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「対テロ」を掲げてアフガニスタン・イラクを侵略し占領したブッシュ政権が「成功例」として利用したのが、半世紀前の日本占領の経験だった。民主化と女性解放をもたらした「良き占領者」としてのアメリカというイメージ戦略に、占領軍の女性政策を高く評価してきた日本人フェミニストも加担してきたのではないか。本書はこうした問題意識から、占領軍の性管理に焦点をあてて、占領経験をジェンダー視点から問い直すことを課題に掲げる。
真面目な女性史家らしく、具体的な地域の資料をていねいに掘り起こしている点に好感はもてるが、占領軍向け「慰安所」の設置から「パンパン狩り」に象徴される管理売春、そして占領終結後の売防法成立に至る過程を記述した各章の構成にまとまりがなく、占領とジェンダーのダイナミクスを理論的に解明しているとは言い難い。おそらく著者の関心は占領そのものよりも、売買春に関して揺れ動く自分自身の見方を整理することにあったのだろう。実際、占領期の売買春政策に関する著者の立ち位置はあまり明確ではないし、最後のまとめにおける売買春に関する諸議論も、著者自身の議論を打ち立てるために効果的に紹介されているというより、迷いを抱えつつ、とりあえずの結論を自分自身のために出したという感じもする。
とはいえ研究者として、フェミニストとして必要な作業であったのだろう。いったん整理をつけたここから、地域女性史家として本領を発揮していただきたいと思う。