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2015年のノーベル経済学賞受賞者による著作
2015/10/13 14:14
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
2015年のノーベル経済学賞はアメリカ・プリンストン大学のアンガス・ディートン氏に決まりました。ディートン氏は公共経済学の研究で知られ、「消費と貧困、福祉の分析」が受賞対象となりました。ディートン氏の研究で有名なのは、収入と幸福感の関係を解き明かしたことです。年収に合わせ幸福感は上がりますが、年収7万5千ドル(約900万円)を超えると幸福の感じ方が鈍くなるといいます。アメリカでは決済サービスの会社のCEOが、この研究をもとに自身の年収を100万ドルから7万ドルに引き下げ、従業員の年収を同じ7万ドルに引き上げたことで知られています。このディートン氏の著作が日本でも今年、翻訳出版されたものが本書で、話題を呼びました。
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本年度ノーベル経済学賞受賞となったAngus Deaton先生が2013年に出版し、各賞を総なめした一冊で、人類の経済発展(貧困からの脱出)、及び健康の改善の歴史のこれまでの研究成果を、映画「大脱走」(J・スタージェス監督 1963年)になぞらえて(自身の一族の歴史も重ねて)描いています。
前半(第1部)が健康の歴史についてのサーベイで、経済成長と健康の間に相関関係が無いことが示され、公衆衛生や教育の重要性が強調されています。
後半(第2部)は、経済発展の歴史のサーベイで、「第5章 アメリカの物質的幸福」では、ピケティ&サエズ(2003)http://eml.berkeley.edu//~saez/pikettyqje.pdf も引用されますが、『21世紀の資本』(2014)の様なマルクス主義的な解釈は採られておりません。
最後に(第3 部 助け)「第7章 取り残された者をどうやって助けるか」が、本書のもっとも特徴的な部分で、これまでの先進国から貧困国への大量の海外援助(ODA等)が役に立つどころか、寧ろ、経済発展の邪魔をしていただけだ、とDeaton先生は主張します。
即ち、貧困国では、通常、民主主義制度が確立しておらず悪徳&専制政治家が、自らの政権維持・強化のために援助資金を流用してしまうためです。また、健全な政権であっても、大量の援助資金を手にすると、民主主義の根幹である国民から税金を徴収する必要が無くなって国民のガバナンスが効かなくなり、腐敗を誘発する、と指摘します。
また、最近開発経済学で流行のデュフロ-等が推進するランダム化対照実験によるプロジェクト評価についても、無条件に「何が効くか」一般化して考えるのは役に立たない、と一蹴されます。
では、我々(先に貧困から脱出した先進国)は何をすべきか?という問いに対して、Deaton先生は、(従来型の援助は)何もするな(武器も売るな)、と仰いますが、成功例としては、貧困国に直接介入しない、HIV等の伝染病医薬品の開発が挙げられ、先進国にない貧困国固有の疾病(マラリア等)の医薬品の開発協力が薦められています。(医学・生理学賞を受賞した大村先生のパターンですね。)また、技術支援や(アフリカ)貧困国の学生に(欧米)先進国への留学の奨学金を出すことも長期的な処方箋として薦められてます(ルワンダ ディアスポラの例ですね)。
Angus Deaton wins Nobel Prize for economics - FT
http://www.ft.com/cms/s/0/1c2b99e4-70ce-11e5-ad6d-f4ed76f0900a.html#axzz3oLzs7NBk
格差・貧困への注目、大きな反響 経済学賞にディートン氏
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGH12H11_S5A011C1000000/…
ノーベル賞経済学者ディートンの業績解説など
http://togetter.com/li/886213
Episode 41: The Great Escape (Angus Deaton)
http://developmentdrums.org/824
アレックス・タバロック/タイラー・コーエン「ノーベル経済学賞はアンガス・ディートンが受賞」
http://econ101.jp/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%8F%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%80%8C/
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主に健康の観点から世界の貧困を観察した本で、本書での分析や既にある政策はとても説得的で、新たな重要な観点の提供はとても価値あるものであり、全体を通じて良書であると言える。唯一玉に瑕なのが、貧困から大脱出するための具体的な案がほとんど書かれていないことだ。なので星4つの評価となった。
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01.14.2016 読了 2015年ノーベル経済学賞受賞者のアンガス・ディートンの著書。
健康と死、経済の格差を理路整然と説いている。第I部では、公衆衛生の整備と教育は成果がでやすいことがよくわかった。
以下、興味深かった章。
第2章 「有史以前から1945年まで」では人類の生と死の歩みが記されている。疫病に対するイノベーションとその広がりが、死亡率の低下に役立ってきたこと。その繰り返しが今に繋がっていることが興味深い。また、世界的な乳児死亡率の変遷や平均余命の上昇の分析は面白い。
第6章 「グローバル化と最大の脱出」では、現在、各国が置かれている状況について分析し、グローバル化によって格差が広がっていることを示している。本来であれば縮まるであろうものが・・・。という切り口で。
第7章 「取り残された者をどうやって助けるか」は本書の核。シンプルに富裕国の援助が貧困国の政治を腐敗させている。ODAやNPOなどの援助は窮困している人々の手に渡らない。では、何をすべきか?
(直接的な援助、介入ではなく、)グローバル化が貧しい人々の利益となる形で機能する国際的な政策を支持することだ。と。
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ディートンがノーベル経済学賞という記事を読み、すぐに図書館に予約。
売れてないらしく、いつもいく地域の図書館には無かった。
別の県の図書館から取り寄せてもらった。
なんでだろう?文章が読みにくい。
ディートンの父は貧しい炭鉱の生まれ。勉強して測量技術を学び、土木技師の資格を取り、給水技師の職に就く。
ススと煤煙の惨めなエディンバラから、緑溢れる森と清流の田舎への引越しは、それだけで十分、大脱出だった。
p.8
父は努力してディートンを名門パブリックスクールへ入れ、ディートンはケンブリッジ大学で数学を学び、アメリカのプリンストン大学で教えた。
ディートンの12人の従兄弟たちの中で大学まで行ったのは、ディートンと妹だけ。
それより前の世代で大学へ行ったものはいない。
p.9
つまり、ディートンの家族は、イギリスの階級社会の中で、貧しい労働者階級だったのだが、父親が一生懸命勉強して、子供にも、最良の教育を受けさせたことによって、労働者階級から大脱出できた、というわけだ。
アマルティア・センから、幸福をいかに測定するかを学んだそうだ。p.12
格差と発展は切り離せない。
最初に禁煙したのは裕福なホワイトカラーたちだった。
中国とインドの急成長によって何億人もの人が大脱出を果たし、世界は以前よりも少しだけ平等になった。p.59
所得と幸福感の結びつきの薄さはアメリカにも見られる。
年間約70,000ドルを過ぎると、それ以上収入が増えても幸福感は改善されない。p.67
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「銃・病原菌・鉄」という本が面白かったので、この本も似たような本かなと思って読みました。面白かったです。
「銃・病原菌・鉄」で残った疑問がこの本に書いてあったように思います。私は疑問が解けて少しすっきりしました。
(疑問というのは、どうして50代の私が子供の頃から発展してないような国があるのかな、ということです。50年もたったら教育とかインフラとかすごく進んでるはずだと思うのに、何だか50年前とそんなに変わってないと思える国が結構あって不思議だなーと思っていたのです。)
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平均寿命は乳児死亡率によって大きく左右される
女性の方が寿命が長いのは喫煙率の影響も大きい
アメリカの父子の収入の相関係数は0.5でOECD加盟国の中では最も高い
援助によって国民の合意を得ずに統治を行うことが可能となっている
援助をアフリカ以外の場所でアフリカのために有効に使うのは難しくない 医療、農業における進歩など マラリアなど
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近年の貧困研究についての状況が丁寧に書かれている。
解決策が明確になってるわけでなく、考える切っ掛けとなる本。
第一部 生と死、死亡率や病気、身長といったモノがどう変わってきたのか
第二部 お金、所得格差の状況や変化について
第三部 助け 様々な格差にどう立ち向かうのか
様々なデータを紹介しつつ著者の考えが述べられている。
世界がどう変わってきたのかを多くのデータから推考しながら今後どうあるべきかを考えさせられる。
よくある国際比較や貧しい国といったことだけでなく、死や病気などからの「大脱出」は先進国でも起きているといった話や、貧困にあえぐ人の中には「知識」が広まると解決するであろう事があるが、なぜ「知識」が広まらないのか、貧困への援助は本当に貧困に立ち向かう武器になっているのか、むしろ逆効果ではないのかというデータもあったりでボリュームがある一冊。
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KennyのGetting Betterと論展開は似てるけど、こちらの方が開発のネガティブな点とか援助の失敗例/実害みたいなことを書いている。
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世界全体では貧困や健康は改善している。生活水準や健康状態はこの100年で劇的に改善してきた。お金については富裕国はますます豊かになり、一方、貧困国は、中国とインド以外は目立った改善が見られず、富裕国との差が広がっている。しかし、富裕国でさえ発展の速度が停滞している。
富裕国の貧困国に対する支援は、富裕国の思惑により、必ずしも効率的かつ効果的な支援となっていない。
著者は多くの文献を引き丁寧に説明している。経済学に限らず国際関係学に興味がある人にも読んでもらいたい。
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15/10/13 WBS
きょう発表されたノーベル経済学賞。アメリカ・プリンストン大学のアンガス・ディートン氏に決まりました。ディートン氏は公共経済学の研究で知られ、「消費と貧困 福祉の分析」が受賞対象となりました。ディートン氏の研究で有名なのは、収入と幸福感の関係を解き明かしたことです。年収に合わせ幸福感は上がりますが、年収7万5,000ドル(約900万円)を超えると幸福の感じ方が鈍くなるといいます。アメリカでは決済サービスの会社のCEOが、この研究をもとに自身の年収を100万ドルから7万ドルに引き下げ、従業員の年収を同じ7万ドルに引き上げたことで知られています。ディートン氏の著作は、日本でも今年、翻訳出版され、話題を呼びました。ディートン氏の理論は日本経済にも影響を与えるのでしょうか?
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人類最大の大脱出は、貧困と死からの脱出。
対数目盛にすると、一人当たりGDPと平均寿命はリニアになる。
お金も大脱出したが、大分岐によって貧富の差は拡大している。それが底上げを妨げている。
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ノーベル経済学賞受賞のアンガスディートンによる著作。所得の成長が健康改善の主たる要因ではなく、制度の違いや知識の差が重要。富裕国では障害が減っているし、知能指数は時代とともに上昇している。平均身長も世界の大半の地域で高くなってきた。貧困国にトリクルダウンさせていく上での課題は何か。
アンガスディートンは、開発援助は害を及ぼしうると主張。開発援助を受けた被援助国の政府は、自国民よりも援助国に対する説明責任を重んじ、政府と市民との間の社会契約関係が弱まり、公的制度の強化や持続可能な発展に必要な改革を行うインセンティブが低下。大体、政府が機能不全であれば資金援助した所で権力に資金を与えて強化する事で、それが必ずしも分配され、国民のためになるという保証がない。
心血管疾患に関しては利尿薬が重要なイノベーションとなった。利尿薬は効果的な降圧剤でもある。心臓病の主なリスク要因である高い血圧を下げる作用があると言うことだ。
事実、興味深いのは、冷戦以降援助が削減されてからアフリカは経済成長しており民主主義の割合も大きく増加している。援助によって民主主義が阻害されていたと考えられると言うことだ。
他方、海外援助は貧困国で何百人もの命を救ってきた。抗生物質やワクチンにより乳幼児死亡率を引き下げた。天然痘は撲滅されたしポリオに対しても同様の努力が実を結びつつある。
アンガスディートンをネットで検索すると、富裕国における絶望死を語っていた。所得や制度、知識や格差に対する認知という意味で深く考えさせられる一冊だ。