紙の本
ヒューゴー、ネビュラ、ローカスという英語圏SF3大タイトルのグランド・スラム達成。しかし、SFの技法を借りた伝統のタイム・ファンタジーとして幅広い層に感動が開かれている。
2003/08/06 17:28
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆる「SF者」ではない私であっても、見出しに上げた3つの賞の名前はよく目にする。グランド・スラムを達成したとなれば、Sciense Fictionの技法の先に広がるテーマやドラマがまた一段と優れているはずだという期待のもと、手に取ってみた。
「手に取ってみた」と退き気味なのは、すでに別の読者の方のレビューに指摘されている通り、表紙装画からくる印象が大きい。きれいな絵柄なのだが、ライトノベルかトレーディングカードを思わせるので「熟女にはミスマッチでは…。思いきし外しそう」という躊躇である。その躊躇を一歩前に押し出してくれたのは、あらすじである。
「歴史学者の夢が実現し、過去への時間旅行が可能となった。専門とする時代を直接観察できるようになり、オックスフォード大史学部の女子大生ギヴリンが前人未踏の14世紀に送られた」
カバーに、ほぼこのような内容が書かれていたのであるが、考古学者が古生代へ恐竜研究に赴くのではなく、スケボーのうまい少年が自分の両親の出会いを演出するのでもなく、パッとしない男性が未来社会で果敢な戦士となるのでもない。旅先が中世という、どこかSFらしからぬ設定に心惹かれた。
英国児童文学の金字塔にアリソン・アトリー『時の旅人』がある。数年前、岩波少年文庫で新訳として出版された機会に読んで魅了されたこの話が、16世紀への時間旅行なのである。転地療養した先で少女がタイムスリップし、エリザベス女王に幽閉されたスコットランドの女王メアリの解放に一役買おうとする。
この世界とあちらの世界を行き来する児童文学のファンタジーではオーソドックスな設定であり、彼の時代の人びととの交流に胸打たれる。時代を超えた人間の普遍性について考えさせられるとともに、歴史のなかの現代の意味を眺める契機を与えてくれる。
結果から言うと、『時の旅人』が持っていたテーマ性やドラマ性を、本書は同様に色濃く持っている。そこにさらに、時間旅行に代表される技術、あるいは伝染病に対する医療といったScienceの要素を加えることで、人間と道具の関係やら、医療と生死の関係やら幅広い要素を抱きかかえることに成功している。
なのに、なぜ★が3つだけなのかというと、それは単純な話で、上巻だけでは著者が広げた地図の面積がまるでつかめないからである。ヒロインのギヴリンが中世へと旅立つ前、どうも彼女はウィルスか何かに感染したらしく、到着すると病に倒れて当初の計画通りの行動が取れない。赴いた先で彼女がどうなってしまうのか、スタッフと決めた予定日のランデブーで生還できるのかというサスペンスに物凄い力で引き摺られながら、同時に彼女と同じウィルスに感染したらしいこの世界の人びとの動向も気になる。
おびただしい量の「どうなる?」がばらまかれている上に、隅から隅までこの物語を堪能したいという気構えの読者なら、牛1匹の登場にも神経を行き届かせておかなければ、下巻で著者の脳内地図を踏破し尽くせない。
気になるからとにかく「すっ飛ばし読み」しながら、必要そうな情報だけは拾い上げていくという私のようなスタイルもあるが、その方法がどうも再読の欲求を高めてしまうことだけは確かだ。
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登場人物が多く、2つの時代を行き来して話が進むためわかり辛いこと多し。
でも読み進めれば、その非常に高い評価に納得できます。感動しました。キャラクターが緻密で魅力的なのも素晴らしい。
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ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を取った三冠王なタイムトラベルSF。死病が蔓延した14世紀にタイムトラベルした史学部学生ギヴリンは突然の病に倒れ、無事に生還できるのか。14世紀と近未来を行き来しながら、純愛について語るすごい小説。読まないと人生そんするかも。
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上巻は読む必要なし。冗長すぎるよ!
上巻は本当に、21世紀側はウイルスによる隔離騒ぎだけだし、14世紀側はほとんどキヴリン倒れっぱなしだし。
SFというわりにはネット理論とか全然出てこないので読みやすいといえば読みやすいけれど、このタイムトラベル以外は全然未来っぽくありません。
携帯電話もなくて、連絡取るのに苦労してるし(テレビ電話になったくらい?)。
でも下巻からは一気に読めるようになります。
21世紀側ではキヴリンが手違いで黒死病(ペスト)の時代に送り込まれたことが判明し、14世紀側では実際、黒死病患者がキヴリンの助けられた村に襲い掛かります。
つか、このへんは読んでいて辛かったです。
キヴリンが面倒を見ていた幼い少女も、そして田舎神父と領主の姑に馬鹿にされていたけれど最期まで信仰と己の勤めを忘れなかったローシュ神父も皆、恐ろしい病に倒れてしまいます。
ローシュ神父はキヴリンを神が遣わした聖人だと思っていましたが、彼こそが本当の聖人でした。
ローシュ神父の魂の安からんことを。
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かわいい女の子の絵にだまされてはいけない(^^; 難解だった?コニー・ウィリスのはらはら・ドキドキ、劇的な作品。映画みたい。
歴史を学ぶ女学生キヴリンは、中世イギリスに旅立つ。しかし、様子がおかしい。注意して避けたはずのペスト流行のさなかに到着してしまったのだ。
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タイムトラベルが可能となった近未来。
オックスフォード大学の女子学生キヴリンは実習の一環として14世紀に赴く。
ところがキヴリンは到着と同時に病に倒れ、
一方彼女を送り出した21世紀のオックスフォードでも
伝染性疾患が蔓延し…
所謂タイムトラベルSFですが、SF色は薄く、
中世の描写の方がかなり詳細。
文章が冗長だと感じる部分もあるのですが、
それ故に登場人物に感情移入出来る部分もあり、
物語の後半、中世のパートで
ペストによってばたばたと人が死んでいく場面は
云い様のない悲しさを感じました。
快い読後感というのとはまた違いますが、
悲惨な状況に立ち向かってゆくキヴリンの芯の強さが印象的な物語。
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とにかくせつない。ラストの焦らしに心が潰されそうになり、最後に涙腺決壊です。
中世にタイムスリップした近未来の女子大生が、ペストの大流行に巻き込まれ、時を同じくして、大学でも伝染病が発生する。人が死にまくる系なので、かなり暗いんですが、コニー・ウィリスはどこか書き方にユーモアというか、軽い希望を感じますね。
リアルな不潔で汚い中世も存分に拝めます。あと師弟愛に萌え萌えしてください。
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内容(「BOOK」データベースより)
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の女子学生キヴリンは、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。
読後感は物凄い。
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パンデミック×タイムトラベルという不思議な組み合わせ。
21世紀のオクスフォードから、14世紀の中世へ、歴史学者の卵の女学生がタイムトラベルするところから話ははじまる。
ただでさえ、黒死病、チフスが蔓延する中世。女学生キブリンは、ワクチンを打ち免疫機能を高め万全の体制をとる。
しかし、21世紀ではギブリンを送り込んだ、タイムトラベル技術者が突然の感染症に倒れる。
一方14世紀のギブリンも時を同じくして?同じ感染症に倒れる。
21世紀で巻き起こるパンデミックと、14世紀に熱病に冒されつつ残された少女の2人の展開がパラレルになって物語りは進む。
特に大事件が次々起こるわけではないが、意見の入れ違いで事態が動かず渾沌とするという展開。
しかたないんだけど、未来の話なのに、携帯電話が無く、固定電話だけでやりとりしてるから、関係者がつかまらない、とか、
隔離地域にいるからタイムトラベルの重要な情報を技術者に読んでもらえないというじれったい展開はインターネット普及以前の物語ならでは。悪く言うと隔世の感。
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時間旅行が可能になった未来。
大学の研究者で、中世に遡る実習をするヒロイン。
ところが、時間軸がずれ、ペストが流行する時代についてしまう。
しかも、未来でも問題が起こり…
迫力があります。
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まず、一言。
ハヤカワさん、この表紙は手に取りにくいです(汗)
少女マンガ?
コニー・ウィリスの仕掛けるタイムパラドクスシリーズの第一弾、
今作ですが、プロットといい、ストーリー展開といい、
作品の裏に流れる思想といい、
あらゆる点で秀逸の作品です。
時は未来。
その時代、考古学の研究は、
時間をさかのぼり、その時代に実際に赴き、
現場で調査をする方法へと進化しています。
オックスフォード大学の女学生キブリンは、
中世のイギリスへと調査に出るのですが、
その直後、エンジニアが高熱に倒れ、
キブリン自身も到着した中世の世界で、
高熱に倒れます。
果たして彼女は、現代へと帰ってこれるのか!
という、タイムパラドクスでありがちな始まりなんですが、
いやいや、それがそんなに浅くないんです。
「なにが浅くないのか」を言ってしまうと、
ほぼネタバレとなってしまうので、
気になった方は、読んでみることをお勧めします。
決して損はさせません。
芯が強く、決してあきらめないキブリンも魅力的なんですが、
キブリンを現代に戻す手立てを必死に探しまわるダンワージー教授も、
とても魅力的な人物です。
コニー・ウィリス自身は、ダンワージーは、
ハリソン・フォードを思い描きながら書いたと言ってましたが、
そうやって想像して読むと、またこれがうまくはまるんです(笑)
ぜひぜひ一読を。
それにしても、当たり前のことですが、
中世イギリスで話されていた英語と、
現代の英語はまったく違うんですねぇ。
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「犬は勘定に入れません」を読んだ時、同一設定の話があるということだけ知って、いつか読んでみようと思っていた。
「犬は…」の細かい筋立ては忘れてしまったけれど、勢いがあってとにかく面白かった印象。なので、この「ドゥームズデイ・ブック」(最初は黙示録系パニック映画のノベライズか何かかとおもった、このタイトル)は割合悠長な筆の進みながら、辛抱して後半の展開を待つ。
二十世紀も中世も、今のところなかなか思わせぶりなまま…
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ダンワージー教授シリーズにはシリアスとコメディがあって
コメディには『犬は勘定に入れません』があり、
シリアスではこれ! らしいです。
でも上巻は割と『犬は~』のノリで読めちゃう。
携帯電話とウォシュレットの無い世界は
斯くも過酷であった。
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おもしろかった〜〜〜。タイムトラベルとかきくと、げげっと思うほどSFは苦手なのに、ぜんぜん違和感がなく、すごく楽しめた。歴史家がタイムトラベルで過去に行って研究するのが普通になっている未来の話。前半までは、ユーモアたっぷりに描かれる未来と、情緒的な中世をのほほんと楽しみ、でも、後半からはタイムトラベルで向かった中世の、疫病の、恐怖をたっぷり味わって。本当にこわかった。ラストに近づくにつれてどんどん人が死に、すさまじい場面に読むのがつらかった。でも、どうなるんだろう、と読むのをやめられない。そして、そんな地獄のなかにひとすじの光を見るような、なんというか、すがすがしさ、高貴さ、を感じるような。作者の、希望を捨てちゃいけない。あきらめちゃいけない。っていう、そんな人生観のようなものが感じられて。コニ・ウィリス、大好きかもしれない、と思いました。
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出だしが読みづらくて、一度挫折。
でも今回は途中から一気読み。近未来と中世、どちらも臨場感あってハラハラする。
中世に流行したのあの病気は、こんなのだったのねって初めて知った。