紙の本
もうちょっと!そこだ!おしい!壊血病の謎!
2017/08/16 20:08
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投稿者:こゆき - この投稿者のレビュー一覧を見る
今では壊血病はビタミンC不足で起こる病気であると周知され、しかもサプリで手軽に採れるので壊血病は人類の脅威ではなくなっている。
しかし大航海時代やその後長らく、新鮮な食料を十分とれなかった船乗りたちにとっては何より恐ろしい、原因不明の病であった。
原因は色々と考えられたし、治療も様々な方法が幾人もの医師や船長によって試されたが、なかなか真相にたどり着けない。
読者には最初から「ビタミンCを採れば治る、予防できる」と知らされている(知っている)ために、何度も解決しそうになりながら、海軍予算だの人間関係によって採用を阻まれ、見当はずれの治療に戻るという、もどかしい展開となる。「この人の言うとおりにすれば助かるのに!」隔靴掻痒である。
一進一退を繰り返しながら、とうとうイギリス海軍は正しい予防法、治療法にたどり着く。それは科学的頭脳を持ち(科学的実験によりレモン汁が壊血病に効くと証明)、なおかつ権力者にコネを持つ(実験結果を信じてもらえ、治療法を採用して貰えた)人物の登場によってやっと、であった。
ひょっとすると現代の医療にも通じるものがあるかもしれない。現代の難病の中でも、コネや権力者の思惑などにより、見当違いの治療法が採用されているかもしれないのだから。
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壊血病は古代ギリシアの昔から医師や水夫を悩ませてきた謎である。大航海時代になって、船は大型化し長期の航海も可能になったが、食糧保存には限界があったため壊血病は奇病から恐ろしい疫病になっていく。この時代だけで200万人の船乗りの命を奪ったとも言われる。壊血病はさらに国家の命運を左右する要因にもなり、ナポレオン戦争中のイギリスとフランスの衝突で頂点に達した。この恐怖の病にリンド医師、キャプテン・クック、ブレーン卿の3人が挑む、熱い男たちの物語。
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久々の大当たりです。
非常に面白い。人間は、如何に傲慢で思い込みが激しく、時流に流されやすいのか。それを「壊血病」の謎を解決するという事例を通してかくも活き活きと描写した、名著だと思います。
確かにアマゾンレビューにあるように、壊血病など既にビタミンC欠乏症として現れる事が自明なのに冗長だと思われる方もいるかもしれない。
最初の5分の1程度は確かにそのような構成だったように思う。
しかし、本書は、臨床医学の先駆け、科学とは如何にあるべきかという心構えを見事に描いている。
是非とも、現代人に読んで欲しい1冊。
沢山の教訓が隠れている。
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大航海時代に船乗り達を苦しめた最も恐ろしい病気が壊血病だった。壊血病はアスコルビン酸(ビタミンC)の不足により、細胞や骨の結合が徐々に失われて、細胞の壊死、出血、骨折等で最終的に死に至る病気である。この本では、壊血病が解決するまで(駄洒落じゃないけれど)の歴史と、壊血病の予防に取り組んだ3人の人物リンド、クック、ブレーンの功績を紹介している。
壊血病の原因は20世紀になるまで特定されなかった。大航海時代の軍医達は発症時の対処法、発症しないための予防法を発見することに注力し、レモンやオレンジ果汁が効果があることを突き止め、効果を挙げた医師もいた。しかし、政治や経済的な理由でその対策は葬られ、当時の権威とされた医師や軍や政治家のトップの意向が反映された対策案(麦汁)が予防薬として永年に渡って使われた。しかし効果はほとんど無く、そのため多くの船員を喪失する。
リンドは船医としての経験からレモン等の柑橘系の果物に効果があることを突き止めたが、その対策は費用対効果が疑問視され、また自身の社会的な地位が低かったこともあって、耳を傾ける有力者がおらず普及には至らなかった。また、クックは4度の世界周航で壊血病による死者をほとんど出さなかった。彼は船内を清潔に保つことと、毎日自ら率先してレモン汁を摂取し、船員にも寄港時に新鮮な野菜や果物の摂取を薦めた。しかし、彼は科学者ではなく、こちらも原因の特定には至らず、逆に権威に負けて麦汁の効用を認めてしまう。ブレーンは、上流階級の出身らしく自らの意見を堂々と主張できる立場にあり、リンドの対処法、クックの実績を踏まえて、レモン汁の効用を主張する。戦争が頻発した時代で、フランスやスペインの船員や兵がこの病気に苦しんだのに対し、イギリス海軍では発症率が低く、戦力が維持できるためその強さが際立ち、多くの地域を制覇することとなったらしい。壊血病への対応は、歴史を変えた一因となったと著者は考察する。現代において、壊血病で亡くなる人の話を聞く事はほとんどないが、ビタミンCが不足する状況、例えば天災等で食料不足になった場合や飢餓が発生した地域、偏った食事を続けた場合(ジャンクフードばかりの食生活)に症状が現れるので、今でも注意は必要という。
キャプテンクックを追った旅行記に壊血病の話が何度も出てきて、この本の出版を知って早速読んでみた。いつの時代でも、権威には逆らえない。この壊血病の歴史においても、治療法の発見と権威による破棄の繰り返しだったようだ。それは医療の世界に限ったものではなく、ビジネスの世界でも通用する教訓として読むことができると思う。
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http://catalog.lib.kagoshima-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB16428620