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最近、何故かタイトルがギリシャ神話から引用されている作品が多い。冤罪を扱った話となっているが、冤罪そのものというよりも刑事に成長譚としてテーマとなった感がある。過去の別の作品に登場する人物が登場し各作品の関連性がわかるようになっているが、わからない読者であっても特段問題はない。冤罪の元となったそもそもの犯罪については強引な感が強く、意表を突くという目的であったとしても、強引な印象が勝り、どんでん返しを食らった快感は残念ながら得られない。
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中山作品といえばデビュー作にして技巧どんでん返しの『さよならドビュッシー』や、続編の『おやすみラフマニノフ』が有名で、さらにこのミスファンなら、さよなら〜と史上初のダブルノミネートの、『連続殺人鬼カエル男』の、タイトルと脱力するようなカバーイラストを覚えている人もいるんじゃないだろうか。
キワモノ好きの習いでまずは連続〜から読み、それからドビュッシーに行って、デビュー作でこんなにネタたくさんだして大丈夫なのかなあ、とか、にしてはかなり、出来上がった感じもするなあ、とかおもったけど、底辺に流れるトンマナは似通ったものを感じていて、まあわかった気にもなってこの人からは遠ざかっていたのは事実。
ところが一転、冤罪と組織という大掛かりなテーマである。ちょっとあわなかった友達が急に、間逆のエリアに転職しちゃってたのを聞いたような気分。
せっかくだしこれもご縁、と、読んでみた。
それだけギャップもあったけど、苦労なく読めた。この作品の主人公は他の中山作品にも出てるみたいだけどその前提が必要ということもなかったし。語り口調も平易であまり専門用語ばかりで理解を読者側に委ねることもなかったからだろう。
強いて言えば長いスパンの話の割にはすこし、主人公の苦悩が、その重たい決意のわりにさらっと書かれすぎていた気もしたけど、そういった細かい部分をすっとばす、最後の加速度は圧巻。
あの部分が伏線か、とか、え、この人が、とか、いっこほぐれたら全部、みごとに倒れてゆく爽快感はなかなかのものだった。
犯人像とその許容のあたりはすこし釈然としない感もあるけれど、まあこうなるしかない、必然の論理といえなくもない。
トータルでみたら、確実に買いだと思う。
最後までわからなかったのは、主人公の名前が明かされなかった理由。苗字はもちろん開示されているが、なぜか下の名前はぼかされていたと思う。なんか意味があるのかどうか、それこそ、全部の作品を登場人物でドットでつなぐ辻村深月みたいに、なんらかの仕掛けがあるのかもしれない。あるいはもう少ししたら島田荘司の異邦の騎士みたいに、サーガ仕立てになっているのか。
48歳の遅咲きの作家なだけに、さまざまな戦略で作品を展開しているらしい。成長著しい、のではなく、地の力がある人だった、ってことなんだろうなあ。
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【真実を暴くのは? 権力か、それとも人智か】すべては死刑囚の自殺から始まった…。『どんでん返し』の帝王が「冤罪」に挑む。社会派ミステリーと、本格ミステリーの奇跡の融合。
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冤罪がテーマなので、さすがに重く、読み応えがあった。
人間に過ちはつきもの。過ちに気付いた時にどう行動するかが大事なのである。みんなが渡瀬警部や静おばあちゃんのようならいいのに。。。
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お馴染みの渡瀬って誰やったっけ、とまた己の記憶力の無さを情けなく思う。静おばあちゃんはさすがに覚えてた。
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渡瀬さんは昔そんなことがあったのね、という感じ。
お馴染みのキャラがたくさん出てきたのも嬉しかった。
ただ黒幕?が唐突すぎて少し残念。
私が伏線に気づかなかっただけ?
私がどんでん返しが好きなのは伏線が回収されていくのが好きだからで、ただ「この人が犯人だったのか」と驚ければいいわけじゃない。
とはいえ司法制度や冤罪という重いテーマなのに非常に読みやすく、また読者に深く考えさせるのはさすが中山さん。
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冒頭───
昭和五十九年十一月二日午後十一時三十分、埼玉県浦和市。
三日ぶりの風呂から出て、夫婦一組の布団に入ろうとしたところで電話が鳴った。受話器を上げるといきなり低い声が聞こえてきた。
『コロシだ。今からそっち行くから支度しておけ』
こちらの返事も待たずに切れた。渡瀬は溜息を一つ吐いて遼子に向き直る。
「事件が起きたらしい。行ってくる」
「また?」
遼子は眉を顰めて抗議する。
「さっき帰って来たばかりじゃないの」
「仕事だ。しょうがない」
遼子は唇を尖らせて布団から這い出た。帰宅するのは一週間に三日。しかも呼び出されたら夜も昼もない。仕事柄やむを得ないとしても、新婚一年目の妻としてはそれが当然の反応だろう。
──────
死刑制度。
殺害された被害者の遺族にすれば、存続してほしいものかもしれない。
人を殺した人間がのうのうと生き残り、刑務所の中で模範囚として過ごせば、終身刑とて数十年で生きて出られることになる。
遺族の哀しみを思えばやりきれない話だ。
だが逆に、その判決が下された犯罪がもし冤罪だったなら------。
死刑を下された被告人が真犯人でなかったとしたら------。
一度下された判決は殆ど翻されることはない。
死刑が執行された後に冤罪が証明されたとしても、死んだ人間が生き返ることはない。
その制度の是非が未だに論争となっているのは、誰も正解が下せないからだろう。
昭和59年に起こった夫婦強盗殺害事件。
犯人と断定された青年は、警察の過酷な聴取の下に自白を強要させられる。
青年に下った判決は死刑。
その後、青年は獄中で自殺する。
それから五年後、別の窃盗事件をきっかけに、先の強盗殺害事件の真犯人が別の人間だった可能性に気づいた刑事。
あれは冤罪だったのかもしれない。
自分の犯した過ちを悔いた刑事は、それを白日の下に晒そうとするが、警察内部の権力維持のため、激しい妨害にあう。
それからさらに約四半世紀後、新たな驚きの事件が迫っていた。
いやあ面白かった。
権力と正義と人間としての誇りと、いろいろ考えさせられる物語だった。
間違った正義の定義、権力の行使は、社会を滅ぼす。
それに敢然と立ち向かっていった渡瀬刑事の姿に心を打たれた。
最後のどんでん返しもお見事。
中山七里さん、前作の原発を問題にした作品「アポロンの嘲笑」は細部に齟齬が感じられて今一つだったが、この作品は完璧だった。
現行の司法制度に抱く人間の感情の揺れみたいなものを上手く表現している。
デビュー作の頃に感じられたぎくしゃくした日本語表現もまるでなくなったし。
それにしても、昭和の時代は、これほどひどい取り調べが許されていたのかなあ。
被告人の人権も何もあったものじゃない。
暴力丸出しの警察の過酷な取り調べ。
こんな警察ばかりだったら、仕方なく自白してしまい、冤罪になった人間も数多かったのじゃなかろうか。
最近のニュースでもあったよね。
再審請求して無罪になったのが。
あれは死刑じゃなかったからまだ生きているうちに戻れたけど。
それでも何十年という人生を無駄にさせられたわけだから、本人の忸怩たる思いは僕らには想像もつかないほどのものだろう。
死刑制度の是非はやはり難しいな。
兎に角、警察が真っ当な捜査を行い、裁判が正当に行われることを願うのみだ。
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権力を持った人間が過ちを犯して時に、誰かがチェックできるようになっているはずなのに、冤罪が起こってしまうんですね。
冤罪を受けた家族の恨みは23年間続くものなのか?それが真犯人に向くものなのか?
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ラストのどんでん返しがどうであれ、読み応えのある内容でした。この作者の作品を読むのは初めて。登場人物がほかの作品にも出ているというので読んでみたい。
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冤罪というテーマは最近よく扱われるようになったが、さらには司法制度にまでメスをいれ、著者特有のどんでん返しが面白い作品だった。
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中山ファンにはおなじみの渡瀬警部が若かりし頃の冤罪を扱ったミステリ。このお話に限らず、冤罪を明らかにしようとする警察官は必ず内部から妨害を受けます。間違いを起こさない組織など存在しないのだから、過ちは潔く認めて再発防止に努めればいいと思うのですが、難関大学を卒業したえらい人達は、こんな簡単なこともわからないようです。
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昭和五十九年、台風の夜。埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み、楠木青年への苛烈な聴取の結果、犯行の自白を得るが、楠木は、裁判で供述を一転。しかし、死刑が確定し、楠木は獄中で自殺してしまう。事件から五年後の平成元年の冬。管内で発生した窃盗事件をきっかけに、渡瀬は、昭和五十九年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。渡瀬は、警察内部の激しい妨害と戦いながら、過去の事件を洗い直していくが…。中山ファンにはおなじみの渡瀬警部が「刑事の鬼」になるまでの前日譚。『どんでん返しの帝王』の異名をとる中山七里が、満を持して「司法制度」と「冤罪」という、大きなテーマに挑む。
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渡瀬刑事シリーズの一環ということになるのだろうか。といっても、渡瀬刑事が登場する作品を読んでいないので、あまりピンとは来ないのだが、それでも惹きこまれる内容である。そして、高遠寺静が現役裁判官時代に唯一心を残した案件が主題でもあり、興味深く読んだ。さらには、途中で真犯人がつぶやいたひと言がなかなか回収されないなと思っていたら、それこそが最後の最後にとんでもない隠し玉となって、一連の状況に新たな驚愕をもたらすことになるのである。初めから終わりまで興味が持続し、ページを繰る手が止まらない一冊だった。
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冤罪を巡るミステリ。あの渡瀬刑事と、現役時代の静おばあちゃんがなんと夢の共演です。
被疑者の取調べシーンがとんでもなくえげつなく、酷い。そりゃ冤罪出るわ! と思ってしまいました。でも一昔前ならこんなのは茶飯事だったんですよね。そしてそれを行う刑事の方もそれが正義だと思っていると、余計にその後の事態が救われなくて……。渡瀬の苦悩がいたたまれません。でもだからこそ、素晴らしい刑事に成長できたのか。
そしてそこから派生した新たな事件。本当に、冤罪事件の生むものはあまりに残酷な結末でしかなく。しかし人間が裁く以上、絶対に正しいということはありえないのでしょうか。きっと永遠の課題なのでしょう。
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中山さんの最新作。中山ファンとしては、垂涎の一作。だって、渡瀬さんの過去が暴かれるのですもの。これは読まないわけにはいかないでしょう。
正義なき力は暴力。間違った力がエンザイをおこし、人を殺す。渡瀬さんが、何があってもあきらめず、どんな圧力にも屈さずに真実を思い求めるあの姿は楠木さんのあの一件があったからだと知った。そして、その真相にたった一人で行きついた渡瀬さんはやはりすごい。
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昭和59年、浦和の不動産業者一家強盗殺人。闇へと葬られるはずだった冤罪に、一筋の光を導いたのはひとりの刑事の執念だった…。渡瀬警部が「刑事の鬼」になるまでの前日譚。
中山七理の作品のたびたび登場する個性的な渡瀬刑事がいかにして「渡瀬刑事」になったかという物語。警察、司法といった国家権力の闇を描きながら冤罪という重いテーマに挑んだ力作。犯罪の量刑や県警本部長のキャリアなどにやや疑問も抱いたが、総じて真摯な描き方だった。
(B)