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フィンランドの海辺にある寒村で暮らす身寄りのない姉弟が主人公。
弟は少し頭が足りないと思われていて、村の雑用を引き受けていた。
姉のカトリは誰ともうち解けない変わり者。数字に強く有能な店員だったが、ある事情で仕事を辞めることに。
かたや村はずれの広大なお屋敷に初老の女流画家が一人で住んでいて、この3人の不思議な関わり合いの物語になります。
カトリは弟のたった一つの夢を叶えようと密かに決意して、しだいに屋敷に入り込んでいく。
親から財を継ぎ、才能にも恵まれておっとりとして生きてこられた画家と特異な性格のカトリとの葛藤、童心を共有する弟と画家の交流がやがて意外な展開を迎え…
「ムーミン」の作者が大人向けに書いた小説で、作者の経験を反映する画家の悩みなども興味深く読めます。日本のファンからの無邪気な手紙に困ったりするのには苦笑しますが。
磨き上げられた言葉で描き出される北欧の自然と風変わりな人々の思いがけない交流に独特な魅力があり、脳みその使っていなかった部分を刺激されたよう。良い物に出会った満足感に目が覚める思いがしました。
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雪に埋もれた海辺に佇む「兎屋敷」と、そこに住む、ヤンソン自身を思わせる
老女性画家。彼女に対し、従順な犬をつれた風変わりなひとりの娘がめぐらす
長いたくらみ。しかし、その「誠実な詐欺」は、思惑とは違う結果を生み…。
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なんて、静かで、冷たい文体なんだろう。
それは、読んでいる者を、静かで、冷たいフィンランドの森へと誘う。深い深い森。そして、暗雲漂う長い冬。文章から漂う雰囲気で、これだけ魅せる作家がいるだろうか?
背表紙には、この作品は、ポスト・ムーミンの作品の中でも、No.1の傑作と謳われているが、まさに、その言葉通りだった。
淡々と語られる物語が、恐ろしさをひきたてる。何度も息を飲み、物語の中の張り詰めた空気に耐え切れず、何度も本を閉じてしまった。
花柄の兎に象徴されるアンナ。いつもカトリの隣にいる狼犬に象徴されるカトリ。
そして、厳しく、深く・・・すべてを飲み込んでしまうような北欧の冬が、二人を象徴している。
しかし、冬は、いつまでも続かない。すべてを失ってしまったような不気味な静けさの下で、確実に、生命は育まれているのだ。息をひそめ、それでも確実に息づいている。アンナの中で、何が起こったのか?カトリの中で何が起こったのか?
アンナは、トーべ・ヤンソンその人を象徴しているのだとか。彼女の中で、何が起こったのか?
ムーミン大作の途中頃から、大人を主人公にした作品が目立つようになったという、彼女の執筆の歴史。そんな、「あとがき」を読んでいたら、ますます、トーベ・ヤンソンという作家に興味が湧いてきてしまった。
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ヤンソンさんご存命中には、ファンレターをかくのは控えましょうというお達しがありました。そのわけも解ったのでありました。
ここには悲しいかな自分の生き甲斐を他者に見ようとしてしまうことの悲しさがつまっている。
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トーベ・ヤンソンさんの大人向け小説は初めてです。
少しずつ少しずつ状況が変化していくので、その変化に気付きにくいのですが、
気付いたら元いた場所から随分離れている。そんなお話でした。
正当な分け前を貰うカトリは誠実です。
アンナの心を荒ませるほどに「周りの人間はあなたを騙しまくっている」と
思わせたところが詐欺師なのでしょうか。
私には周囲の人間が本当にアンナを欺いていたのかが分からなくなりました。
アンナも自身を騙していたのかもしれません。
トーベ・ヤンソンさんの言い回しに慣れるとすいすい読めます。
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胸をえぐられるようなリアリティ。
二人の女性のまさしく心のたたかいです。
ムーミンはこんな作者が産み出したものだったのですね。
人生を見据える眼差しはおそろしいほどクリアです。
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ムーミンの作者トーベ・ヤンソンさんの大人向けの話の中ではこの話が一番よかった。
本日探していた文庫を購入。
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高円寺の古本屋さんで、このシリーズが並んでる中からタイトル買いしたもの。
氷で火傷する、みたいな温度がずっと続いて、背筋が伸びる感じ。
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「だれだって腹をたてたり、へまをしたりする。それでも底意地が悪いよりはましだ。ここでおまえらにはっきり言っておくし、だれに言ってくれてもかまわないがな、クリングたちは正直な連中で、あいつらがやってることは、おまえらにはわからないだろうが、ちゃんとした理由があるんだよ。」
誠実さとは何だろう。他人を裏切らないことか。それとも自分の信念に忠実であることなのか。恐らく、そのどちらの在り方も意味するのだろう。他人の描く自分を守ること、そして自分の思う自分を守ること、その二つの在り方を幾重にも折り重ねた話が、「誠実な詐欺師」の中で繰り広げられる話である。このタイトルそのものが現実の物語の複雑さを端的に言い表していると思う。
誠実さというものは、如何に危うい均衡の上に成立しているものなのか。ただ猪突猛進に進んでしまっては行けないものなのか。それがこの本を読み進めるうちにひしひしと伝わってくることである。それは、結果を出すことに執着せずに放置しておくことの重圧と、結果を常に出し続けていくことによる切迫とが拮抗する、ということでもある。または、結果に対する責任を取らなくてもよいという安寧と、結果を出すまでの過程をもう気にせずとも良いという解放との間ある、やじろうべえ的釣り合いに似た均衡であるとも思う。
トーベ・ヤンソンと言えば、やはりムーミンなのだけれど、その登場人物の一人、ミーをどことなく彷彿とさせる女性、カトリ、と、アニメではなく原作のムーミン谷の人々にはどこかしらある意地の悪さを思い起こさせる老婦人、アンナ。この二人は、相対する主義の違いを誠実に張り合いながら、それでも二重の螺旋が絡み合うように、徐々に立場を入れ替えていく。そこがとても読み応えがある。
そんな風に喩えてみて気付くのだが、二重の螺旋というものはそれだけできちんと成立させることは難しく、中心で二つの螺旋を繋ぎとめている軸のようなものが必要である。実は、二人の女性の間にはそんな役割を果たす人物が何人か登場し、そのことが読むものに限りない安心感を与えてくれているのである。ひょっとすると、そういう何かを繋ぎとめる役割を果たすもののことを、ヤンソンは一番書きたかったのではないか、という気にすらなる。
繋ぎとめるものが差し出すもの、それは言うまでもなく信頼ということなのだと思う。そのことを最も強く言い表しているのが冒頭の引用であるように思うのだ。この言葉を吐く者とて、クリングたちが何を意図しているのかに明確な理解がある訳ではない。にも拘わらず全幅の信頼を置くことを宣言しているのである。
信頼されること、それこそが最も人をを幸福にする。その全面的な信頼が与えられるのならば、誠実であることに伴う、守りぬくことの苦しさは軽減される。最後の幕切れの向こうにもその信頼は伸びて行く。そのことは語られずとも解るのだ。それを勝ち得ているものは、結末がどう描かれていようとも幸福なのである。
ところで、カトリとアンナのどちらにより心を惹かれるかと言えば、ミー好きの自分としては当然小説のはじめから終りまでカトリなのであ���。ムーミンママに見られるような無垢の意地悪さというものは、どうにも厄介です。
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頑なで賢い姉と盟友のような犬と純朴な弟。兎屋敷に住むすべてを持っているのに疑うことを知らない画家夫人。
何を持って詐欺と呼ぶか確認するために再読必要。
ラストで胸が苦しくなるのに解放される不思議。
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いつまでも余韻の残る作品
読書後、冷たい空気の中に残してきた
カトリの明日が
犬の自由な孤独が気にかかり
何度も、森や海辺を心は見に行く。
どちらかと言えば
自分はカトリだと思いながら
読み進めているうちに
アンナの中に自分を見つけていた。
この本に関して
だれかと話がしてみたいと思った。
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5、6年ぶりの再読。
読んでいると苦しくなる。
でも作中に漂う冷たく張りつめた空気は澄んでいて
読後感も悪くはない。
善と悪って何だろう。
私が誠実だと思っていることは実は誠実ではないのかも知れない。
誠実とは何だろうか。
私はこの作品が好きだ。
不思議な魅力のある作品だと思う。
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雪に閉ざされた寂れた村で、目の色が他の村人と違い、姉は数字に優れ過ぎた四面四角な性格、弟は「頭が足りない」と思われてるゆえに村人から奇異な目で見られている姉弟。姉の数字に厳しい面は弟にボートを買ってあげるための倹約。そのために絵本の印税やグッズの収入でお金に恵まれているアンナの家に取り入って住み込み、支配する。
アンナはお金のことなんて考える必要もないので人を疑うことも知らず自分の世界にだけ閉じこもって生きている。カトリの弟マッツはボートの製図に夢中。
一見してばらばらで正反対にも見えるこの3人が物語が進むにつれて合わせ鏡のように見えてくる。
訳者あとがきの言葉を借りれば「極度に図式化されている」関係。
それなのに、それぞれが失ったものや意図したこと単なる偶然で起こったことが交差して暖かいものが生まれたりもする。すごく綺麗な出来すぎた図式なのに記号的にならない。不思議だ。描写が美しい。良い物語だった。
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お借りした本。
北欧の描き方がすき。皆なんというか、美しくて、かわいらしかった。姉と弟とアーティストの交わり。真剣なんだけど、可笑しい、微笑ましい、けど鋭い。タイトルがいい。
似てるところもあるような。
ムーミン以外ははじめて、他も読まないと。