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時代物でかつファンタジーという、ともすれば暴走して自己崩壊を起こしそうな設定を、きっちりとした手綱さばきでまとめ上げている小説。
主な登場人物は主人公の桔梗、侍の静馬、旅芸者の鈴子という三人だが、それぞれ通り一遍の紹介では書ききれない素性と過去があり、そうした裏の要素が物語の中で絡み合い、刀の技と妖の力で戦いを重ねながら結末へと向かっていく。
この物語は、時代物にありがちな勧善懲悪でも、ファンタジーにありがちな英雄物語でもない。やり場のない苦しみと怒りを抱えた者達が、それでも生きようとする人生譚だと思う。
一見重いテーマのように見え、考えさせられるところも多い本書だが、ページをめくると意外なほどスムーズに読めることに驚かされる。思うにそれは、登場人物たちが私達が思いをはせる以上に自らの境遇を悟り、受け入れ、ある種の「境地」に達しているせいで、同情とか思い入れのような要素を抜きにして傍観者の立場として物語に接することができるからだろう。
そうした「境地」が最もよく現れているのが、数多く登場する立合い、つまり戦闘のシーンだ。剣を交える中の所作や心の動きといった表現からは、単なる戦闘の洗練度合いだけでなく、桔梗と静馬の物言わぬ迫力まで伝わってくるようだった。
その表現力こそ、本書を高みへと引き上げているように感じた。