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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
中野京子さんの「名画で読み解くイギリス王家12の物語 」と似たテーマの本ですが、こちらの方が先に出版されていました。現在のキャサリン妃まで出ているのが興味深いです。どの絵もカラーで大きく出ているので見やすく、文章も歯切れよく読みやすかったです。
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アングロ・サクソン王アルフレッド大王の辺りから、イギリス史が述べられているのだが、本当に肖像画らしきものが出てきたのは、14世紀のリチャード二世からか。著者は、中世には本当の肖像画というものが存在しないと言っているので、16世紀ホルバインのヘンリー八世の肖像画が出発かもしれない。そして、イギリスの肖像画の伝統の流れを作ったのが、17世紀チャールズ一世を描いたヴァン・ダイクだという。イギリスらしい肖像画とは、要するに日常の中にある歴史上の人物を描いた肖像画なのだ。その人物が置かれた歴史的状況が透けて見え、その中での人物の内奥が描かれたものか。イギリス史といいながら、この本はイギリス肖像画史が中心に書かれている。その中で、アメリカから帰化したホイッスラーだけは異質だろう。人物には関心がなく、線や色彩、雰囲気を追求した唯美主義の肖像画だからだ。たくさんの歴史上の有名人だけでなく、無名の人物の肖像画も出てくる。それも時代を映したものなのである。画家もたくさん出てくる。ホガース、レノルズ、ゲインズバラ、サージェント、ミレー、ロッセイティなどは有名だ。フランシス・ベーコンの絵は、究極まで分解された肖像画と言うが、さもありなん。はっきり言って、気持ち悪い絵だ。ルシアン・フロイド、デイヴィット・ホックニーの絵などは、極めて現代的だ。詩人エリオットが表現する現代の疎外感・不安が表れているのだが、エリオットに残された最後の希望は信仰だったらしい。そうなのか。従来のキリスト教などには希望はないと思うが。
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カラー図版も豊富だし、面白そうだなと手に取ったのだが、実質序章に当たる部分で取り上げたウィルトン二連祭壇画に描かれたリチャード二世について、「これはもう、王が神のごとく描かれているというレベルではない。聖人や聖母、あまつさえ幼きイエス・キリスト本人と一緒に描かれているリチャード二世は、ほとんど神ないし神に準じる者として扱われているのである。これほどまでにわかりやすくて美しい、絶対権力者としての国王の肖像というのもそうはない。」(p.23)という記述で読む気が失せた。ここでのリチャード二世は、この手の祭壇画における寄進者の通例として、真横から跪座した姿を描くもので、同じく通例として聖母子や聖人よりも顕著に小さく描かれており、「ほとんど神として扱われている」ということは全くない。いくら著者の専門が近代イギリス文学・文化であっても、ヨーロッパの宗教画を多少なりと見ていたら知っているこのようなことについて、知らなかったとしたら美術と歴史についての本を書いているのに驚きだし、知っていたのに話を自分の都合よく持っていくために(肖像画において国王の信性・権威を表そうとしているという言説)テキトーに書いたのだとしたらそれもまたトンデモないことだ。
また、それに比べたら些末だが、先の引用部分において、「神のごとく描かれているというレベルではない」と言いながら、結局「神ないし神に準じる者として扱われている」というのでは、レベルの差異が感じられないのだが? という、文章の取扱いにおいても雑駁さを感じずにいられなかった。