紙の本
ラスト一行の衝撃
2004/06/17 02:34
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投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
登場人物たちが抱える抑圧感の重さ、その深刻なことに、ぞおーっとさせられたのが本書、ロス・マクの名作『さむけ』( The Chill, 1964 小笠原豊樹訳 )。
ドリー・マギーと、彼女の伯母アリス・ジェンクス。ヘレン・ハガティと、彼女の父親のアール・ホフマン。ロイ・ブラッドショーと、母親のミセス・ブラッドショー。
彼らの深刻な対立、一方が他方に与える重圧、他方が一方に感じる抑圧。
ただならないきしみと悲鳴を聞いているような、ムンクの「叫び」の絵がを彷彿とするような、声にならない彼ら登場人物たちの悲鳴が行間から聞こえるような気がしました。
読みながらはっとさせられたのは、ヴェルレーヌの詩が文中に出てきたことです。わが国でもよく知られたこの詩の味わいは、ロス・マクの作品の味わいと響き合うところがあるなあと、しみじみ胸に迫ってくるものを感じました。
霧が辺りを包み込む情景というのも、本書の味わいに実にふさわしい。霧とミステリというと、いまちょうど読んでいるクリスチアナ・ブランドの『疑惑の霧』も挙げておきたい作品なんだけれど。
事件はやがて、リュウ・アーチャーの丹念な聞き込みによって、錯綜した暗がりから陽の下にさらされます。ラストには、心底ぞおーっとして、戦慄させられました。
本書にずしんとくる衝撃を受けた方には、マーガレット・ミラーの『まるで天使のような』( How Like an Angel, 1962 菊池 光訳 ハヤカワ文庫HM )もおすすめします。ラスト一行のただならぬ恐さ、こ、こいつは……すげぇーと震撼とさせられるミステリってことで、本書に優るとも劣らない「最後の一撃」を感じたから。
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ハードボイルドの巨匠の代表作。ですが、本格ミステリの傑作と言ってもまた過言ではない
2023/03/29 12:09
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投稿者:アントネスト - この投稿者のレビュー一覧を見る
青年アレックスの結婚したばかりの妻ドリーが行方不明になった。ドリーを探すよう依頼された私立探偵リュウ・アーチャーはほどなくして彼女を見つけ出す。が、その矢先、ドリーの友人が殺され、殺したのは自分だとドリーが言いだす。ドリーの不安定な精神状態の陰には、幼いころ父が母を殺したという事件が横たわっていた・・・・・・
ドリーの母の死と現在の殺人がどう結びつくのか、事件の全体像はなかなか見えてきません。二つの事件が関係するとしても、直接結びつくのではないのだろう。そんな風に考えていた勘の悪い読み手である私は、終盤、ある人物を中心にし、○○という○○を補助線として引くことによって一気に明らかになる真相に衝撃を受けました。しかし、真の驚きはそのさらに後に。巧みなプロット、意外な真相は本格ミステリそのものと言ってよい、本格ミステリ好きも必読の名作。
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非常に面白い
2021/10/02 06:48
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投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
津村記久子さんの紹介でこの本を知り、読んでみたが、非常に面白かった。登場人物の関係図に少し混乱することがあったが、題名の意味もよく分かった。今では入手が難しいようだが、他の本も読んでみたい。
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『夜明けの睡魔』でも激賞
2021/01/30 13:44
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投稿者:honto好き - この投稿者のレビュー一覧を見る
失踪人調査の依頼を受けてアーチャーが探し出した新妻は、人を殺したと告白した。事件の遠因に過去の殺人事件のと死亡事故の影が。本格としても傑作と聞いてたので、あれこれ推理しながら読んだ。まさに『さむけ』を催す真相。でも、これは「アメリカの悲劇」か?アガサ・クリスティー級のトリック、横溝正史張りの愛憎劇。
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確かにラストは衝撃の「さむけ」を感じた。ロスマク初の私にとっては、ちょい疲れました・・多分、暫くして再読したらもっと楽しめる様な気がしてます。
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ミステリー月間続き。
The chill
登場人物が多いのと、カテゴリー的に ハードボイルド
となっていたのでちょっと面食らってよみはじめたけど
これは面白かった!
本当に犯人が全然わからなかったし
もう一度よみたいと思いました。
三つ子の魂百まで。
うん。
Oct 2009
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『わたしは、自分の権利を守っただけです。』
ハードボイルドの大作。こういうタイプの小説では、主人公の人格によっておもしろさが全然変わってくるものだけど、本書の探偵アーチャーは、非常に魅力的。そして、ラストで感じる「さむけ」。まとまった時間をとって、腰を据えて読みたい一冊。
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再読……だったのですが、内容をまったく覚えておらず、新鮮な気持ちで楽しめました。
時間の大きく開いた現代の殺人事件と過去の殺人事件に共通する動機が明らかになった時、一人の人間の持つ業の深さとフロイト的な病理が浮かび上がってくる構成は見事としか言いようがありません。
謎解きとテーマが深く結びついているので、詳しく説明できないのが残念。
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滅多に読まないハードボイルドであります。人間関係が恐ろしいほど複雑なので、これは一気読みしないとキビシい。「傑作だ!」と叫びたくなる程じゃないですけど、必読であることは間違いないです。
ラストは本当に寒気がしますぜ!
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直接登場する殺人は一度きりとストーリーは少々地味。混み入った過去が露わになる過程で次々現われる、ひと癖ある人間たち。
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一人の失踪事件を発端に、次々と明らかにされる驚愕の真相。そして一番の驚愕はなんといっても犯人の正体です。
タイトルの通り「さむけ」のする真相ですが、そのさむけは女の執念になのか、男の永い狂気の生活になのか、幾重にもからまった人々の悲劇になのか。
幾つもの事件が絡まる上に、登場人物たちがあっちでもこっちでもつながっていて混乱しますが、読みやすい文体で一気に読めました。
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チャンドラーの後継となるハードボイルド作家ということで、どうしてもロス・マクドナルドの描く本作の主人公『リュウ・アーチャー』とチャンドラーが生み出した『フィリップ・マーロウ』とを比べてしまう。
本作のアーチャーは、物語を通して実に客観的でノスタルジックであり、それでいて俗っぽさのかけらもない。
マーロウが人情的で皮肉たっぷりに相手に囁いても、どこか憎めなかったのに対して、アーチャーにはそうした人間らしさが感じられないのです。
しかし、そこがまた良い。
本作では、新婚旅行中に失踪した花嫁の行方を追うところから物語は始まります。
わずか1日だけの花婿アレックスは私立探偵アーチャーに、彼女の捜索を依頼します。
彼女を探すうちに起こってしまったある1人の女性の死が、物語を思わぬ方向へと導いていくのです。
本作を端的に言い表すとするなら。
現在目の前で起きていることは、全ての過去の積み重ねであり、未来とは必ずしも全ての人の前に平等に開かれているものではない。
こう言えるのではないでしょうか。
物語をとおして、ある2人の人物が起こしてしまった長い物語の結末。2人を除く全ての登場人物は、彼らの愛憎と嫉妬に巻き込まれた普通の人だったのに…という、やりきれなさが読了後には残りました。
アーチャーが依頼人であるアレックスに『この瞬間、わたしはアレックスを初めて好きになった』と、好感を持つ場面。
本作を通じて、一番好きな場面です。
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リュウ・アーチャー・シリーズ
結婚直後消えたドリー・マギー。夫であるアレックス・キンケイドの頼みで捜査に当たるアーチャー。ドリーの通う大学の補導部長ブラドショーの家で運転手のアルバイトをしているドリー。ドリーと接触していた謎の男チャック・ベグリー。ドリーの父親起こした母親殺人事件。裁判で証言したドリーのトラウマ。殺害された大学教師ヘレン・ハガディ。ドリーの部屋から発見された凶器の拳銃。精神科医ゴッドウィンにかくまわれるドリー。ヘレンの故郷で起きたデロニー殺人事件。デロニーの恋人だったレティシャ。レティシャと恋をして結婚していたブラッドジョー。戦争中にフランスで死んでいたレティシャ。ブラッドジョーと不倫をしていたドリーの母親。3つの殺人事件に関わるブラッドジョーの恋。
2011年10月1日読了
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生涯、読んだミステリーの中でベスト5に入るだろう傑作。複雑な人間関係、男女の情念、地位への執着、過去と現在を行き来するプロットを見事に料理し、納得のゆく結末。すべての登場人物に個性があり、作品に緊張感がある。題名の「さむけ」は、読後数時間たってから感じた。翻訳は若干古臭い気もするが、50年代末を舞台とする作品の雰囲気には合っているかもしれない。ミステリーファンは必読。ただし、作品が複雑なので一気に読んだようが良い。
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ラストで真相が分かった時、思わず声が出るほどに驚いた。(ホントに出た。)犯人の執着心があまりにもこわい。。
この犯人の病的な考え方が、周りに伝染していたかのようにも思える。そう考えるとまた恐ろしい。
町には常に霧が立ちこめているし、ストーリー自体、ちょっと湿っぽい。なので、ごく稀にアーチャーが友人と交わす冗談にほっとした。