投稿元:
レビューを見る
日本経済新聞社
小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
印刷
人体の物語 H・A=ウィリアムズ著 身体と向き合った文化の歩み
2014/10/19付日本経済新聞 朝刊
実体が完全には分かっていない人間の身体は、いまでも「小宇宙」などと称される。科学ライターのかたわら博物館の展示企画も手がける著者が、ルネサンス以降の絵画や文学作品を引き合いに、身体に向き合ってきた人間の歴史をつづる。日常的な言葉によるユーモラスな語り口で、素朴な疑問を取り上げていく。
16世紀の宗教改革や技術革新を背景に、欧州で本格的な解剖学が始動。人体解剖は当時、ショーとして執り行われた。「解剖劇場」の文字が刻まれた建造物も現存しているという。入場料は演劇よりも高額で、音楽が奏でられ、料理やワインを楽しみながら見物したというから驚きだ。
閉ざされていた人体への関心が一気に噴き出し、医学の進歩だけでなく文化面での受容も進んでいく。「シェイクスピアが作家として活動していた頃、人体に対する私たちの理解の進展が重大な局面を迎えていた」。例えば「ヴェニスの商人」では「肉」を巡るやりとりが見せ場となり、「マクベス」では「血」がストーリーをつないでいる。
「鼻を利かせる」「神経に障る」といった身体にかかわる慣用表現が言語を超えて通用する例や、心臓を表すハートマークが成立した経緯なども詳述。硬軟織り交ぜた豊富なエピソードで解剖学と文化の歩みを満喫できる。松井信彦訳。(早川書房・2600円)
このページを閉じる
NIKKEI Copyright © 2014 Nikkei Inc. All rights reserved.
本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。