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饒舌すぎるほど饒舌な、ということは非常に『金井美恵子らしい』書簡体小説。
延々とお喋りが続いているような手紙の文章に圧倒される。金井美恵子はこういう文章を書かせると本当に上手い。
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何と!「快適生活研究」で笑わせてくれたアキコさん再登場。あの手紙は抱腹絶倒だったものね。今度はどんな毒をまき散らしていることか、大いに楽しみにして読み出したのだが…。
あれ?アキコさんの毒ってこんなにマイルドだったかな? 前と同じく、ご本人はいたって悪気なく(と思うけど)、人の気に障ることを次から次へと書き連ねる手紙のスタイルなんだけど、そんなにイヤな感じがしないんだよなあ。慣れたせいかな。手紙の送り先の友人たちとかと、(ちょっと揉めたりしながらも)結構仲良くやってる感じが伝わってくるせいかもしれない。とにかく、「快適生活研究」とはちょっと違った印象を持った。
今回面白かったのは、アキコさんが無意識にまき散らす毒よりも、手紙で彼女がしばしば書く「悪口」だ。映画や本について、友人知人の言動について、容赦なく繰り出される悪口が実に楽しい。ああ、ほんと、悪口って楽しいねえ。自分の日常生活では、言うのも聞くのも大嫌いだけど、それはセンスのある笑える悪口を言える人が(自分も含めて)ほとんどいないからだ。まったく悪口を言うのには度量がいるのであるよ。金井さんの鋭い舌鋒を恐れつつ愛するファンとしては、これこれ!これが金井美恵子だよと満足した。
また、アキコさんの手紙はどこまでも脱線して横滑りしていくのだけど、言及される事柄のディテールがいかにも作者のもので、これまた楽しい。細部にこそものの命は宿るのだなあとあらためて思ったことだった。
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【金井ファン待望、痛快痛烈な最新小説】アキコさんの趣味は手紙を書くこと。料理、裁縫、映画、イヤな男、「お勝手」の話題を毒気たっぷりに認める著者真骨頂の書簡小説。
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退屈で能弁な主婦が学生時代の友人にあてて片っ端から出しまくる手紙のカタチをした文明批評。金井節の健在ぶりに胸のすく思い。
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インテリ・無知・有名・無名・金持ち・貧乏人・悪人・善人に関わらず、愚かさに対して、まったく平等に容赦ない。それが小気味よい。スッとする。
「読み聞かせ」「気づき」という言葉に、「なんて、いやな言葉なの?」と…まったくね、なんでこんな気持ちわるい言葉がうようよしてるのか、と思っていたのでスッとする。
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お勝手太平記 金井美恵子著 書簡体小説 人生と世相辛辣に
2014/11/9付日本経済新聞 朝刊
手紙というものが世の中から消えつつある。無論みんな電子メールで済ませているのである。私も書かないし、受け取ることも稀(まれ)だ。もし届いたら、返事を書くのに困ってしまうだろう。せいぜい葉書まで、と思う。
本書はそんな時世に出現した書簡体小説である。読書と手紙書きが趣味という六〇代の女性「アキコ」が、中学以来の親友たちに宛てた手紙が並ぶ。手書きで縦書き、何日もかけて書かれたものである。相手は同級生の仲良しグループだった三人と、憧れていた先輩の女性が主だ。文面からそれぞれの多事多難を経た人生が浮かび上がる。くも膜下出血から回復したかと思うと、再婚した夫がアルツハイマー病を発症した「マリコ」。役場を退職し、郷里の要介護の母親を心配する皮肉屋の「みどり」。会社を経営する夫を早くに亡くし仕事を継いでいる映画好きの「弥生」。そして上級生の「絵真」も未亡人だが、娘婿が有名な大学教師で、アキコは彼の書評のファンだ。
一方、長いあいだ独身だったアキコは、五九歳で弁護士と結婚し、今は幸せそうだ。口さがない毒舌少女のまま歳(とし)を取った自称「偏屈さん」の彼女の手紙は、脱線に次ぐ脱線の四方山(よもやま)話で、終始世の中の「おかしなことを批判的に笑うユーモア」に満ちている。その辛辣さは、時には筆が滑って友人の機嫌を損ねる「筆禍事件」も起こす。女学校時代の回想に耽り、映画や小説の薀蓄(うんちく)に耽り、新聞の滑稽な投書を読み合って盛大に笑いものにする。しばしば著者自身のエッセイと区別がつかなくなるが、金井美恵子の名前も文中に登場して「どちらかといえば好き」と書かれているのはご愛嬌(あいきょう)である。
しかし本書はたんなる書簡体に擬されたエッセイ集ではない。一人の厖大(ぼうだい)な手紙から、差出人と受取人双方の人生を描き出し、五十年にわたる世相の歴史が紡がれていく。このアキコの手紙は、全てコピーに取って保存されているという。読み進むにつれて、一文字も本人の文章は登場しないのに、友人たちの面影が体温を帯びて立ち上がってくる手応えは、まさに手の込んだ小説である。そして最後に、「書く楽しみのために図々(ずうずう)しくも勝手に凄く理想的な読者を設定して書いた」ことが明かされるのだ。最後の最後まで考え抜かれた「小説」である。「私たちの人生って、なんて平凡で平板なんだろうって、満足のためいきと共に」というアキコの言葉が、脳裏から離れない。書き続けることの「満足」を惜しみなく発揮した痛快作である。
(文芸春秋・2000円)
かない・みえこ 47年群馬県生まれ。作家。著書に『プラトン的恋愛』『タマや』など。
《評》文芸評論家 清水 良典
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「手紙の吸血鬼」と化したアキコさんが日々書き続ける手紙たちで構成された小説。お手伝いさん、お友達、お友達の旦那さんなど相手は違えど内容はほとんど映画や小説、新聞の投書欄について、昔話などの雑談。あまり書くとネタバレになるけれど、結末は、あ、やっぱりそうだったんだっていう感じだった。でもそれをさみしいとかは思わなくて、年を取るってなんだかすごいなあと妙な感想を持ってしまった。タイトルから谷崎の「台所太平記」、著者の「恋愛太平記」を思いつくんだけど、たぶん「台所~」に近い感じ、で、「恋愛~」は四姉妹の長編小説だし「細雪」を彷彿とさせる。
作中で何回か「瘋癲老人日記」のエピソードが出てきた。読み返したくなったけど私は「鍵」のほうが好きだ。
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書簡体小説。
一人の女性が書いた手紙。
一言ですむ話を20分かけて
横道にそれまくりながら話す
母の話を聞いてるようで
とても苦痛だった…
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新聞の書評でこの本のことを読んだのは11月だった。あとで切りぬいたその書評を、私は「これが読んでみたい」と友人に送ってしまって、詳しいことはすっかり忘れてしまったが、とにかくこれが「お手紙小説」だということがくっきりと記憶にあった。
図書館の予約待ち人数は思ったより少なくて、しばらく待っていたら暮れになって本がまわってきた。編み物の手をうごかしながら(こうしてゆっくりとページをめくるのがちょうどよかった)、2014年の最後に読み終えた。
手紙を書くのが好きな「アキコさん」が書きつづって(それはしばしば何日もかけて書かれている)、友人や身近な人へ出した長い長い手紙がずらずらと並ぶ。アキコさんは出した手紙をきちんとコピーして整理しているとかで、しょっちゅう脇道へそれて、ときには消えてしまうあれこれの話題が、また後日の手紙でよみがえって語られたりもする。
その手紙には、本の話や映画の話があり、噂話や悪口もあり、思い出話もあり、夫の話もあり…と、アキコさんが書いた手紙だけで、よくここまで友人たちの動向や性格が見えてくるものだと感心した。くわえて、あの小説やらこの本やらに対するアキコさんの悪口がおもしろい。
お手紙小説といえば、姫野カオルコの『終業式』もそうだったが、この金井美恵子の作品も全面的に「手紙」で構成されていて、巻末の「あとがきにかえて」までもが手紙なのだった(しかも「美恵子様」という手紙である)。
途中でおっと思ったのは、手紙に書いてる話のなかに、深沢七郎のあの文章がどうのこうのという箇所が、いくつか出てくること。深沢の本やら、「風流夢譚」のコピーを読み、はたまた没後25年の特集雑誌なども借りてきて読んでいる私には、そこもまたおもしろかった。
このアキコさんは、団塊の世代風の女性という設定で(金井美恵子本人が反映されているような気も)、この世代の人たちが深沢を読んでたのかなーと思いながら読んだ。
(アキコさんはずいぶん深沢七郎に言及するなあと思っていたら、没後25年の『深沢七郎 没後25年 ちょっと一服、冥土の道草』のなかに、金井美恵子による「たとへば(君)、あるいは、告白、だから、というか、なので、『風流夢譚』で短歌を解毒する」という論考が入っていた。)
「風流夢譚」がらみでいえば、アキコさんが59歳にして結婚した相手の「K」(弁護士だという)のこんな話も手紙に書かれている。
▼ここまでの経過をウチのKに話したら、谷崎の『鍵』は「中央公論」に連載されてた時(法科の学生時代)に、ポルノのつもりで時々呼んだけど、全然そういうものではないし、片仮名で読みにくかったのを覚えてる、と言うのです。
「中央公論」と「思想の科学」と「世界」は、弁護士の親父が定期購読していたけれど、風流夢譚事件の中央公論社の右翼に対してのフガイナイ対応に抗議する意味で購読をやめたので、事件のあった年に連載がはじまった『瘋癲老人日記』
は読んでいない、だいたい若い男子学生が読むようなタイトルじゃないし、『セヴンティーン』を含めて、ぼくらは大江健三郎を読んだ世代ですよ、という話になってしまうのよ。カミュは『異邦人』より『ペスト』に感動した人なんですよ。(pp.200-201)
このKさんは、風流夢譚事件のときに学生だったというと、団塊の世代よりもう少し上、1940年前後の生まれだろうか。中公の右翼対応に抗議して購読をやめたというようなエピソードは、事件について編集者の側から書いた本にはまず出てこないだろう。
アキコさんも、Kさんも、何かを思いだしたといっては深沢七郎をひっぱりだしてきたりするので、好みもあるにしても、印象に残っている作品なんやなーと思った。
ほかに私がおもしろいと思った話題は、病院のレンタルパジャマの性別による色分けの話と、「奥さん」話、それと「本をとおして作者と読者は共通体験を持つ」という話。
入院した経験を書くアキコさんは、病院のパジャマは男性用がブルー、女性用がピンク、そのピンクがまたいやな色で、まだブルーのほうがましだと言い、ついでに看護師(女性)に、借りるわけじゃないけど男はブルー、女はピンクと決まってるのかと訊いた。
ブルーはズボンが前開きだと答える看護師に、「アキコさん」は、いまの婦人物のズボンの類もウエストがゴムでなければファスナーは前ですよと言ってやるのだ。そういう「アキコさん」の口吻を読んでいて、そうやなー、昔はスカートみたいに、ズボンのファスナーの開きも脇についてたなーと思う。
そんなアキコさんがなるほどと膝を打った同室者の説は、「病院は年寄りが多いし、年を取ると人間、おじいさんだかおばあさんだか、わかんなくなるでしょ、病院じゃあ、お化粧しませんしね、だからすぐどっちかわかるように色わけしてるんだと思うわ」(p.103)というもの。
「奥さん」という普通名詞の呼び名についての話は、もとは友人「みどりさん」からの手紙に某紙の「折々のうた」のコピーが入っていたことに始まる。そのうたは、これ。
草にさえその名をたづね愛しむを奥さんとしか呼ばれない日々
増田啓子(『歌坂 逢坂 浄瑠璃坂』所収)
友人宛の手紙で脱線しながら「奥さん」問題を書きつづるアキコさん。家政婦の杉田さんの、「「奥さん」というのも通りのいい符牒で、呼ぶのも呼ばれるのも面倒臭さがなくて、あっさりした、とおり一ぺんの関係ということがお互いに良くわかって、いいじゃありませんか」(p.141)という意見を披露していて、こういう呼び方はある種の敬語の使い方に通じるものがある気がした。
そして、「あとがきにかえて」の手紙に記される共通体験の話。これは、ひょんなことから知り合いになった(著者であろう)美恵子さん宛てに「アキコさん」が書いている手紙。
▼読者と作者の関係は、読者の側から言わせていただくと、「本」を通して【共通の読書体験】による【つながり】があるのだって、つくづく思ったことです。あたりまえのようですけれど、「本」によって、作者と読者は共通の体験を持つのですね。(p.302、【】は本文では傍点)
私は昔に比べるとすっかり無精になってしまったけど、アキコさんの「週に一度はお会いしているのに、手紙がとどくなんて、ヘンな人、とお思いでしょうけど、これは私の趣味なのよ」(p.131)の一節を読んで、毎日のように顔を合わせるのに、毎日のように手紙を出しあっていた頃があったなーと思った。この本の「手紙」を読んでいると、よく手紙を交わした友人を思い出したりもして、ちょっと一筆書きたくなった。
金井久美子(って、金井美恵子の縁戚か?)によるカバー装画に使われている作品(表と裏と両袖にそれぞれ作品の写真が入っている)は私のスキなTさんの作に似たところがあって、しかもこの金井久美子の絵はがきが2枚、付録としてついているというので、どんな絵はがきなのだろうかと私はそれを見てみたい。
(12/30了)
※ネット検索してみたら、金井久美子は金井美恵子と姉妹だそうで(久美子が姉、美恵子が妹)、美恵子の本の装画や挿絵を久美子が手がけているとのこと
金井久美子作品
http://g-murakoshi.com/artist/kanai_kumiko/
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女性のやりとりって本当に自分の思い付いたことをつらつら並べてるんだなぁということがよく見えた以外、小説なのか私信を並べたものなのかすら不明で読みづらい。
引用されてる映画も音楽も知らないものばかりだし。
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この本は、私の女との会話の嫌いな所が、てんこ盛りで、勘弁と思い、途中放棄。こういう人が身近にいたら、距離を置くな。
好きな人には、たまらない内容でしょう。読者を選びます。
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自分勝手かつ皮肉にまみれ、しかも話が飛びまくり。
実に苦痛で、心が折れ、挫折した。
女とはこういう生き物なのでしょうか。
私はこうはありたくない。
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母の周りのあの人この人を思い起こしながら読んだ。ミッション系という設定がなんともはまる。よろしうございました。
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毒舌家というか、皮肉屋というか、ひとこと多い人というか・・・
イヤミな初老の女性。
こんな人とは友達付き合いできないなあ、でも、学生時代からのくされ縁みたいになってしまうのだろうと思いながら読んだ。
辛辣で、批評も鋭いのだけれど。
母親というのは、娘の相手を見るといつだって、もっと出来の良い青年が(いくらでも、とまではいわないけれど)いたはずだ、と考えてるような気がします。 127ページ
大した用事でもなんでもないのに、なんか妙にアタフタと小忙しい日々が続くと、なにしろ、もう年が年ですから、そのあと反動で何もしないでぼうーっとしている日が何日か続くことになるわねえ(少し、オーヴァな言い方ですけど)。162ページ
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お手紙の本です。
時代が合って(50年前くらいに青春期をおくった人)、映画好きな人には楽しいと思います。
私には古すぎてわからないことが多すぎでした。