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古き良きアメリカが大好きなおっさんには本当に楽しいんじゃないかな。相性の問題だけなんだけれど。訳は悪くないんじゃないかな。たぶん。
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1936年、ベルリンオリンピック。ボート競技の花形エイトに賭けた青春。
ボートを知らなくても楽しめる、とありましたがその通り。
コックスを含めた9人の若者が集まるまで、が序章。たまたま筆者の隣家に住んでいたジョーランツを中心にして話は進みます。
見せ場はたくさん有ります。1年生としての東部の大学対抗戦での優勝、2年生の時のポキプシーでの優勝、3年生の時の連覇、そしてオリンピック代表選考会での優勝。
それぞれが劇的な勝利で、また単調なレース(ホントはそうじゃないんだろうけど素人にはそう見える)を手に汗握る駆け引きの描写にしてしまう作者の力量も凄い。
時代を感じさせる描写もあって興味深い。ベルリンまでの旅費を自分で工面しろだの、競技用ボートを自分達で客船に積み込めだの、今なら考えられない。
対するベルリン側も面白い。ベルリンオリンピックを「美の祭典」としてレニ・リーフェンシュタールが撮った事は余りにも有名だが、そこまでの紆余曲折がゲッペルスの人間性やヒトラーの野望も交えて面白く、且つ控えめに描かれている。
ボート競技の描写はホントに素晴らしい。ハリウッドで映画化するそうだが、オリンピックでの決勝はきっと素晴らしいシーンになるでしょう。
その後の9人の仲間の死に至るまでの描写は淡々と描かれている。最後の一人が亡くなったのは2003年、つい最近だ。
しかし今でも9人の若者が乗ったボートはワシントン大学の漕艇庫の天井に吊るしてあり、入部希望の学生たちが集まると監督はボートを見上げて偉大な先輩達の話が始まる。
余韻の残るいいラストです。
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ノンフィクションにおける最優秀作品の一つだと思う.主人公の逆境と悲しみ,そこからの努力.豊かな人のスポーツと思われているボートに集まる貧乏な育ちの子供.素晴らしい.金メダルをとるということがわかっているのでハラハラドキドキはないのだけれど,よく書けている.
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世界大恐慌の余燼がくすぶり、ヒトラー抬頭により大きく動こうとする時代を背景に、希望と不安、友情と憎悪、勝利の栄光と敗北の挫折などが交々に織りなすマグマを裡に秘めた静かで、熱い水上のドラマ。
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1930年代、当時貴族のスポーツとされていたエイト(ボート競技)。労働者階級の若者たちの集まりのワシントン大学ボート部は、なみいる強豪を打ち破って全米王者に輝き、オリンピックへの出場を果した。
哀しい生い立ちを持つ青年ジョー・ランツの半生を中心に、エイト競技の苦しさや楽しさが書かれた、臨場感あふれるノンフィクションです。
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これは美しく、切なく、温かい物語だ。スポーツ・ノンフィクションで
あり、政治の話であり、戦争の話であり、ひとりの青年の成長の
物語でもある。
著者は著作を通してひとりの老人と知り合う。ふたりを巡り合わせた
本の話は、いつしか老人の人生へと移って行った。それが本書を
書くきっかけとなった。
老人の名前はジョー・ランツ。1936年、ナチス政権下で開催された
ベルリン・オリンピックに8人漕ぎボートのアメリカ代表として同じ
ワシントン大学ボート部の仲間と一緒に出場した。
このジョー・ランツを核として物語は進む。ランツの人生だけでも
充分過酷なのだ。大恐慌後のアメリカで実母を早くに亡くし、叔母の
元に預けられ、やっと家族の元に戻ったと思ったら義母との軋轢が
原因でわずか15歳でひとりで生きることを余儀なくされる。
根無し草のような生活の中でランツがやっと自分の居場所を見つけた
のは学費の工面に苦労しながらも入学したワシントン大学のボート部
だった。
ボート競技と言えば上流階級がたしなむスポーツだった。19世紀や
20世紀初頭を描いたイギリスの映画なんかによく出て来る、あの
イメージだ。確かにアメリカ東部では家柄のいいお坊ちゃんたちが
多く参加していた。
しかし、アメリカ西部、カナダと国境を接するワシントン州(ワシントン
DCにあらず)・シアトルは東部から見れば僻地であり、田舎者の住まう
場所だ。
そして、そのシアトルにあるワシントン大学ボート部の選手たちはランツ
ほどではないにしろ、富裕層からは遠く、ランツ同様に次の学年の学費
を自分の手で稼がねばならない選手が多くいた。
ランツたちは1年生の時から驚異的なレース展開をした。「最強の1年生」
たちではあったが、オリンピック出場の切符を手に入れるまで順風満帆
であったのではない。
スランプもあった。ワシントン大学最強のメンバーを選抜する為に、
何度もメンバーの入れ替えが行われ疑心暗鬼に陥る選手もいた。
誰もが皆、自分が第1ボートに選抜されるのか不安だった。
そうして迎えたオリンピック代表を決めるレースでワシントン大学の
選手たちは圧倒的な力を発揮し、ベルリン行きの切符を手中にする。
決して恵まれた環境にいたとは言えない若者たちはオリンピックと言う
晴れの舞台に赴く。ナチスが完璧な街として作り上げたベルリンへと。
「エピローグ」を除く全19章のうち、実際にベルリン・オリンピックに割か
れているのは僅か4章。だが、ベルリンへ辿り着くまでの長い描写も
飽きさせない。
なんといってもクライマックスはオリンピックでの決勝レースなのだが、
文字で書かれたレースの模様でも手に汗握る…という感じだ。あり得な
いほど不利な条件でレースに臨まなくてはならなかったアメリカチーム
に感情移入してしまい、思わず泣きそうになった。
ス��ーツは人を成長させる。それは本書の中核をなすランツも同じだ。
家族に捨てられ、人に頼ること、人を信じることを止めてしまったランツ
が、同じボートを漕ぐ仲間たちを無条件に信じ、心も体もボートに捧げ、
後には父親とも和解する。
既に本書がアメリカで発行された時、ランツはこの世を去っていた。
同じボートを漕いだ最後のひとりが2009年に他界すると、あのベル
リンでのレースを体験した者は誰もいなくなった。だから、本書は
貴重な記録でもあるのだろう。
ただ、彼ら9人が漕いだボート「ハスキー・クリッパー」は、今でもワシン
トン大学の艇庫天井に下げられており、毎年、ボート部の門を叩く若者
たちを迎えていると言う。
「でも、私のことだけ書くのはだめだ。ボートのことを書いてくれ。
ぜったいに」
生前のランツとの約束を、著者が忠実に守った本書は近年まれに見る
秀逸なスポーツ・ノンフィクションだ。ボート競技の知識が一切なくても
読めるのがいい。
ただし、邦題は少々気に入らない。尚、文庫版ではもっと気に入らない
邦題になっているのが残念。