紙の本
民族紛争での殺戮に心が沈む
2008/05/25 21:37
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
久し振りにフォーサイスの作品を読んだ。文庫本で出版されているものはほとんど読んだのだが、残念なことに絶筆宣言をしてしまったので、諦めていた。ところが、その後、それまでとやや傾向の異なる『戦士たちの挽歌』、『マンハッタンの怪人』などが出された。しかし、その後もまだ書いているとは知らなかった。
本編は長編で以前の通り、スケールの大きな作品である。フォーサイスは東西が激突するスパイ物から、テロ物と徐々にその傾向をシフトさせてきたが、時の動きに敏感である。世界の動きをモデルの有無は別として、うまく虚実をない交ぜにしているところがその特徴ではないか。
アヴェンジャーと言えば、すぐに思い浮かべるのが太平洋戦争に米軍が投入した雷撃機の名前である。私は昔、百貨店で売られていた米国マテル社のプラモデルをわざわざ購入して組み立てたこともあった。しかし、本書の内容はこれとは関係がない。しかし、その意味するところは名前以外にも含みがあるかもしれない。否、フォーサイスの考え方がそこに出ているとも言える。
記述は相変わらず複雑であるが、わからなくなることは勿論ないのだが、例によって章立てが凝りすぎているかも知れない。とくに上巻は背景の紹介や説明に頁を充てているので、あまり凝らずにわかり易く書いてほしかった。こういう書き方をするのは、フォーサイスかアーチャーくらいか。
大きく分ければ上巻が背景説明、下巻が転結であろうか。ベトナム戦争からボスニア紛争まで幅が広い。ボスニア紛争における国連の無力、無策を痛烈に批判しているところも、フォーサイスらしい。ユーゴが崩壊して民族浄化が始まったのは、ユーゴという国家がチトーによって樹立される以前からの民族問題が背景にある。ユーゴという国家のたがが外されると元の民族間の世代を超えた憎しみが再現されてしまったのである。
フォーサイスはここでボランティアとして若い命を失った米国人を描いていたが、本当はこのボスニア紛争を中心とした内戦を、じっくりとフォーサイスに描いて欲しかったと思う。3代は世代が交代しているはずだが、以前の紛争での民族間の憎悪はそう簡単には消滅しないのである。
新たな暴力は時間を超えて再び出現する。民族間の殺戮はここに限らずアジア、アフリカの地で続いている。上巻の背景説明を読んでいて、そんなことを考えてしまった。下巻のエンディングはやや期待外れであった。南米の架空の国で発生した農場での奪還劇は、40年くらい前の007での阿蘇山のスペクターの秘密基地を思い出させてくれた。しかし、これはいささか時代遅れであった。
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第二次世界大戦、ベトナム戦争の戦友が非道な悪人を成敗する話し。現代の悪人は国際テロリストとも結託し巨大そう。
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面白かったです。
ドキドキしちゃった。
学生時代、寮で一緒だった子がこの手の本が好きで
よく借りて読んでました。
フォーサイスも
チャンドラーも
ジェフリー・アーチャーも
彼女に教わった。
卒業してからは
自分からは好んで読むことはなかったなぁ・・
図書館で久しぶりに読んでみようと
手に取ったのですが大正解。
出てくるこまごました武器や
戦闘機などはさっぱり分からなかったけれど
国や権力の考え方はなんとな分かった。
細かい伏線が張ってあるのも面白い。
流石です。また探して読もうと思います。
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相変わらずのフォーサイスでとても読んでいて気持ちがいい。書いてある内容は決して気持ちがいいというものではないのだけれど。
孫を虐殺された大金持ちの復讐という大きなプロットは、どこかで観たことがあるようなものなのだけれど、それが現代史の中にピッタリとはめ込まれているのが見事である。
とかく人間の描き方が将棋の駒のようだといわれるフォーサイスだけど、この本の人物たちに関していえば、押し殺した叫び声が逆に聞こえてくるような感じがする。
上巻では登場人物と事件が紹介され、さあ行くぞ、というところで終わる。先を読むのが楽しみである。
2006/4/22
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ハードカバーが出版されて読んで、あまりにもよかった。
そして、この最近文庫が発売されてるーーーって
本屋さんへ行ったら感動し。
私は読んだ本はまとめていつもブックオフの買い取りに
来て頂いてるので、読んだ本はもう自宅にはなく(笑)
文庫本にて、また読みたい気分で。
最初のはじまりの冒頭部分から、涙が出始め・・・
早く日本での新しい本出してほしいーーー
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フォーサイスは騙し屋を筆頭に大好きな作家なのだが、これはちょっとらしくなかった。他の作品とは異なって敵アジトへの潜入~奪還までのアクションシーン的なクライマックスで、フォーサイスらしい精密すぎる描写はテンポが悪くなってしまう。残念。
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筆致が淡白すぎるうえに視点もあっちこっちを行き来するため、小説というよりも映画の脚本のような印象。特定の人物に感情移入して読むことは難しく、ドラマよりもディティールで読ませる小説だと思う。終盤の侵入シーンは読み応えがあるが、そこを除けば読み終えた後なにも印象に残らない。実際、この感想を書くのにもひどく難儀した。
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映画の題名のような書籍名であるが、フォーサイスらしく登場人物の幼児期から描かれているので、当然物語は長くなり本来の作品の趣旨(=と思われますが)は上巻ではあまり進展せずに如何に下巻に続いていくかが楽しみ。
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フォーサイスの小説を初めて手にしました。映像で見る方が分りやすいかなと思っていたジャンルですが、実際に読んでみると描写が丁寧で場面が目に見えるようでした。
他の作品も読んで見たいです。
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知らない世界が緻密に描かれて、ハラハラドキドキの展開。特に下巻の後半戦は、どんどん読み進めたくなる気持ちが強くなり、あっという間に読了。
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「フレデリック・フォーサイス」の長篇軍事スリラー作品『アヴェンジャー(原題:Avenger)』を読みました。
「フレデリック・フォーサイス」作品は、一昨年の9月に読んだ『カリブの失楽園』以来ですね。
-----story-------------
〈上〉
巨匠「フォーサイス」が渾身の力で描く、戦争に彩られた半世紀
コードネームは“復讐代理人” 世界中に潜伏する凶悪犯を探し出し、司法に引き渡す「人狩り」を裏稼業とするベトナム帰還兵。
この「戦争の申し子」が世界を“あの日”へと突き落とす!
すべては、1995年、ボスニアで一人のアメリカ人青年が殺害されたことから始まった―。
財界の大物「エドモンド」は、ボスニアへ向かった孫が消息を絶ったと聞かされる。
行方調査を開始して数年、あるセルビア人に虐殺されたと判明するや、「エドモンド」は第二次世界大戦時の戦友、「ルーカス上院議員」に一本の電話を入れた。
2001年、弁護士「デクスター」は模型雑誌に、自分への仕事依頼の広告を見つけた。
ベトナムで最も苛酷な戦闘を潜り抜け、退役後、弁護士として活躍していた「デクスター」は、ある事件を境に、“アヴェンジャー”というコードネームで「人狩り」の裏稼業もやっていた。
今回の依頼は、ボスニアで孫を殺した犯人を捜してほしい、というものだった・・・・・・。
〈下〉
戦争とテロのすべてを描ききった、円熟の軍事スリラー
すべては9.11へ至る道だった。
第二次大戦、ベトナム戦争、ユーゴ紛争・・・・・・戦争に彩られた半世紀を網羅し、テロ社会のすべてを描ききった、8年ぶりの軍事スリラー。 幾本もの運命の糸が、よじれ、もつれながら、2001年9月11日に向けて確実に伸びてゆく・・・・・・。
CIAの極秘チームは、上院議員からの問い合わせにも拘らず、あるセルビア人の所在を入念に秘匿していた。
アメリカ人青年虐殺の容疑で行方を追われている男だが、作戦遂行のキーマンであるこの男を、その時まで、必ず安全に泳がせなければならない。
数年かけて網を張った、決して失敗が許されない作戦なのだ・・・・・・。
そして、「アヴェンジャー」とCIA工作員の命運は、男が隠棲する、南米の地でクロスする―。
幾本もの運命の糸が、よじれ、もつれながら、2001年9月11日に向けて確実に延びてゆく……。
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ベトナム戦争の最前線で過酷な戦闘を経験し、その後、弁護士になるものの、娘が殺害された事件をきっかけに復讐代理人を裏家業として生活するようになった「アヴェンジャー」こと「キャルヴィン・デクスター」の物語と、ボスニアでの慈善活動中に行方不明となった(虐殺された)青年「リッキー・コレンソ」の行方を調査し、首謀者「ゾラン・ジリチ」に復讐を果たそうとする祖父「エドモンド」の物語が中心に展開する序盤、、、
「エドモンド」からの依頼に基づき南米サン・マルティン共和国に潜入し、「ジリチ」を追い詰めようとする「デクスター」と、アルカイダとの交渉に「ジリチ」を利用しようとしていたことから「デクスター」の妨害をしようとするCIAの駆け引きを中心に展開する中盤~終盤… 上下巻で約550ページのボリュームでしたが、愉しくて、意外と早く読み終えてしまいましたね。
■プロローグ 殺人
■第一部
1.建設作業員
2.犠牲者
3.権力者
4.兵士
5.トンネルのネズミ
6.追跡屋
7.ボランティア
8.弁護士
9.難民
10.コンピュータ・マニア
11.殺人者
12.僧侶
13.肥溜め
14.父親
15.変身
16.ファイル
■第二部
17.写真
18.湾岸
19.対決
20.自家用ジェット機
21.原理主義者
22.岬
23.声
24.計画
■第三部
25.ジャングル
26.トリック
27.監視
28.訪問者
29.侵入
30.断崖
31.詭計
32.拉致
エピローグ 忠誠
■訳者あとがき 篠原慎
「ジリチ」を守りたい(利用したい)CIAは、サン・マルティン共和国秘密警察のボス「ヘルマン・モレーノ大佐」を利用して「デクスター」の侵入を食い止めようとしますが、、、
何者かから先に情報を得ていた「デクスター」は、その裏をかき、怪しい人物に成りすましてサン・マルティン共和国へ入国し、偽のパスポートを持っていることを簡単に気付かれ秘密警察に追われる間抜けなスパイ役を演じ、ジャングルの中で死んだと思わせます… 「デクスター」は、秘密警察が油断した隙に別な人物に成りすましてやすやすとサン・マルティン共和国へ侵入。
そのトリックに気付いたCIAの「ポール・デヴロー」は、「ジリチ」に警戒するよう伝え、部下の「コリン・フレミング」を現地に向かわせますが、その頃、既に「デクスター」は、「ジリチ」のアジトに侵入するための準備を着々と進めていた、、、
その後の「デクスター」の手際は見事でしたねぇ… 山地と海(絶壁)に挟まれた半島という自然の地の利を生かしたうえに、様々な罠が仕掛けてあり、軍並みの装備を持った警備隊が守る難航不落と思われたアジトに侵入し、逆に幾つかの罠を仕掛けて警備隊を混乱させ、追い詰められた「ジリチ」は自家用ジェット機で逃亡を図ろうとするが、予め自家用ジェット機に潜んでいた「デクスター」は自家用ジェット機をハイジャックして、「エドモンド」の注文通り「ジリチ」をアメリカの司法当局に引き渡すことに成功。
作戦が成功して、気持ち良く読めましたねぇ… 「デクスター」が弁護士時代に助けて人物が、パスポート偽造やハッキング等で協力して恩返しをすることが成功要因のひとつだし、大きなポイントは「デクスター」に協力的なFBIがCIAの妨害をしたことだと思っていたのですが、、、
FBIではなく、CIAの彼が陰ながら力になっていたんですねぇ… 序盤に巧く伏線が埋め込んであり、なかなか感動的なエピローグになっていました。
ネズミの刺青は、ベトナム戦争をともに闘った「デクスター」と、その上官の絆の証、、、
ベトナム戦争でベトコンを相手に過酷な闘いを続けた二人の絆は、何事にも優先されるんでしょうね… このエンディング、大好きです。
以下、主な登場人物です。
「キャルヴィン(キャル)・デクスター」
弁護士。裏家業として「人狩り」を請負う。コードネーム:アヴェンジャー。
ベトナム戦争当時、特殊部隊「トンネルのネズミ」に所属、通称:モグラ。
左の前腕に雌ネズミの刺青がある。
「アンジェロ・デクスター(マロッツィ)」
イタリア系アメリカ人。キャル・デクスターの妻。
「アマンダ・ジェーン・デクスター」
キャル・デクスターの娘。
「エミリオ・ゴンザレス」
アマンダの恋人。実はヒスパニア系暴力団の団員。
「ネズミ6号」
特殊部隊「トンネルのネズミ」のキャル・デクスターの上司。通称:アナグマ。
左の前腕に雌ネズミの刺青がある。
「リッキー・コレンソ」
20歳。アメリカ人。ハーバード大生。ボスニアへボランティアに赴く。
「アニー・コレンソ」
リッキー・コレンソの母。
「スティーヴ・エドモンド」
アニー・コレンソの父。リッキーの祖父。カナダ財界の大立者。
「ジーン・シール」
スティーヴ・エドモンドの私設秘書。
「ピーター・ルーカス」
米上院議員。スティーヴ・エドモンドの戦友。元OSSに所属。
「ジョン・スラック」
リッキーを雇い入れた慈善団体「神のパン」のスタッフ。
「ファディル・スレイマン」
ボスニア人。イスラム教徒。
リッキーを雇い入れた慈善団体のスタッフ。英語がどうにかしゃべれる。
「グエン・ヴァン・チャン夫婦」
ベトナム人。夫は元ベトコンの少佐。偽造書類作成の達人。
「ワシントン・リー」
18歳、ハッキングで起訴された黒人青年。キャルの尽力で、イースト・リバー銀行に就職。
32歳、コンピューターソフトのコンサルタント会社社長。
「ベンヤミン・マデロ」
ヒスパニア系暴力団のボス。
「フィル・グレーシー」
「事故管理社」の通称:追跡屋。SASの元尉官。
「ドラガン・ストイチ」
セルビの首都ベオグラードで探偵事務所を経営。警察の元高官。
「スロボダン・ミロシェヴィチ」
セルビアの政治家。独裁者。セルビア民族主義を国民に扇動し、利用した。
「ゾラン・ジリチ」
セルビア人。ミロシェヴィチに仕える。民兵組織「ゾランの狼」の隊長。
国を出て、サン・マルティン共和国の要塞に隠れ住んでいる。
「クラチ」
旧ユーゴ時代からのジリチのボディガード。
「ミラン・ラヤク」
セルビア共和国の法科大学院学生。民兵に所属したため、リッキーの虐殺に加担。
「シュレチコ・ペトロヴィチ」
ユーゴ人の駆け出しライター。ゾラン・ジリチの記事を企画。
「コリン・フレミング」
FBI副長官。
「ポール・デヴロー三世」
CIAテロ対策の指揮官。プロジェクト・ペリグリン担当。
「ケヴィン・マクブライド」
CIA捜査官。デヴローの部下。
「ムニョス大統領」
サン・マルティン共和国の独裁者。
「ヘルマン・モレーノ大佐」
サン・マルティン共和国秘密警察のボス。
「ファン・レンスベルヒ少佐」
南アフリカ人。ジリチの要塞の警備隊長。
「ステパノヴィチ」
ジリチの自家用ジェット機の操縦士。元ユーゴスラヴィア空軍の戦闘機パイロット。