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紙の本
88歳にしてアンモナイトを求めてヒマラヤに訪ねていくパワフルな人。雪と氷の研究に偉大なる足跡を残す先生の暖かな写真絵本。児童書専門店でも定番の1冊。
2001/11/14 13:32
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
「自然は驚きに満ちている」ということは言い尽くされているかとも思うけれど、冬の自然の驚きに直接触れて、その喜びを焼きつけるように写真に捉えたり、研究書をまとめることを何十年も続けてきた雪博士による素晴らしい写真絵本である。
雪と氷の専門家というと、記念切手にもなった中谷宇吉郎博士が日本では嚆矢として君臨している。博士がアカデミズムの人であるのに対して、喜平先生は代用教員を経て国立林業試験場に勤務。そこで雪崩の研究をしていた。雪と氷の研究家としては、いわば在野の人である。若いときに出会った雪の結晶の写真に魅入られ、雪や氷の写真を趣味で撮り続けてきたのだ。
タイトルの通り、「あんなのもあるし、こんなのもあるんだよ」と子どもたちに楽しそうに語りかけるかのように、珍しい形の雪やつららの写真が並べられている。寒い雪山を何時間も何日も歩き続けて、やっと見つけた造化の妙なんだと思う。見つけたとき、先生はきっと子どものようにはしゃぐ方なのだろう。弾むような喜びが伝わってくる愉快なコレクションの数々である。
そして、巻末に大きくレイアウトされた先生の親しみやすいお顔の写真が、何よりその様子を物語っている。愛らしいスキー帽を頭にちょこんとのっけて目を細めた先生は、発見の喜びを山のように自分のものとしてきた少年の相をしていると私には思えてならない。こんな年の重ね方ができたらいいなと思う。
ユニークな形をした雪や氷に添えられた文章は、自然現象を説明したり、それを表す用語の解説を含みながらも、対象を発見したときに先生が口にしたであろう驚きの言葉を織り込んでいて、絵本のテキストとして非常に優れていると思う。たとえば、木のえだやクイの頭に積もった「冠雪」の説明にわかりやすく触れたあとで、「キノコかな?」「それとも、おまんじゅう?」「おとうさん、おかあさん、そして、ぼく」といった言葉を付したとっておきの写真を3ページ並べる。「わあっ!」とわが家の年長児などは大騒ぎである。「ぶーらぶら」「だらーり」といった表現もある。いかにもその通りに垂れた雪の不思議な形。雪山に連れていけたとしても、こんなに面白い形の雪や氷にひとつでもめぐり合えることができるならラッキーである。とっておきの玩具をもったいぶらずに宝箱から取り出して見せてくれる喜平先生に感謝の念が絶えない。
陽ざしを受けた木の根元で円を描いて雪が溶け出す。雪国で少女時代を過したときやスキー場で見たことがある現象だけれど、「根びらき」という言葉がちゃんとあるらしい。「雪国に、もうすぐそこまで春がやってきているのです」という一文で本文が結ばれる。この暖かさがまた、たまらなくいい。
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