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『100年の名作』アンソロジー第3巻。全10巻予定なのでまだまだ先は長いと思うと嬉しくなる。
収録作家は萩原朔太郎、菊池寛、石川淳、幸田露伴、岡本かの子、中島敦など。表題作は宮本百合子。
萩原朔太郎『猫町』は若い頃に読んで衝撃を受けた短篇なので、収録されていると解った時は嬉しかった。詩はやっぱりよく解らんが……。
菊池寛と海音寺潮五郎は流石に娯楽小説の大家だけあって、純粋に面白い。
幸田露伴の収録作が『幻談』だったのも嬉しい。幸田露伴に関しては定番が好きだわ〜。
中島敦は『夫婦』。南洋庁の職員としてパラオに赴任した経験に基づくもので、教科書に載っている『中島敦』とは違う顔を見せている。『山月記』の作者だと思って読むとちょっと吃驚するぐらい違うよw
宮本百合子、矢田津世子はどちらも女性らしい細やかな優しさに溢れる作風。特に表題作となった『三月の第四日曜』は、上京した年若い弟を見守る姉の視線が慈愛に満ちていて良かった。
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極私的好み。
萩原朔太郎『猫町』 A
間違いない。
武田麟太郎『一の酉』 B
菊池寛『仇討禁止令』 C
尾崎一雄『玄関風呂』 B+
飄々とした可笑しみ。井伏鱒二がいい味を出している。
石川淳『マルスの歌』 A
鬼気迫る。
中山義秀『厚物咲』 A-
中盤を越えてから女狂い菊狂いの男の「過剰さ」が魅力的に見えてくる。
普通の生活者以上の、いわばドストエフスキー的な魅力。
幸田露伴『幻談』 B
岡本かの子『鮨』 A
戦局もあり、戦さにまつわる美談や批判やが多くある中(『仇討禁止令』『唐薯武士』『三月の第四日曜』)、
「食」に注目するこの作品が一番じんわり来た。
素直にいい話だし、母がへたくそに寿司を握る場面の描写、
それを思い出して壮年になってからも寿司を食べると落ち着くという男の気持ちが胸に迫る。
そんな男の、どこかしら寂しげな姿も。
川崎長太郎『裸木』 B
海音寺潮五郎『唐薯武士』 C
宮本百合子『三月の第四日曜』 B
矢田津世子『茶粥の記』 B+
見本のように端整でありながら、温かみのある小説。
中島敦『夫婦』 A
この作品もめっけもの。
まるで南米文学ではないか。
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1934年から1943年にかけて書かれた日本文学から13篇を収録。個人的に面白かった順に。
尾崎一雄「玄関風呂」
とぼけたユーモアが魅力の私小説。ストーリーは至極単純だが、主人公にしても奥さんにしても最後に登場する井伏鱒二にしても、登場人物がみんなどこかほっこりとしていて味わい深い。
岡本かの子「鮨」
鮨屋の看板娘ともよの、客に対する少し斜に構えた私感。そして客のひとりである湊の、幼き日の母との思い出。それぞれ楽しめる、まさに一篇で二度美味しい作品。
中山義秀「厚物咲」
本アンソロジー初の芥川賞作品。周囲から邪険にされている片野老人の半生が、彼の友人・瀬谷によって顧みられる。女性や菊に対する、片野の執着や信念といったものが身に迫った。
萩原朔太郎「猫町」
詩人らしい感性が光る小説。日頃街に写し重ねる幻想の中に、数えきれないほどの「猫」を見たというのは、突飛なようでその実、読んでいて想像力を掻き立てられるモチーフだった。
中島敦「夫婦」
南国の生活という、この時代にあっては異色の題材。南国パラオのとある夫婦の奇妙な物語が、中島敦らしい美しく格調高い文章で語られ、そのギャップも面白おかしく読んだ。
石川淳「マルスの歌」
饒舌な文体や語り口が新しく感じられた。今でいう町田康の源流か。その他に、メタフィクションのような手法が用いられていたことや、流行歌に傾倒する群衆も不気味でよかった。
矢田津世子「茶粥の記」
読んでいてお腹が減ってくるような一篇。食べ物の描写の他にも、夫を喪った妻の、健気に生きていかねばという、力強さと不安さが綯い交ぜになった感情がよく表れていた。
幸田露伴「幻談」
少々釣に関する薀蓄が長すぎるような気もしたが、それもまた味だろうか。全体的にふわふわとした空気が漂いつつも、最後の最後でゾッとする、上質な怪談。
海音寺潮五郎「唐薯武士」
西南戦争へ赴く体の小さい子供を描いた、大衆小説寄りの小品。巻末にもあった通り、戦争へ向かいつつあったこの時代にこれが書かれたことに価値がある。
菊池寛「仇討禁止令」
こちらも大衆小説寄りの明治もの。仇を討たれる者の苦悩が描かれていたのはよかったが、話の筋は少し単調だったように思った。
川崎長太郎「裸木」
ひとりの女性を巡る物語。恋敵のモデルが映画監督・小津安二郎だというのには驚いた。他にも多々あるという「小津もの」の作品をもっと読んでみたい。
宮本百合子「三月の第四日曜」
弟を思う姉の気持ち、そして貧しい生活の息苦しさが、並行して描かれているのがよかったが、いかにも暗すぎるように感じた。
武田麟太郎「一の酉」
主人公のおしげにあまり感情移入ができなかったが、個人的にはおしげの先輩であるおきよの方には少し共感できた。映画版ではこちらが主人公のようである。
今回は特に収録作品の質が高かったように思った。モチーフだけでなく、読みやすい大衆小説の形式や饒舌な語り口など、益々作品の幅が広がっているようで面白く読んだ。
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13の短編を収録。個人的には幸田露伴、岡本かの子、矢田津世子、辺りが好みでした。ともあれ、全編楽しく読みました。
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比較的渋めなメンバーかな?と思ったけど、今回も楽しく読みました。
特に好きなのは以下3編。
・萩原朔太郎『猫町』
勝手に猫がたくさんいるファンタジックな横丁の話だと未読のまま思い込んでたのですが、こんな神経症的な作品とは!
緊張が臨界点に達して猫が溢れ出すラストはちょっと忘れられない。蠱惑的な一編。
・矢田津世子『茶粥の記』
食べ物の描写がとにかく美味しそうでいい。梅干の茶粥なんて、食べたくなっちゃう。
食べたことのない食レポを想像で話すのが趣味の亡き夫(そんな夫、最高)を回想する話で、あたたかく、寂しく、愛おしい。
・中島敦『夫婦』
やっぱ中島敦はハズレなし。
南国の島の夫婦のごたごたが面白い。笑い話なのに、拡張高い文章なのがいい。