紙の本
自分の都合のよいように、粉飾したり改変を加えた歴史からは、束の間のつじつま合わせしか生まれて来ない
2006/01/15 06:07
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦中、日本へ強制的に連行された朝鮮人。炭鉱の過酷な強制労働と長時間労働、貧しい食事、虐待が日常茶飯事に行われ、病になっても休むことも許されない。休めば、サボっていると暴行が加えられる。過酷な労働から脱走を試みた朝鮮人は、見せしめに拷問され、幾人もが殺害された。
過酷な労働条件に抗議しストライキを決行した朝鮮人たち。就業させるため、労働条件の改善を口では約束しながら、ストライキが中止されると約束を守らない炭鉱責任者たち。
炭鉱の責任者たちは、炭鉱労働者の食事を減らし、その差額をピンハネ、自らの懐を肥やしていく。朝鮮人を強制労働に追い立てるため、朝鮮人に労務担当者やスパイをやらせる。
朝鮮人に対する強制連行、強制労働、虐待、拷問の実態を示すだけでなく、それによって儲ける者のいる実態が描かれている。
日本の敗戦により解放された朝鮮人たち。日本に残った者は差別され続け、国に帰ったものは南北分断や朝鮮戦争によって悲惨な生活を強いられる。戦中の日本、解放後の朝鮮半島をめぐる両国を生きる者の姿が映し出される。
その典型的な歴史を生きた河時根。強制連行から拷問、脱走、敗戦、愛する日本人と故郷への脱出。しかし、河時根は愛する人と二人の間に生まれた子どもとの間を引き裂かれる。
事業に成功した河時根のもとを、日本にいる同胞が訪れる。再び日本を訪れた河時根は、歴史の事実を消し去ろうとする人たちの無反省さに怒りを感じる。
「私たちは未来から学ぶことはできない。学ぶ材料は過去の歴史しかない」「自分の都合のよいように、粉飾したり改変を加えた歴史からは、束の間のつじつま合わせしか生まれて来ない」「私は日本にそういう道を歩んでもらいたくはない」
しかし、無反省の同胞に河時根の復讐心がやどる。最後の結末は描かれていないが、それほど過酷な経験をした河時根の思いがあふれている。しかし、この結末はいただけない。違う結末もあるのではないだろうか。
強制連行や強制労働、虐待を炭鉱責任者などだけの責任とみてはならない。最も許しがたいのは天皇制絶対主義政府の蛮行である。過去に学ぶからには、時代の全体像を把握しなければならない。そして、二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、歴史の真実を知ることは重要である。
紙の本
この重い問題を勧善懲悪にして良いのか
2002/06/22 10:08
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:がんりょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦中の朝鮮の方の強制労働をテーマにした作品.
日本人である作者がこの重いテーマに取り組んだことは評価できる.しかし,ストーリを炭坑の幹部個人個人が悪いと言うトーンで進められることに違和感を感じた.確かに,彼等に全く責任がないとは言えない.しかし,当時日本が置かれている状況で逆らうことが出来たか,また,逆らったところで排除されてまた別の人間がそれにあたるだけではなかったか? 戦時中こんな悪い人達がいたという話ではなく,日本人の責任として当時の社会のゆがみまで掘り下げて書いてほしかった.
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最後まで、集中力を途切れさせない見事な筆力。現在と戦中戦後の間に横たわる年月を感じさせぬ、優れた構成には舌を巻く。
物語は、戦中に強制徴用され家族と引き離され、九州の炭鉱で苦役に従事させられたある朝鮮人男性の一人称で語られる。生きて故国の土を再度踏むことを願って苦役や拷問に耐えるが、恩人とも言うべき仲間を失い脱走を決意する。そして、その過程で大きな罪を犯すこととなる。逃亡した後終戦を迎え、愛する女性と共に故郷へ渡る船に乗る。そして、四十数年間たった頃、日本からの一通の手紙によって、彼は再び日本へと渡航することとなる。長い年月、「手で片眼を覆いながら生き」、日本を無視してきた彼をその地へと誘ったものは何なのか?彼の罪とは?そして、求めるものとは?
日韓の遺恨―正確には、朝鮮人の遺恨とすべきだろうか―は、世紀を跨いでもまだ消えぬものだろうか。過去を顕現させ続けることは、遺恨を後世に残すだけではないのだろうか?新しい世代は贖罪と弾劾ではなく、未来へと協調して行けぬものだろうか?生まれ変わってやり直すのは、裏切りだろうか?最後まで読み切って、主人公の選択には賛成しかねる自分がいる。また、その自分は理解できぬ自分を恥じてもいる。愛国心とは何か、民族の誇りとは何かを見つけられぬ自分への不安と……またこれでいいのだという肯定もある。
何かと考えさせられた一冊であった。評価も半端にして保留とする。
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「韓国朝鮮人強制連行」を題材にした小説。綿密な取材を行ったと言うだけあり、歴史的な流れも、韓国人特有の文化的気質も、大変自然に描かれているのだが、それに対して表現が追いついていない印象がある。終盤に差し掛かるほどに、尻つぼみになっていく気がする。歴史的考察の参考文献、あるいはそのきっかけとして評価できるかもしれないが、小説としてはいまひとつ、というのが正直な感想だ。
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ひっそりと感涙。
靖国然り、歴史とは教科書で学ぶ“出来事”レベルでは到底理解できるものではないということを痛感させられる。また、その時代に生きた人々の、翻弄されながらもそこに確かに存在したそれぞれの“人生”を、後世に生きる私たちが知ることが、真なる歴史の認識といえるのだとも思う。
強制連行により、否応無く青春を蹂躙された河時根。逃亡、帰国、起業、そして人生の最後にやるべきこととした“事業”。そのために、三たびの海峡をわたる。ただ一人、航路にて。その逞しさの根底には、国を愛する心と、ある人の尊厳を守るのだという強い意志があり、だからこそこうも直向に人生を歩んでこれたのだと、ただただ畏敬の念を隠しきれない。
最後の一文、これからも忘れない、忘れてはいけない。
「生者が死者の遺志に思いを馳せている限り、歴史は歪まない」
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歴史について改めて考えさせられた。
著者はもしかして在日韓国人であったり、
韓国に縁のある人なのかな、と読みながら何度も思ったくらい。
最後ちょっとはしょって読んでしまったけれど、
読んでみて良かった、勉強になった本です。
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太平洋戦争中の日本と韓国(朝鮮半島)の間に起きた、いや起こした悲惨な歴史と、それに関った一人の韓国人がとった歴史との決着について語られている。抑揚を抑えた記述が余計身にしみる。
どの時代も戦争は石炭や石油などのエネルギーを巡って起こるんだと感じた。
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朝鮮人の強制連行。強制労働というのは実際に行われた忌まわしい事実なんでしょうが
タブー事項なんでしょうか、あまり知る機会もなかった。
従軍慰安婦とともに日本と朝鮮との間にあった史実は覆い隠すものではなく、
語り継がれていくべきものだと思う。
日本が本当に悪かったかどうかはわからない。
ただ、日本が友好的に考えているほど、韓国側は受け入れていないでしょう。
いつまで謝り続けるかはむずかしい問題だけれども、この悲しい事実はお互いに忘れてはいけない。
この本は1943年ごろ、祖国朝鮮の親元から無理やり日本の炭鉱に連行させられ
死ぬような目に何度もあわされた17歳の男の子の話と、
それから45年の歳月が過ぎ、韓国で実業家となった彼が、再び九州のつらい思い出の地を踏み
幼い頃に手放した息子と再会したり、ボタ山に登ったりする話から成る。
日本の女性と出会い愛し合った甘い思い出と、仲間が次々と殺されていき、
いつかは自分も・・という恐怖におびえたつらい思い出が複雑に絡み合ったほろ苦い再訪問で
ボタ山の中腹に仲間の粗末な手作りの墓を見つけたときには、私も思わず号泣してしまいました。
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厳しい内容。でも落ち込まずに読めたのは、朝鮮部落や、飯場で供される朝鮮家庭料理の表現が豊かで美味しそうで・・・。不謹慎かもしれませんが白い炊きたてご飯が欲しくなりました。読んで、知っておいて良かったと思える一冊でした。
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人生の間に三たび海峡を渡る男性の話
一度目は日本への強制徴集
二度目は故郷への帰還
二度と渡るまいと決めていた日本への海峡を渡った男性の真意は・・・?
現在と過去が行ったり来たりする形式の中で
鮮やかに見えてくる景色・心情
時には目を背けたくなる光景も浮かび胸が熱くなりました
私たちの祖先が行ってきた戦争の悲劇
二度と繰り返してはいけないことなのに 忘れてしまいがちなこと
それは 日本が発展していく中で無かったことにしてしまいたいことなのかもしれない
私にわかることなんてほんの一握りだと思う
それだって真実ではないかもしれない
教科書には載らない方向から戦争を見ることで
敗戦国であった日本の姿を垣間見た気がした作品でした
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舞台は植民地時代の朝鮮と日本から始まる。仕事がないため日本に渡った朝鮮人が、炭鉱で働く中での様々な葛藤がえがかれています。終戦後、韓国に帰った主人公は、何十年も日本を訪れていなかったのだが、ついに訪れる機会が来て…
最後まで読み終えて、なるほどなぁって感じの内容でした。
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グイグイ胸に突き刺さる。書く筆は怜悧さを持ちつつ、相反する暖かさも感じ、だからこそこの重たい内容を読ましてくれる一冊。
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韓国と日本の話。
常日頃思っていたことを小説にしてくれている!と感激した。
日本人が中国や韓国にしてきたことをあまり取り上げず、自分たちが酷い目に遭ったことばかりを美談にしてしまう日本が嫌いだ。
日本は韓国や中国にどれだけ酷いことをしてきたか。歴史はきちんと伝えなければいけない。
物語は、拉致同然に無理矢理日本に連れて来られた韓国人の主人公が日本の炭坑で死と隣り合わせの過酷な状態で働かされ、それでも必死に生き延び韓国へ戻り、そして人生の最後の仕事として再び日本を訪れるというもの。
卑劣な日本人たちがたくさん登場するが、たくさんの若い人に読んで欲しいと思う作品だ。
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太平洋戦争、九州の炭坑へ人狩りで強制連行された朝鮮人たち。日本人班長による暴力や過酷な労働条件の中でも必死に生き抜いていく河時根(ハーシグン)。韓国で成功した40年後、三度目に渡った日本で復讐をする。
すさまじいまでの生命力。そして、何が普通の人間のはずであった人たちをそこまで残酷にしてしまうんだろうか、戦争って。
韓国人たちが何故これほどまでに日本人を嫌っているのか、その思いが少し理解できた気がする。ドイツのように深く反省してではなく、日本人は水に流そうとしている、なかったことにしようとしている。
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戦時中から戦後の時代
一人の韓国人の生き様
読む前から分かっていたつもりですが
炭鉱のエピソードはやはり壮絶です。
この本を読むとキムチとお味噌汁が無性に食べたくなります。