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「物語る」ということ。それは人生そのものなのだろう。自分と、自分と関わるすべての人の人生そのもの。
一度とらわれるとそこから逃れることはできない。物語に殉ずるしかなくなる。そしてそれはきちんと死ぬことへとつながる。
書くことにとらわれた人の、それは性というか業というか。
この物語を紡いだ大島さんも、そういう「書く」ことにとらわれた一人なのは間違いない。この不思議な物語を読みながら、私はチャーチルになりたい、と思った。チャーチルになってホリーさんと一緒に書くことにとらわれて生きてみたい、と。そしていつか「あなたの本当の人生はね…」と語られたい。でもそのときが来るまえにコロッケを作らなきゃ。丁寧に丁寧に。人生を紡ぐように。物語を描くように。誰かの枯れかけた物語る力をよみがえらせる魔法のコロッケを作らなきゃ。
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【「書く」ことに囚われた女たちの三者三様】敬愛する作家のもとに住み込みで働くことになった新人作家。その風変わりな屋敷で、長年の秘書や担当編集者が抱える秘密を知って…。
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あまり意識せずに読み始めたら、ホリーさん、宇城さん、チャーチルの視点でかわるがわる話が進むので、霧の中を何もわからずに手探りで進んでいるようなそんなもどかしさがありました。この物語は一体と思い、帯を見直すと、”書くことにとらわれた”との言葉に、なるほどと思いました。まさに、書くことにとらわれた女たちの人生の物語です。書くことにとらわれていも、食べなければ生きてはいけない。書くことの次に多く出てくる食べ物や食べるもののシーン。このシーンがあることでこの話が日常生活の中で起こっているのだと認識させられます。コロッケがとてもおいしそう。食べたくなります。大海原でさまよっているような感じで読み進みますが、読み終わった後にはちゃんと目的地にたどり着いているようなそんな物語でした。
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「書く」ことに囚われた三人の女性たちの本当の運命は……
新人作家の國崎真美は、担当編集者・鏡味のすすめで、敬愛するファンタジー作家・森和木ホリーに弟子入り――という名の住み込みお手伝いとなる。ホリー先生の広大で風変わりなお屋敷では、秘書の宇城圭子が日常を取り仕切り、しょっぱなホリー先生は、真美のことを自身の大ベストセラー小説『錦船』シリーズに出てくる両性具有の黒猫〈チャーチル〉と呼ぶことを勝手に決めつける。編集者の鏡味も何を考えているのか分からず、秘書の宇城は何も教えてくれない。何につけても戸惑い、さらにホリー先生が実は何も書けなくなっているという事実を知った真美は屋敷を飛び出してしまう。
一方、真美の出現によって、ホリー先生は自らの過去を、自身の紡いできた物語を振り返ることになる。両親を失った子供時代、デビューを支えた夫・箕島のこと、さらに人気作家となった後、箕島と離婚し彼は家を出て行った。宇城を秘書としてスカウトし書き続けたが、徐々に創作意欲自体が失われ……時に視点は、宇城へと移り、鏡味の莫大な借金や箕島のその後、そして宇城自身の捨ててきた過去と、密かに森和木ホリーとして原稿執筆をしていることも明かされていく。
やがて友人の下宿にいた真美は、鏡味と宇城の迎えによって屋敷へと戻る。そしてなぜか、敢然とホリー先生と元夫の箕島にとって思い出の味を再現するため、キッチンでひたすらコロッケを作りはじめた。小説をどう書いていいのかは分からないけれど、「コロッケの声はきこえる」という真美のコロッケは、周囲の人々にも大評判。箕島へも届けられるが、同行した宇城はホリー先生の代筆を箕島に言い当てられ動転する。真美、ホリー先生、宇城、三人の時間がそれぞれに進んだその先に〈本当の運命〉は待ち受けるのか?
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森和木ホリー、宇城圭子、國崎真美という三人の書き手の三者三様の人生の物語なのだが、ホリー先生自身と彼女の紡ぎだした「錦船」というファンタジーを軸にして、三者が分かちがたく絡み合っている。宇城と真美はホリー先生の預言者めいた言葉にある意味縛られ、そのホリー先生は、突然現れた國崎真美に何かを開かれていく。痛いような心地好いようなどこにもない物語で、いつまでも浸っていたい一冊である。
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「書くこと」が人生の核になっている(いく)老年・中年・若年3人の女性の物語。書くこと、の本質を、それぞれの人生に沿ってさりげなく追求していくアプローチが新鮮。
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人気シリーズで名を成した大御所作家とその秘書。2人が暮らす家に、デビューしたはいいが以後鳴かず飛ばずの新米作家が、担当編集者の提案により、弟子入りの形で同居することになる。
やがて新米作家はその家で、意外な方法で存在感を示すようになる。そのことで微妙に立場が変わっていく3人。それぞれの目線で、くるくると語り手が変わっていく不思議なストーリーである。
文中、「あなたの本当の人生は」という自らへの、そして相手への問いかけが頻繁に登場する。今の自分の人生は果たして自らがその意思で選びとったものなのか、それとも何となく流されているうちにいつしかたどり着いたものなのか。そして3人はそれぞれ、「これでいい」と納得できる心境やポジションを、三者三様のやり方で獲得するのだった。
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すばらしい小説だった。物語についての小説。
ここでの物語とはイコール人生と言っても良い。
作者自身も奇妙な小説と言うようにその内容を説明することが私の力では出来そうもない。
書くことにとらわれた年老いたジュニア小説家とその秘書と弟子が主人公。この三人のそれぞれの目線から物語は進んでいく。
この設定だけ聞いても正直食指が動かなかった。
作家が作家を主人公にしちゃうなんてどうなのよと。
登場人物を見る限り軽くて安易な内容を想像してしまった。
いやはやとんでもなかった。
大島さんの力量を完全に侮っていました、ごめんなさい。
魅力的な登場人物たち、現実と物語が錯綜する設定、そして物語とは何か人生とは何かを問い続ける台詞。どれもこれも文句なし。
読みながら私も物語の世界に足を踏み入れているような感覚に陥り、終わってしまうのが寂しくて寂しくて。
でもこの物語は未完、いつまでも。
一番好きな登場人物、担当編集者の鏡味の言葉を借りるならば物語はいつも未完なのだ、無理に終わらせる必要はない。
そうだ、私達はいつだって物語を欲しているのだから。
「さあ、くれ。わたしには物語が必要なんだ。物語をくれ。」
「さあ、くれ。くれよ。もったいぶらずに」
そう、その通り。
この小説は物語を書く側の小説でもあり同時に読む側の小説でもある。
だから存分に楽しめた。
「あなたの本当の人生は?」
何度も何度も繰り返されるこの台詞。
登場人物と一緒に私自身も自問自答。
おおげさな言葉のようだが、この本の中で問われるとなぜか心地良い。
人生について思いを馳せながら読み終わった。
本当に素敵な小説だった。
ああ、そうそう装丁もすばらしいです。
このイラストレーターのファンになってしまいました。
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内容紹介
「書く」ことに囚われた三人の女性たちの本当の運命は……
新人作家の國崎真美は、担当編集者・鏡味のすすめで、敬愛するファンタジー作家・森和木ホリーに弟子入り――という名の住み込みお手伝いとなる。ホリー先生の広大で風変わりなお屋敷では、秘書の宇城圭子が日常を取り仕切り、しょっぱなホリー先生は、真美のことを自身の大ベストセラー小説『錦船』シリーズに出てくる両性具有の黒猫〈チャーチル〉と呼ぶことを勝手に決めつける。編集者の鏡味も何を考えているのか分からず、秘書の宇城は何も教えてくれない。何につけても戸惑い、さらにホリー先生が実は何も書けなくなっているという事実を知った真美は屋敷を飛び出してしまう。
一方、真美の出現によって、ホリー先生は自らの過去を、自身の紡いできた物語を振り返ることになる。両親を失った子供時代、デビューを支えた夫・箕島のこと、さらに人気作家となった後、箕島と離婚し彼は家を出て行った。宇城を秘書としてスカウトし書き続けたが、徐々に創作意欲自体が失われ……時に視点は、宇城へと移り、鏡味の莫大な借金や箕島のその後、そして宇城自身の捨ててきた過去と、密かに森和木ホリーとして原稿執筆をしていることも明かされていく。
やがて友人の下宿にいた真美は、鏡味と宇城の迎えによって屋敷へと戻る。そしてなぜか、敢然とホリー先生と元夫の箕島にとって思い出の味を再現するため、キッチンでひたすらコロッケを作りはじめた。小説をどう書いていいのかは分からないけれど、「コロッケの声はきこえる」という真美のコロッケは、周囲の人々にも大評判。箕島へも届けられるが、同行した宇城はホリー先生の代筆を箕島に言い当てられ動転する。真美、ホリー先生、宇城、三人の時間がそれぞれに進んだその先に〈本当の運命〉は待ち受けるのか?
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人気ファンタジー小説シリーズで名を成した森和木ホリー先生は、ちょっと不思議なおばあさん。
昔、地方の市民会館に勤めていた宇城に「あなたの本当の人生はここにはない」と言って秘書として雇う。
そして弟子として住み込む事になった新人作家の國崎真実を(自分の小説に出てくる黒猫)「チャーチル」と呼ぶ。
この3人の視点で語られる物語。本当の人生とは?選ばなかった選択肢には何があったのだろう。
ホリー先生には何かが見えているけれど、しかし、操っている訳ではないと感じる。
宇城も真実も自然な流れで、自分の本当の人生にたどり着いたと。
そして結局書くということに囚われているふたりによって、森和木ホリーの人生とそして『錦船』シリーズは続いて行くのでしょう。
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新人作家の真美は行き詰まっていた。担当編集者の言われるまま、憧れの作家に弟子入りすることになった。その弟子入り先の屋敷で起こる、少しだけ不思議な物語。
キャラクターが個性的で、でも物語は静かで落ち着いています。それぞれの視点で見る面白さはありますが、ちょっと長すぎる気も。
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今年最初の収穫。
てらいのない文体だが、読み込むと深みがあり、登場人物の絡み方もいい。
確かに、コロッケには人を楽しくする何かがある気がする。
そういえば、「ピエタ」もよかった。
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直木賞ノミネートという事で読んでみることに。
本屋大賞第3位の『ピエタ』が気になりつつも未だ読めていない。初作家。
特段の抑揚がある訳でもなければ詩的でも、哲学的でもない。
けどこのサラリとした力みの無さが逆にそういうことなんだろうと思う。
『あなたの本当の人生は』
等身大、身の丈、望まずとも向こうからやって来る。という感じかな?
それにしても候補作品と言えども直木賞っぽくない。
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読み終わったあとむしょうにコロッケが食べたくなった。
明るい小川洋子、直感的でないよしもとばななそんな雰囲気。面白いと思うけれど、こういう作風ってどこか既視感を覚えてしまう。
面白いとは思うけれど。
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「書くこと」に囚われた3人の女性の物語。
人物の絡み合い方が独特で、話の展開も不思議な方向へ。捉えどころのない小説でした。
一番捉えどころがないのは、森和木ホリー先生。
魔女みたいな人でした。
言葉のリズムが面白く、じっくり読むと味わい深いです。
そして、コロッケが食べたくなること間違いなし。
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#読了。第152回直木賞候補作品。人気作家の森和木ホリー、ホリーの秘書の宇城圭子、ホリーの弟子になる新人作家國崎真実。3人の書き手を軸に、視点を変えて物語は綴られる。ファンタジー的な要素も。「書く」って、こういうことでもあるのだなと感心させられることも。編集者の鏡味氏が、コロッケ同様いい味だしているなと。