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やはり上橋菜穂子さんのエッセイは面白い!!ひとつひとつのエピソードが好奇心と発見と優しさに溢れ、世界をすぐ近くに感じました。
ああ、もっとたくさんの作品を受容し、たくさんの人に出会い、もっともっといろんな世界を見てみたいなあ。
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私が図書館で借りる本には、あまり他の人の予約がついてないことが多いが、この本は後ろに十数人待ちで、とっとと返すために、すぐに読んでしまう(ある程度の厚さをもたせるためか、ページの下が空いたレイアウトで、字もけっこうでかい)。
もとは「小説現代」で書いたエッセーに、書き下ろしが一篇加わって、本になったもの。内容は、『物語ること、生きること』と半分くらい重なる感じだったが、もちろんあっちの本にはなかった話もいろいろある。
「好奇心旺盛で負けず嫌い」の母上と旅に出たときの話がおもしろかった。とくにイランを旅したときの、旅する前にこの国にもっていた先入観と、実際に接したかの国の人たちとそこで見た光景がそうした先入観をひっくり返していった経験。
▼外国人にまで窮屈な規則を押し付けてくる国だから、さぞや国の中はピリピリしているのではないか、女性たちは男たちの後ろに隠れ、他者との接触を避けているのではないか、などと思っていたのですが、その先入観は、つぎつぎにひっくりかえされていきました。(p.195)
性別による明らかな分離はあるし、経済制裁による不自由と思える面も見え隠れするが、それでも、「観光客」として訪れた著者の目に、「びっくりするほど明るく朗らかで、清浄」(p.198)な印象を残したイラン。ある宿に泊まったときには、学校行事で訪れたらしい12、3歳ほどの少女たちが、著者と母上に駆け寄ってきて盛んに話しかけてきた。「これほど率直に、しかし礼儀正しく、どんどん話しかけてくる少女たちに会ったことはありませんでした」(p.197)と著者は書く。
▼炎暑の砂漠の底を滔々と水が流れているように、あるいは、乾ききった岩山の影から、いきなり緑したたるオアシス都市が現れるように、初めて見たイランは相反する光景が共存する国でした。
そのことに驚きつづけたのは、私の心の中に、この国に訪れる前に、確固としたこの国のイメージが作られていたからなのでしょう。
観光で目にすることなど、ごくごく限られたことに過ぎません。それでもなお、イランで感じたあの驚きを、覚えておきたいな、と思いました。
私はきっと、いつも、世界の半分を知らないまま生きている。そのことを、忘れないために。(pp.201-202)
それと「楽観バイアス」の話が印象に残った。オーストラリアでアボリジニの友人たちとキャンプに行った帰り道、周囲百キロくらい人家などない場所で、赤ん坊を抱いた白人女性に出くわしたときの話。ピクニックに来たら川縁で車がスタックしちゃってという彼女はTシャツにジーンズの軽装で、泥の中でスタックしていた車はセダンタイプ、赤ん坊まで連れていて、その車を無事に川縁から引き上げたあと、アボリジニの友人たちは「おれたちが通りかからなかったら死んでるぜ」(p.94)と怒っていた。
▼彼らの怒りはもっともで、オーストラリアでは、原野に出れば、あたりには家もガソリンスタンドもない状態が当たり前。油断して、用意を怠れば、容易に命を奪われる危険が生じるのです。…(略)
オーストラリア人でも、都会人の中には危機意識の薄い人がいるようですが、私には、���い大丈夫だと思ってしまった彼らの気持ちも分かるのです。(pp.94-95)
そして著者はテレビ番組でやっていた「人の心には、自分の死をうまく想像することができない楽観バイアスがある」(p.95)という説明を思いだす。起こり得る危険をいつもいつも想像してばかりでは生きづらい、だから人のアタマはそういう危険のことをほどほどに流せるようにできていると。ただ、この「楽観バイアス」に無自覚のまま、慣れた暮らしの外に出てしまうと、大変なことになる。著者自身の危なかった経験が書かれている。いかに自らを戒めても、同じ危険な行為をくりかえしてしまったことも。
自分の慣れた暮らし、あるいは慣れ親しんだ考え方や行動の仕方を、あらためて振り返る機会をもつ、というのはなかなかに難しいことだと思えば、「楽観バイアス」は異郷ならずとも、日々の自分の生活のなかで気にしたほうがええことなんやろうなと思う。難しいのは重々分かりながら。
本書のカバーと扉の絵は、父上(洋画家・上橋薫氏)の作だそうである。
(11/2了)
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最近、国際アンデルセン賞受賞で話題になったファンタジー作家のエッセイ。上橋ファンはもちろんのこと、ファンタジーの書き手になりたい方も読んでみると参考になるかも。小さい頃から感性の鋭いのはもちろん、意外と行動的だったんだなと。
けっこう砕けたことも書いてあっておもしろい。
旅先で嫌なこともあったろうに毒づいていないところが、さすが。挿絵は実父の洋画家、上橋薫氏。
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装画、扉絵は同じ名字の方なので、「ご家族かな?」と思ったのですが、上橋さんのお父様だそうです。雰囲気のある素敵な絵です。
年一回は必ずお母様と海外旅行に出かける上橋さんが、本職の文化人類学者として出掛けたフィールドワークや、高校生の時初めて行ったイギリスでの体験、旅での思い出を書き綴った本で、上橋さんのおっとりとした優しい雰囲気がよく表れたエッセイ集。
巻末には国際アンデルセン賞の受賞についても触れられている。
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あたたかいエッセーで、なんか読みながら泣いてしまった。『灯火色の柿』とかそんな単語にすら涙が出そうになる始末。
大好きな作家さんの素を見せていただける一冊。国際アンデルセン賞受賞、おめでとうございます!!
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図書館より。
やっぱり上質な物語を紡げる人は、エッセイも上手いな~。
最近縁があって、エッセイを読む事が多いんだが、読んでると何故か心がほっこりします。
表紙のイラストも、素敵!
文庫化したら、購入希望。
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痛みについて。
人の痛みを、人は推し量ることができない、
という一節がほんのり心に残っています。
それから、上橋さんが見た、各地の文化。
ハンガリーではクリスマスに鯉を買ってきて自宅のバスタブでしばらく泳がせておくとか。
だだっぴろい草原の真ん中の岩の上に、その場所を通り過ぎて行った人々が食事の支度をした痕が残っていて、その人たち旅立っていき、また違う旅人が訪れて、その跡が歴史をきざむごとにくっきりと色濃くなって残るようになったとか。
上橋作品の文化設定がつくられた背後を知れる一冊です。
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旅に纏わるあれこれが、その時の緊張感とともに、いい体験となってほどよく熟成され、目の前に出された感じ。羊の尻尾は知らなかったけれど、触ってみたくなりました。
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旅を綴ったエッセイ集。
なのですが、紀行文としてさほど異国情緒あふれるわけでもなく
旅エッセイと聞いてイメージするほど、面白おかしいハプニングがあるわけでもありません。
旅に出て、ふと広い空を眺めて、風に吹かれて雲の流れを見たり、違う言葉や匂いの中でぼんやりしたりするような空気感です。
懐かしくでも色鮮やかな思い出のひとつひとつを取り出してきたような。
エッセイとして面白いかと問われると、どうかな?と思いますが
文化人類学の教授であり稀代の児童文学ファンタジーの担い手である上橋菜穂子さんが、
こういう経験からバルサやエリンを生み出し、物語の世界を広げていったんだなぁという片鱗を感じられました。
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当代きっての日本のファンタジー作家が、高校生から今までの、主に旅の出会いを綴ったエッセイ。「守り人」シリーズや「獣の奏者」を書いた人の素地が見えて面白かった。「多民族の共生」というテーマに対して、安易に融和できない難しさを知りながらも小さな願いを無くさない精神を見習いたい。
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旅の話をメインにしたエッセイ。
著者の小説が大好きで、子供のときからたくさん読んできている身としては、こんな風に育って物語が生み出される源泉となったのか~と思い、上橋さんに対し作家になれるわよ!と励ましてくれたある方には大感謝であります。いろんな人とのつながりを大切にしておられることがよく分かる文章でした。サイン会でお話しても感じた温かいお人柄のにじむエッセイです。ただし、くすっと笑える箇所はあるものの、やはり「物語」の方が最高ですね。私はわりと抱腹絶倒系が好きなのでちょっと物足りなかった。分量的にも少なめだしあっさり読めますが。
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様々な旅先での話。印象的な話がたくさんありましたが、何より高校時代にボストン夫人と会うことができた話が私には素敵すぎました☆
その次に、担当者からボストン夫人のエピソードをもっと!と言われた、と書きつつ全然関係ない食べ物の話になったのが・・・いやいやなんで~~と思いつつ^^;
クリスマスに鯉を食べる国があること、そしてその鯉をドナウ川に逃がすことが恒例になりつつある話もなかなか。鯉食べるの日本人だけじゃなかったのねー、なんて(最近はあんまり食べないかな日本でも)。
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上橋さんの人柄を垣間見れるエッセイでした^^
表紙と扉の絵は、お父様が描かれたとか。とても素敵な絵で親子愛を感じさせられます。(お母様の話も多かったので余計にそう思うのかも)
ちょっと気になるのは、ハードカバーなのに文章の下方の余白がとても多いこと。出版社の都合なのでしょうが、ボリュームから考えると余白をあまり入れずにもう少し価格を安くしてくれたら親切だったかなぁと思いました。(物語ること生きることくらいの価格だと妥当かと)
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あの魅力的な作品を生み出した上橋さんの原点がよくわかる一冊。20か国以上訪れているという、人並み外れた好奇心、行動力、観察力から積み上げた多くの経験が、昇華してあの大作に結びついたのだと納得。
学生時代に読んだといういくつかの本へのわくわく感は、わかるわかる!と、とても共感を持った。温かいお人柄がエリンをはじめとする魅力的な人物たちに投影されていると感じた。あの骨太の堂々とした小説は、少女の繊細な好奇心から始まっていたのですね!
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上橋さんの物語の原点にある児童文学の話や、旅先での失敗談などファンにとってはたまらないエッセイでした!
けっこう食いしん坊なんですね。
サトクリフの一言「ふたつの異なる世界を~云々」は、私も泣きました。大好きな運命の騎士が上橋さんも好きなのは、嬉しかったです。