紙の本
実存性の高い、もうひとりの自分
2010/11/10 13:11
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
まれに2~3ページ読んで「これはおもしろくなる」と
実感する小説があります。
本作はプロローグで、画家志望・忍の「描けない」描写とモノローグ、
本章で忍の自己紹介と、普通ならつまらない出だしなのに
「おもしろくなる」とワクワクしました。
リーダビリティがうまい。
言葉が重なるごとに、ストンストンと事物が頭と心の中に入り込み、
彼女の苦悶、危うい結婚生活の不安を理解します。
気がつけば、すっかり小説にのめり込んでいます。
しかも「バイロケーション」という題材が目新しい。
「同時両所存在」つまり「同じ時間に両方存在している」という意味で
バイロケーションは本物の記憶と感情を持ち、
偽物として行動した際の記憶も感情も持ちうるといいます。
似たものに「ドッペルゲンガー」がありますが
これよりもより実存性が高い。
実際に食べるし、物にも触れることができます。
しかし、一定時間がたつと消えてしまいます。
そしてアトランダムに現れます。
本物のふりをして、周囲の人に語りかけ、生活しますから
本人が知らない間に約束をしていたり
仕事上であれば、指示を出していたりします。
しかし、本人は知らないので、あとでトラブルとなります。
このバイロケーションが現れるのが、画家を志す、
20代がけっぷちの女性・高村忍。
彼女は理由があって別居結婚をしています。
バイロケーションが現れ、偽札事件に巻き込まれたところを
刑事の加納に助けられ、
「もう一人の自分であるバイロケーションを何とかする会」に
入会せざるを得なくなります。
この会がまた、胡散臭い。
メンバーは、お金が湯水のようにある50代の飯塚、
水商売っぽい門倉、年老いた医者の御手洗、刑事の加納。
彼らとバイロケーションをつかまえ、殺すことを画策しますが
事態はより深刻になっていきます。
最後の着地まで1ページとも読者を逸らさないで
じっくりと展開させる筆力も堪能しました。
紙の本
やられた。
2015/06/20 02:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:araimon - この投稿者のレビュー一覧を見る
うまく、ハメられました。読み手の視点のすり替わりは、法条氏の得意とするところですが、やられました。差異ねぇ、なるほどです。
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バイロケーション――同時両所存在というその名の通り、本人とは別の場所に突如として発生する<もう1人の自分>。ドッペルゲンガーとは違い、バイロケーションは言葉を喋り、物に触れ、まるで本人のように(実際バイロケーション自身は自分こそが本人だと信じている)振舞う存在である。
この設定だけでワクワクが止まらなかったが、読み進めて期待を裏切らない出来だった。ハッキリいって超絶に面白かった。
第17回日本ホラー小説大賞、長編賞ということで「ホラーかな」と薄々考えていたが、どちらかというとミステリ寄り。まあ前々から日本ホラー小説大賞は良質なミステリ作品を送り届けてくれていた(小林泰三しかり恒川光太郎しかり)からジャンルのことはこの際どうでも良いでしょう。
本書の気に入った点。文章の読み易さ、理不尽な恐怖の中に練り込まれたユーモア・毒の効いた皮肉。読んでいて思ったが、作者は抜群にバランス感覚が良い。悲壮的にならざるを得ないシーンが挿入されたその後、必ずニヤリとさせる黒い笑いを提供してくれる。だから中だるみはなく、退屈しない。
主人公の護衛を努める面子が<金髪>だの<ゴスロリ>だの<セーラー服>だの、こういったファニーなギミックは好物だし、オチは読めてしまうけど、個人的には好きだ。ああいうエンディングって余韻があって良いです。
作者の次回作も楽しみです。苦労された方らしいので、存分に書いて欲しいと思ってます。【421P】
詳しいレビューは→http://d.hatena.ne.jp/kikinight/20101119/1290117057
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ホラー小説大賞長編賞作品。いわゆる「ドッペルゲンガー」の恐怖を描いた作品だけど。よくあるドッペルゲンガーよりも悪質かもしれません。そしてかなりミステリ的。
オリジナルとバイロケーションの見分け方などミステリ的要素がいっぱいで、頭がぐるぐるします。引っ掛かりを覚える点も多くて、中盤までは軽く混乱。だけど終盤にまとまってくると、なるほど。そういうことだったのか!
しかしこんなものが現れてしまったら。本当にどうすればいいのでしょうね。怖くて悲しい物語です。
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http://twitter.com/#!/ZEZEZENZO/status/5659258959958016
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第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。確かに
怖さはあるものの、題材的にSFの要素が強く、なかなかに
状況を理解するのに頭を使う作品。
自分と同じ人間が現れるドッペルゲンガーに似て
非なる現象「バイロケーション」(同時両所存在)が
引き起こす悲劇を綴った怪作。
自分の偽者が自分と同じ行動を取るという
不可思議な現象。その偽者は一見なんら
人間と変わらない生活習慣までこなすという
やっかいな存在。その思考、嗜好、記憶まで同じ。
更にやや細かい設定が諸々あるんですが、その
設定自体がストーリーを運ぶ為に作られたようなものも
あってやや理解に苦しむ場面も多々あった...かな。
かなりシンドいラストもホラー作品なので
致し方ないと思いますが出来たらこの展開で違う
結末を読みたかったかも。それでも十分ホラーに
なり得るんではないかしら。主人公「忍」の
本当に最後の台詞は...身を裂かれる思いです。
今後の作品も期待出来そうな新人作家さんの
登場ですね。
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画家を目指す忍は、ある日周囲の奇異な視線に違和感を感じていた。そして、身に覚えもない犯罪の犯人として、警察官・加納に有無をいわさず連行されてしまう。訳もわからぬまま、連れて行かれた先は、警察ではなく、「バイロケーション」という、自分と同じ容姿をし、同じ記憶に同じ行動をとる奇怪な存在に苦悩する人々が集う「会」だった。はじめは胡散臭く思い、会との関わりを拒否した忍だが、徐々に神出鬼没のバイロケーションに戦きはじめ…。
「自分」という、唯一無二のはずの存在が崩壊する恐怖。そして、本物と偽物は決して相容れることができないという現実。
恐ろしくも、哀しい話でした。
日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
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もう一人の「自分」が自分の近くに現れる事による被害に悩まされる主人公が、同じ境遇の人たちに知り合い、立ち向かう話です。
説明下手な私がこう書くと陳腐になりますが、内容はとてもうまく出来ていて、ラストまで夢中で読破しました。
設定が作り込み過ぎとか、ややこしいのにちょっと説明不足で置いてきぼり食らってるような気がしたりで
最後理解出来なかったら…とか不安になりましたが、大丈夫でした。
他人が信じられず、自分の存在もあやふやになっていくような恐怖が、なかなか面白かったです。
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これは良かった~
ラストもうすうすわかっていたけど、それを凌駕する心理描写があり、必死で読みふけってしまった。
でもそうよねー私でもそうなるかも~変にうなずいてしまったり。
結局愛なのね、愛。
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救われないラストになるのは、ホラー小説だからしょうがないのか。だけどホラー小説なのにあまり怖くない。全体的に怖さよりも「なぜ?どうして?」的な要素が強くて読み応えがありました。ただ、超常現象にこれだけ制約つければトリックも何もないなという気がしないでもないです。
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「分身の恐怖」
自分が増えると楽になると思ってる人。
それは間違いですよ。
不幸が二倍になるどころが、
二乗も誇張ではない。
自分が消されるかもしれない恐怖もあるしね。
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バイロケーションという設定があまりにも作りこまれている感が強くまた説明不足かな、と思うところもあったのですが、いろいろと面白味の多い作品でした。
主人公と同じくバイロケーションに悩まされる人が集う会に主人公も参加するわけですが、その会の秘密主義があまりに徹底されていて謎だらけの展開に導入も早くて話に引き込まれました。
伏線の張り方もばっちりで、また主人公の生活や精神が徐々にバイロケーションに侵食されていく様子の描き方もうまく、話の流れはなんとなく読めたものの、伏線が一気につながるラストは圧巻でした。
その場面での主人公の描き方もかなりの迫力で、後味の悪さがいい感じで尾を引きました。
第17回日本ホラー小説大賞〈長編賞〉
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ドッペルゲンガーの小説を読んだことが無かったので、バイロケーションという設定のどこが具体的に新しいのか正直分からないのだが、終盤のに入った段階で、このドラマを作る上でこの設定が無くてはならないものだったと気づく。大きなオチに当る部分(と考えていたもの)が中盤に仄めかされてしまうので、「え、なんで?」と思っていたが、最後の全てが明らかになる所では、緻密に組み立てられた斬新なドラマならではの驚きがてんこ盛りで舌を巻いた。間抜けなほど口をあんぐりと開けていたように思う。とても楽しめた。ただ、ちょっと最後だけに偏りすぎてバタバタした感じはするが…。
20代の新人がこれだけの作品を書いたことに驚く。「今後大化けしそう」とのホラー小説大賞選者の意見があったが、おそらくその通りになるだろう。次の作品を首を長くして待ちたい。
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もう一人の自分が現れるという現象・バイロケーションに遭遇した忍は、同じ境遇に苦悩する人たちの集まりに参加するのだが……。
第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。導入部から謎、謎、謎の連続でページを繰る手が止まらない。細かな描写の積み重ねにより、もう一人の自分が存在するという恐怖を盛り上げつつ、そこに設定をうまく使ったミステリ的な仕掛けを隠す手法が見事。ラストの後味の悪さも好み。
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バイロケーションという不思議な存在、謎が謎を呼ぶ会とそのメンバーと、先を読ませる気になる要素があり、最後まで読了。リーダビリティは良い。日本ホラー小説大賞受賞作であるが、ぞっとする恐怖はない。ラストにしんみりしてしまった。愛し愛される人がいるかいないか、その一点の違いが人生を大きく分ける。早くいい人を見つけようと思いました……。