎の主人公と密偵Qの長い物語の終わり
2018/05/18 00:38
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
上下巻とおして結構なページ数だったが、読後感は以外と悪くない。
主人公は遂にヨーロッパを追われ、協力者たちとイスタンブールへ脱出する。かの地でまたもヨーロッパの権威と戦いつつ、新たな事業(コーヒーハウスの経営らしい)を手がける彼らたちには正直脱帽というか、突き抜けたものを感じる。
ひとつ気にかかるのは、著者がなぜこの宗教戦争の時代を描こうとしたかということだ。目次も次の地図のページに書かれている文章から、この混乱の16世紀が現在と密接にリンクしていることを主張しているようだが、ただいつの世にも絶えない権力者たちの策謀、情報操作、弱者への弾圧などを非難するのになぜ16世紀なのか?
これが書かれた1999年は、イデオロギーの対立に取って代わり宗教上の対立からくる紛争が拡大しつつあるターニングポイントだったからではないか。
しかしこの小説に描かれることと同様、その根っこは宗教上の対立ではなく資本主義国家の搾取とそれに乗り遅れた国々がいだく不満が招いた軋轢なのだ。
そしてテロや報復の爆撃・・・と現代は16世紀を大きく上回る不幸を撒き散らしている。
こうした状況の中我々は主人公のような潔さを示せるかと問われているのではないか。
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下巻。
かなり複雑な構造で長いのだが、殆どそれを感じさせなかった。
訳者あとがきに作品の成立過程がざっと説明されているが、こちらもなかなか面白い。
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上巻は前後する時制に最初は戸惑う。覚え辛い固有名詞も多く、宗教改革が主題なだけに教義や聖書からの引用など、読者に知識的下地がないと真の理解には達しないのかもしれない。だが、エンターテインメントとしては自分にでも充分にたのしめた。各章の始めに日時と場所が示されていた事が非常に助けとなった。何度も既読章を読み返し、辻褄を合わせていく作業は大変だけど楽しかったし、Qの手紙(後半においては日記も)の挿入のされ方も絶妙だった。ローマカトリック教会による圧倒的支配が、中世初期にくらべて盤石でなくなってきている時代において、カラファをそこまで突き動かしたものは何だったのだろう。
また、主人公は毎回似て非なる教義に身を委ねているが、彼を突き動かしたのが権力への反骨精神であったのなら、Qは?自分の傍らで共に闘った忠実な部下としての日々が最も幸福な時間であったのだろう。他人の人生で闘っていたことが君の敗北だ。という主人公の言葉が、恐らくQの自認する真実なのだ。Q探しも読者として楽しかったが、時を経て再会する老いた仇敵同士の関係が心に沁みる。それにしても、なんと多くの命が失われたことか。
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16世紀宗教戦争を背景にした冒険活劇といった趣でとても面白かった。前半はドイツ農民戦争、再洗礼派の歴史重視、後半に進むにつれ宗教的対立を描きつつ、Qは誰なのかといったサスペンスの様相も呈する。とはいえ、ちょっと距離をおいて見るならば、ルーサー・ブリセット(現Wu Ming Foundation)というプロジェクトの自己言及的小説になっているようにも思った。Wu Ming Foundation→http://www.wumingfoundation.com/english/englishmenu.htm
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マルティン・ルターが開いた宗教改革の蓋。これが閉じられるまでの40年間に主人公は翻弄されることになる。ストーリーは3部構成で、第1部の農民戦争と第2部のミュンスターの反乱は、闘いと虐殺の物語。反乱軍に身を置く主人公の周りは常に緊張し、敗北と仲間の死を繰り返すことによって徐々に精神を消耗していく。この辺りは若干忍耐を強いられた。舞台をヴェネツィアに移した第3部では権力争いが中心となる。駆け引きと策略が絡み合い、Qの追走劇とも言える終盤も併せて、一気にエンタメ色が濃くなってくる。俄然面白くなる展開に、上巻を我慢して読んだ甲斐があったよなあとしみじみ(笑
固有名詞の波に押し潰され、また宗教改革を咀嚼できないまま次の新たな局面を迎えたりと、決して読みやすい作品ではない。しかし行間から伝わってくる熱波は容易に撥ねつけられるものではない。描写は無駄なくシンプルで、常に目の前の展開を淡々と綴ってあるだけだが、主人公を含め、彼が関わるキャラクターたちには魅了された。特にヴェネツィアで出会うピエトロは最高で、彼の、「好奇心ってやつよ、物語がどう終わるのか知りたがるあの図々しくて頑固な好奇心。」──この一言は主人公だけじゃなく、読み手の私にも響いた。まさにこの好奇心があったからこそ、これだけのボリュームを読了できたのだろう。
こうなったらいい、と望んだ結末ではなかったけれど、いろんな意味で緊張感から解き放たれたラストには感慨深いものがあったかも。カラファをターゲットにした続編を読んでみたい。
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ミュンスターの地獄でも生き残り、小人の本屋とヴェネツィアへやってきた主人公は改宗ユダヤ人の銀行家と出会い、またカトリックとの闘いに踏み出す。
いよいよQと主人公が近づきます。スパイの存在を知り、おびき出したい主人公。
年をとったQは黒幕カラファの主戦力から外される屈辱の中、主人公の足跡を辿り正体を探ります。
情報戦が激しく、些細な事で極が変わるような緊迫感と、主人公の力任せの情熱が、金の力が加わり頭脳戦へ変わっていくのが、面白い!
ルターから始まる宗教戦争を動かした名前の無い二人の物語。
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16世紀前~中期のドイツを中心とする欧州での宗教改革運動が舞台。
運動といっても、実質的には一揆、革命であり、カソリックともルター派とも袂を分かった都市住民が一時的に自治を獲得するが、内外圧力から崩壊していく。
世界史の教科書ではルターが宗教改革の主役のように書かれているが、本書でルターは一定の地位を確立した後は教会の影響を嫌う諸侯と結びつき、草の根の宗教改革運動を抑圧する体制側として描かれる。
本書は、数十年間に起きたいくつかの反乱を舞台とするが、表裏2人の主人公(架空の人物)を深く絡ませることにより、一連の反乱が共通の根を持ったものであることを明らかにするとともに、500年以上前の出来事に臨場感を与え、複雑な登場人物の機微を描くことに成功している。
世の中の出来事は、それぞれに大義名分はあるものの、行き着く所は名誉、権勢といった個人の欲望であることが良くわかる。支配層にとっては、自らの宗派がカソリックであってもルター派であっても、自らに利するものでありさえすれば、拘りはなかっただろう。恐らくそれは、現代においても同様と思われる。
本書は4人による共同作業というが、一連の流れに違和感はなく、むしろ良く計算された構成に結実している。
一連の舞台の中に、再洗礼派によるミュンスターの反乱が出て来るが、反乱鎮圧時には反乱側の男性の殆どが殺害され、首謀者3人は拷問の後に処刑され、死体は教会の塔に吊るされた3つの檻に入れられ見せしめにされた。
檻は反乱から約600年を経た今もそこにあるという。
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いや、これすごいわ。ガイブン好き、西洋史専攻卒、ツボはまりまくり。しかも、負ける話。力のある人間が奮闘するんだけど、運命だったり集団の狂気だったりに負ける。敗色濃厚とわかりながら必死で戦いそして負ける、飯嶋和一の「神無き月十一番目の夜」みたいな雰囲気、大好き。勧善懲悪とかヒーローが苦労はしても最後には勝つとかイラネ。で、第一、第二パートの暗さに比べて第三パートは華やか。塩野七生の朝日文庫の三部作みたいなノリ。ユダヤ人富豪一族とか娼館とかの装置もね。これはこれでベタやけど嫌いではない。いや、ホンマ今年ガイブン当たり年やわ。投票モノ迷うな。翻訳モノは票数少ない分当確ライン激低やから一票の責任が重い。本屋大賞とか。そもそも翻訳部門あるんかどうか知らんけど。
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上巻に比べると読みやすくなったが、全体的に難解なのは変わらず。やはり宗教改革やこの時代のヨーロッパの情勢がしっかりわからないと理解しにくい。最後の終わり方もこれが史実へのつながり方なのかもしれないが、中途半端。
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結局『Q』が『007』ってことか?
登場人物が多すぎて、頭がついていけなかった。
どうも文章にのめり込めない。
本文とはあまり関係ないが、イスタンブールのスルタンは確かに強大な権力を持っていたのだろう。博物館にある宝飾の数々を見ればそのすごさがわかるというものだ。
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面白かったぁ〜!!ちょっと苦手系かなと思って躊躇っていたので危うく積読にするところだったけど、読んで良かった。