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福島原発で何が起きたのかを中心に、汚染水対策や除染、健康への影響、地震対策が丁寧かつデータに基づき客観的にまとめられている。そして簡単ではあるがチェルノブイリやスリーマイルで取られた廃炉の方法も紹介されている。また、原子力発電、プルサーマル、放射性廃棄物の処分方法といった基本的な内容も収録されているので原子力発電についても学ぶことができる。
特に注目すべき記事は、なぜ廃炉への取り組みがなかなか進まないのか、である。廃炉への道を困難にしているのは、メルトダウンによって溶け落ちた「燃料デブリ」であり、注意して扱わないと高レベルの放射性物質が大気中に放出され重大な事態を招くというのである。したがって、「もう壊れているのだからそのまま更地にすればいい」、というわけにはいかないのである。まず内部の状況を確認し、そのうえで安全に燃料デブリを取り出すための準備をしなければならず、どうしても時間がかかってしまうのである。
また、放射性物質の反応をコントロールすることで半減期の長い元素を短いものに変換するという技術も紹介されている。まだ理論の段階ではあるが実現可能性の高い技術であり成功すれば有害な放射性廃棄物を減らすことができるという。今後の進展に期待したいところであるが、この技術自体も原子力発電と同じ仕組みであるため人々の理解が得られるかという課題がある。
事故当時何が起きたのか、現在の作業状況と課題、さらに廃炉のために何が必要なのかといった、これからのことを考えるうえで知っておかなければならないことがまとまっており、原発に対するスタンスはどうあれ一度は目を通しておいてほしい1冊となっている。