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ここ数年、アメリカ経済や社会に対して懐疑的な内容を書かれてきた増田氏ですが、この本はそれらの集大成と言えるものかもしれません。
私が感じたこの本の特徴は、アメリカは昔からそのような国だったわけではなく、この数十年間に完全に変わってしまったのだということを、すべてデータを根拠に論じています。
彼のポイントは、1970年後半にアメリカで決定された年金改革や学費ローンには免責を認めないという制度を部分的に導入したのが、今の格差にもつながっているということです。
アメリカはインフレ経済が続いていますが、その中でも、医療・教育関連の料金はこの数十年間で驚異的に上昇しているのが起因している様ですね。それらの変化に対応できる人達が、アメリカの経済の主導権を握っているようです。
この本のタイトルにあるように、アメリカが崩壊に向かっていると、今回の滞在(2014.6)では感じませんでしたが、米国企業に勤務している私にとってはアメリカにはさらに頑張ってほしいと感じました。
以下は気になったポイントです。
・アメリカ社会が問題となったしまった出発点は、1974年の個人退職年金の改正であった、金融業界にとっては稼ぎやすく、それ以外では暮らしにくい社会になった(はじがきp3、p7)
・現代アメリカを悲惨にしている制度・政策のすべては、現実主義的な改良・改善の努力の積み重ねで生まれたもの、個別の政策は誠実に「良かれ」と思ってやったことだが、その累積効果はどんでもなく意図とかけ離れたものになった(はしがきp4)
・1970-2012年の42年間で、名目GDPは20倍、金融業を除く企業の利益総額は18倍、金融業は41倍であり、名目GDPの2倍を上回るペースで成長した、この利益成長が勤労者の取り分を圧迫していた(p30)
・アメリカはつぎはぎだらけの医療保険制度、高齢者向けメディケア・貧困層向けのメディケイド・企業の支援する医療保険・民間医療保険の4本立て(p62)
・1998年の段階で、住宅ローンの約15%がサブプライムだったが状況が一変するのは、貸し手側がリスクをずっと抱え込まずにすむように債権自体を証券化して、住宅ローンをまとめて大きな束にして売り買いする市場を拡大させたことにある(p65)
・住宅金融に特化した不動産担保証券化商品は、2001年の1兆ドルから、1.44兆ドル、2.13兆ドルと拡大した、これは年間発行高(p67)
・借り手の信用特性に応じて上手に切り分けることは本当に行われていたのか、2013年の年末に、JPモルガンが 1.3兆円の巨額の和解金を払わされている(p68)
・不備な書類(お互いのサインが無い等)を根拠に差し押さえしても、差し押さえを受けた所有者は住宅ローンの残高を一銭も払わずに裁判所で所有権を認めてもらえるだろう(p73)
・アメリカの住宅ローン残高も徐々に減少しているが、これは完済というよりも貸倒償却による減少額が多い(p78)
・ごく少数だが、4大資格をとった連中が大学卒業と同時に自己破産申請して学費ローン完済を回避した��例がでてきたので、学費ローンだけは自己破産しても免責されないことになって今に至る(p98)
・大都市でこそ儲かるビジネスをできている金持ち達が、自分たちの結成した豊かな自治体を豊かにするためには税金を払うが、ビジネス拠点である都会には税金を払わないというタダノリをしている(p107)
・インフレは、自由に借金をすることができない庶民から、借金し放題の連中への所得移転である、一方デフレは借金税である(p114)
・マネーサプライを増やそうとしても、国民が必死に抵抗して貨幣の流通速度を抑えることによってマネーストックの激増を回避してインフレの到来を防いでいる(p118)
・アメリカは今、肥大化しすぎた金融業界が経済全体の失速を招くのが先か、巨大化しすぎた産業・官僚・軍事複合体が自滅を招くのが先かというところまで来ている(p132)
・アメリカは金融業界において、日本のそろばんや電卓の早打ち名人はほとんどいなくて、IT革命前は帳簿処理は人海戦術でこなしていた。そこへコンピュータが普及したので、単純作業に特化した人達を大幅に削減できた(p145)
・若年層から仕事を奪ったとされる中高年齢者のうちでも、55-64歳の人達は、勝者とは言い切れない状態で自分の労働を切り売りしている(p152)
・2008年の価格で実質化したアメリカの平均時給の推移は、1972年に20.6ドルであり天井を打っていた、バブルといわれた1990年後半でも1979年の18.76ドルを超えられない(p158)
・現在30歳以下の女性から生まれる赤ちゃんのうち半分以上は婚外子、出産後の離婚もふくめると3人のうち一人が父親のいない家庭で育っている(p189)
・工業製品の代表例である新車価格は、1978-2013年までで 2倍弱(95%)だが、医療費は 7.1倍(613%増)、大学授業料は 11.4倍(1140%)である(p199)
・学士号取得以上の学歴での失業率は、全体(10%)の半分程度(5%)(p203)
・学生ローンは、1995年の 14→163億ドル(1.6兆円)へと激増している、学費ローン残高が個人会計に占める割合は8%(9000億ドル)であり、クレジットカードローンを超えた(p206)
・学生ローンは延滞が270日になると、サリーメイは自動的に債権をGRCへ移譲、その瞬間から元利以外に返済総額の25%を回収料、28%を手数料として借り手から徴収する、当人の承諾なしに雇用企業から直接給料の一部を回収できる(p216)
・オバマ大統領への大口献金者の一角を、アメリカ連邦政府が占めている、62万ドルの第4位、1位から順に、CA大学、マイクロソフト、グーグル、ハーバード大学(p268)
・アメリカは肥満人口と収監人口(成人31人に一人、通常賃金の10分の1)に関して、他の追随を許さない独走態勢を築いている(p279,286,288)
・タバコはニコチン中毒患者の安定需要があるので値上げしても需要量が変化しない、ところが大麻は合法化すると大麻の市場が大きくなり、税収増につながらない(p300)
・低カロリー食品は、高カロリー食品のジャンクフードにくらべて、だいたい量も少なく値段も高い、同カロリーを摂取する費用を比べたら、8-10倍になるだろう(p309)
・支出1ドルあたりで摂取できるカロリーベストテンにおいて、1位はピザハット(376)、2位はバーガーキング(338)(p310)
・奴隷制において平和に合衆国を脱退して奴隷制の存続を認めるアメリカ連邦を結成しようとした南部諸州は、南北戦争において全領土を占領されて強制的に合衆国内にとどめ置かれた(p323)
・ガソリン価格は第一次世界大戦のころ(1918)でさえ、1ガロン3.5ドル払っていたので、まだまだ上昇する余地はあるだろう(p344)
・アメリカ全体の石油使用量は 2005年をピーク(一人当たりの走行距離のピーク)にかなり減少している、これは平均時給でかえるガソリン量が、2002年の10.5→2012年の5.1ガロンに減少していることも一因、若年層の免許取得率が 80→70%割れも起因(p347,356)
・自動車とは、ふつうの世帯が保有している自動車が動いているのは1年のうちで10日分で、あとはどこかに置かれているだけ(p351)
・1950年に185万人で頂点に達したデトロイト市は、直近では70万人にまで減少、特に1994-95年に100万人を割り込んでからの下げ方がきつい。製造業雇用者は、29.6→2.7万人となった(p364)
・新生GMは、繰延税金資産を454億ドル(4.5兆円)引き継がせてもらった、これにより収益があがっても税金を払わなくてもよいという会計処理(p371)
・全米大都市中で人口喪失率の最上位15位がいつから減少したかをみると、1930年代(ニューアーク、オハイオ州ヤングスタウン)1960年からはバーミンガム、ニューオーリンズ、オハイオ州デイトン、ミシガン州フリント等、メインは1950年代から(p376)
・経済的に繁栄している州も、困窮している州も、貧富の格差が大きい。貧富の格差が大きいトップ25の市は、デトロイト以外は、ほとんど経済的に繁栄している市である。ニューヨーク州のジニ係数は0.502、ニューヨーク市は0.543(p379)
・今やFEDは、世界最大の米国債の保有者であるとともに、60倍を超えるレバレッジ(自己資本に対する借入比率)で運営されている。60倍のレバレッジとは、1.7%(1/60)の含み損が生じただけで債務超過になるということ(p395)
・2009年以降において、最初の4-5か月は在庫がさばけていたが、その後の景気回復は、半分以上が在庫の増加(p417)
2014年6月8日作成
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2014/07/22:読了
アメリカも退職者が多くなり「年金」の支払いが多くなる。「401k」で、年金資金を、株式市場に投入し、40年間バルブが続いたが、年金支払いに金が必要になるため、流入要理流出が多くなる。
バブルが跳ねて、「年金」の支払額も減る。
今度のバブル崩壊は、致命的になる という本。
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戦後日本人が憧れた夢の国アメリカが、衰亡への道をたどっているということを、具体的な数値を示しながら論じている。
第1章 経済金融化の分水嶺は1974年
個人退職年金法の改正で金融市場にあぶれだした多量のマネーが、一握りの金持ちだけの国、あらゆる低次元の不正が横行する国となってしまった。
第2章 アメリカを衰亡に駆り立てる黙示録の四騎士たち
ということで、第一の騎士は貧困の構造化、第二の騎士は利権の横行、第三の騎士は自由の仮想現実化、第四の騎士は持続不能となったクルマ社会だ
として、具体的数値を示しながら縷々説明されている。
最近読んだ本では、ソ連のスパイがアメリカを混乱に陥れ、その間に共産革命を起こすというシナリオがかつてあった。
オバマ政権になり、連邦政府職員の増大、高給取り化による財政の混乱、行き過ぎた原理主義などなど。
第7章ではかくて地上最大の軍事帝国は滅亡する となっている。
いくら他人事であり、アメリカさんの事であるとは言え、読めば気が滅入る内容だ。
はたして、アメリカは立ち直るのか、きちんとした情報に接しながら見守っていきたいものである。
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面白い視点で書かれている。視点のよさはあるものの、データの広い方に、広がりがないようにおもう。新書にまとまる内容を、単行本にしたようで、途中で飽きてくる。
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なんだか偏見が多いなあという印象でしたが読み物として面白かったです。フードスタンプのことや、教育事情のこと経済の勉強にもなりました。