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スペインはアンダルシアにある「共産主義」の小さな村(プエブロ)、マリナレダのルポルタージュ。
著者はイギリス人ジャーナリスト。
この村は「共産主義の」と説明されるけれど、すっかり汚れてしまった“アカ”のイメージにはそぐわない。
自由と自治を重んじ、権力にあらがい、資産を分配するが個人の商売は自由。
相互に協力し助け合い、食うのみならず楽しみも保障する。
共産主義が夢と理想で語られた時代の共産主義を体現したような村だ。
この独自の共産主義は、スペインの体制とアンダルシア人の気質が影響しているという。
ごく一部の大地主が広大な土地を所有し、そこを耕す労働者には仕事がない。
目の前の土地を耕せれば食えるはずなのに、その権利がないから大勢が飢えている。
そこで「土地をよこせ、働かせろ、生きさせろ」「みんなが食えるようにしよう」という闘いが自然にはじまった。
教科書を読んだエリートが呼びかけたのではなく、必要に迫られてたどりついた思想だから、思想が「目的」ではなく「道具」でありつづけている。
とはいえ完全なるユートピアではもちろんなく、なじめない人や懐疑的な人もいる。
理想を共有できない人にとっては居心地が悪い。(どこもそうだろうけど)
農民が土地を手に入れる、というテーマにしぼって闘っているから、他の仕事を目指す人は外に出るしかない。
村長サンチョス・ゴルディーヨのカリスマ性に依拠した闘争は将来に不安がある。
思想というより運動だから、他の場所にあてはめられない部分も多い。
など、たくさんの欠陥がある。
でも考えてみれば完璧な国や組織などないのだから、個々の指摘はともかく完璧じゃないことを批判するのはおかしい。
完璧じゃないことを批判されるほど理想化(あるいは敵視)されているのがマリナレダということか。
文章は若干よみづらい。
でもどこまでも理想に向かって突き進む希望の姿と、すべての問題を解決する理想郷ではない実際と、両方の現実にふれる書き方が良い。
サンチェス・ゴルディーヨの言葉には力があり、村のやりかたには賛成できるところもそうじゃない部分もある。
思想の賛否よりも自分たちのために立ち上がり、闘い続けてきた姿に打たれる。
自分たちが直面する問題だから自分たちでどうにかする。
あるべき姿・ありたい姿を目指してすすんでいく。
そういうやり方にシェーナウをhttp://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4272330764連想する。
「食料の主権」「食料は商売道具ではなく権利」というあたりは『鷲の羽衣の女』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/B000J7H5FCを思い出した。
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「ここの人々は自然に共産主義者に育つのかという問いには彼も何と答えていいか分からない様子で、「村人の多くは共産主義者になるけど、それは仕事や家が欲しいからで、別に共産主義者になりたくてなるわけじゃない。家でカール・マルクスを読んでいる人なんていないよ」と言った。」
スペインの小さな村、マリナレダ。そこには資本主義の世界とは違う暮らしが存在していた。かつて、ロバート・オーウェンはニューハーモニー計画の下、共労社会を作ろうとして失敗した。しかし、このマリナレダではそのような共産社会が実現している。
この本の前半は村の成り立ち、後半は村の現実について書かれている。6章”ユートピアの反対派”以降は面白かった。やはり住民の自発的な協力は得られない。強いリーダーが強力に共産主義を押し進めていかなければ実現しない。ミニチュア版ソ連だ。トロツキーの目指した理性に訴えかけて革命を導くのは無理で、ボリシェビキのような即物的な方法が住民の理解を勝ち取る。結局、貧困層に知性を期待してはいけないのだ。
共産社会はたいへん興味深く、面白いと思う。しかし、今まで多くの人々がそれを達せられなかった点から分かるように、全員が平等になるのは、全員の知性が平等じゃない時点で不可能だ。
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フランコの独裁の後
一人のカリスマ性の強いリーダーを得て
非暴力を掲げながらも様々なアイディアによる
ハンガーストライキ・不法侵入・集団窃盗など
不法な手段も駆使しながら
死にものぐるいで極貧から立ち上がった村
自称スペインの片田舎にポツンと生まれた共産主義の村
しかし官僚制度の陰もなく
まるで全員参加による直接民主主義を実施している
ホピ族やアボリジニの暮らし振りに近いような
階級のない無政府状態にすら見えるユートピア
最大地主の土地を合法的にもぎ取ることに成功し
小作から自営農業を集団で営む福祉国家へと進む
利益を目指すことなく雇用を目指し
オリーブオイルなど第2次産業を視野に入れた
農業を計画する
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理想郷は一夜にしてならず。そして市民のアクションなしには実現しないということ。人任せでは世界は変わらない。
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リーダー無しでは理想郷は築けない。そして、賛同する市民活動で政治を変えられることを体現してくれた街の話。
草の根運動の大切さを伝えてくれる。
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「土地は耕す農民のものだ」というスローガンで土地を占拠し、ついには闘争を通じて土地を獲得、水平的な運営をしている現代のユートピア、マリナレダのお話。カリスマ的リーダーのもと、様々な問題を抱えながらもコミュニズムを実践している。多数の村民とのインタビューをもとに、マリナレダの闘いの歴史が詳しく記載されています。せっかくだから写真とか入れてくれたらもっと魅力的な本になったと思うのですが・・・ スペインにはアナキズムの伝統がしっかりと根付いているんだ、と改めて印象的なストーリー。
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理想の村とは…?しかもそれがスペインにあるの?と全く興味も知識もない状態で手に取る。
スペインの深刻な経済状況と、地面が干からびるような渇きと暑さの描写に圧倒されながら、今まで知らなかった世界に興味が惹かれ読み進める。
スペインの状態が酷すぎることと、マリナレダが本当に奇跡的に(という言い方は闘争によって日々を切り開いてきたマリナレダの人々に失礼?)人が人らしくあれる水準の運営を、村独自でしてきたこと。
最後の方ではその中心的・絶対的な人物である村長の翳りが描写される。
もう8年前くらいの情報。そして一ジャーナリスト…?による報告。今スペインは、マリナレダはどうなっているんだ!めちゃくちゃ気になるので調べます。
デモやストライキに関して、どうもよくわからないものであったのが、マリナレダに関して描かれる風土・社会的仕組みを読むことで「そういう」行動なんだな、と腑に落ちた感じがある。
とりあえずもう少しマリナレダを知るには、物知らず過ぎるので付随して確認することが沢山ありそう。