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本書は若くしてこの世を去った伊藤計劃が遺したプロットを元に、同世代のSF作家円城塔が書き下ろした本である。
SF小説はそんなによく読むわけではないけれど、伊藤の独特すぎる世界観と、円城のエンタテインメント性は気に入っていたので、かなり期待して読む。
プロットがすごい。主人公は若き日のワトソン。世界一有名な探偵小説のあのワトソン博士である。登場するのはフランケンシュタイン博士のモンスター、吸血鬼退治のヴァン・ヘルシング、チャールズ・ダーウィン、トルーマン大統領、カラマーゾフの兄弟のドミトリー、そして海底二万哩のノーチラス号…
そして舞台は19世紀末、大英帝国がロシアや新興国アメリカと鎬を削り、しかも蘇った屍者を労働力として使うという異常な世界。ゾンビ小説と歴史小説、そして名作文学のモチーフという豪華絢爛無責任大風呂敷広げまくりの設定。こんなプロットで書けと言われた円城がどんな気持ちでこの作品を紡いでいったのか。
読書好きにはネタ探しも面白いし、アクションと謎解きにも事欠かない、徹底したエンタテインメントである。
山田風太郎の「魔界転生」を世界を舞台にして電脳とインターネットを組み合わせたような、といえば少しはイメージ出来るだろうか?
人物にさほど感情移入がしずらいのは、彼らの世代の特徴かも知れない。
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タイトルの淀んだ重さから受ける印象に反してエンタメな内容で楽しかった。
様々な文学作品の登場人物や歴史上の偉人が出てきて、分かるときは反応したり分からないときは検索して感心したり。
最後のフライデーが文庫あとがきの円城塔さんに重なった。
この物語が終わったあともワトソンはホームズと冒険するかと思うと楽しい。
エピローグのハダリーには「お前かー!」と、してやられた感。
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さすが伊藤計劃、というような奇抜なSF的設定。とても面白い。2000年代必読のSF古典じゃないでしょうか。
伊藤計劃らしい設定と文章のカッコ良さ、ストーリーの意外性に加えて、円城塔による深みと難解さが加わっている気がする。(円城塔の作品を読んだことはないけど)
主人公がシャーロック・ホームズに出てくるジョン・ワトソンだったり、ドラキュラの研究者としてヴァン・ヘルシングという教授が出てきたり、イギリス諜報機関のM、アレクセイ・カラマーゾフなどなど別の作品にちなんだ登場人物や設定、さらに実在した人物などがごちゃまぜで登場する。
そんな遊びが散りばめられていて、ついていけないところもたくさんあったものの、知らない部分は調べながら読むのも楽しかった。
(もろもろ勉強し直して、もう一度読みたくなる)
ハリウッド映画のようなスケールの大きさと、ストーリー展開で最後までとても楽しめた。
—
memo:
267
複雑でかつ欠陥のないものは存在しないもの。統計的な性質として常に欠陥は存在する。
298
人間は物事を物語として理解する。
412
「地上で行われる最も大規模で不毛な戦いは、人間によって引き起こされるものではないかね。」
428
人間は矛盾に満ちるが、その矛盾こそが本質だ。
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2014/12/02 購入。伊藤計劃の遺作になった作品だが、遺作と言っても本人はプロローグの30ページ分を書き残しただけで、よく円城塔はこの仕事を引き受けたものだ。まあ日本SF大賞と星雲賞を受賞した時にかなり話題になってたっけ。プロローグだけ読んだけど、かなり面白そうな予感。
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ヴィクターの書の解釈に関する可能性を議論する辺りで、強烈に円城塔が匂い立つ。
だけど、全体的には円城塔らしからず、何が起こっているのか、どこにむかって話が進んでいるのか分かりやすい。
頻繁に交わされる議論は簡単でないが、論理的で緻密。さすが
肉体、意識を工学するのはサイバーパンクのアイディア。
だけど、弄られる側を徹底的に第三者として描く作品はあまり無い。
弄られるのが死者ということもあり、得体の知れなさ、不気味さが醸成されている。
アリョーシャはそれでいいのか?
円城塔の描くガンアクション、真剣の立会いなんかが読めるレア作
爽快感は得られない。にやりとする場面や、可能性の組み合わせの追求なんかのSF的面白さが楽しめる
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真実を追い求め、大英帝国からアフガニスタン、日本、合衆国へと世界を旅し、その身を以て屍者の帝国へと堕ち、完結を成したワトソン。
物語を求め、「虐殺器官」から「ハーモニー」、そして「屍者の帝国」へとたどり着いたわたし、そこで伊藤計劃サーガは終焉を迎えた。
しかし、フライデーは立ち上がった。
ProjectItoは立ち上がった。
「虐殺器官」「ハーモニー」「屍者の帝国」は、ProjectItoは終わらない。
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伝説ですな。
結構、娯楽小説です。
(円城さんなんでビビってました)
ワトソン、007、ヘルシング。
何人見つけました?
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死体を復活させ、労働者として、情報端末として使役する技術が発達した世界。19世紀末。オカルト風味のレトロフューチャー。歴史改変ものでゾンビものです。物語の有名人たちが登場するのも楽しい。
自我とは何か?情報の混沌の中から現れるのか。言葉があるから、かたち造られるのか。こういう難解な問いは結論を出すと陳腐になってしまいますね。もやっとさせておく方が高尚な感じがします。
円城塔の作品のわりには読みやすいです。エンタメしてます。
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【背表紙】
屍者復活の技術が全欧に普及した十九世紀末、医学生ワトソンは大英帝国の諜報員となり、アフガニスタンに潜入。その奥地で彼を待ち受けていた屍者の国の王カラマーゾフより渾身の依頼を受け、「ヴィクターの手記」と最初の屍者ザ・ワンを追い求めて世界を駆ける―伊藤計劃の未完の絶筆を円城塔が完成させた奇蹟の超大作。
『NOVA1』でプロローグのみ既読でした。
物語の設定、世界観、展開と、とにかくスケールが大きい。
内容は哲学っぽくて、ほぼ理解できてないと思います。
聞いたことのある名前がいくつか登場しますが、残念なことに自分の知識が足りなかった。
それでも非常に面白い。
もっといろんな本を読んでから再読したらもっと面白く感じそう。
アニメ化も楽しみにしています。
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2013年本屋大賞10位
19世紀後半の史実を背景に「もしも屍者が労働力だったら…」という世界で架空の有名人たちが世界を駆け回るというお話。
SFは滅多に読まないが、設定が面白そうだったので手にしてみた。いきなり『生者と死者の違いは霊素。死亡すると生前に比べ21グラムほど減少する。それが霊素の重さだ。』で始まり非常にそそられるも、この虚構になかなか入り込めず…
途中から「解りやすく物語にした哲学書だ」と思ってみたら面白く読めた。読み方は著者の意とするところではないけど、この本の中にも書いてある通り「愚か者ばかりの世界」の一人なのでご容赦下さいw
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屍者復活の技術が全欧に普及した十九世紀末、医学生ワトソンは大英帝国の諜報員となり、アフガニスタンに潜入。その奥地で彼を待ち受けていた屍者の国の王カラマーゾフより渾身の依頼を受け、「ヴィクターの手記」と最初の屍者ザ・ワンを追い求めて世界を駆ける―伊藤計劃の未完の絶筆を円城塔が完成させた奇蹟の超大作。
・レビュー
先日劇場アニメを観に行ってきて、ちょっと遅れて原作の読了もした。しかしまあ読みにくい作品だった……(笑)
伊藤計劃という人は、どうもシンプルな作風にその本領があったようで、そう考えると『虐殺器官』と『ハーモニー』は実に読みやすかったなと。
ただこの『屍者の帝国』がつまらない小説であるとは全く思わない。
テーマは伊藤計劃単体の全2作より重厚で、世界観は非常に複雑で凝っている。
この作品は伊藤計劃の長編第4作として刊行される予定だったが2009年の伊藤夭折により幻と消えた。
それを盟友円城塔が、伊藤のプロットと「試し書き」の冒頭約30枚を引き継いで完結させた小説だ。実はこの構図は、この小説とその劇場アニメ化作品を評価する上で非常に重要なファクターになる。
いやなる場合もある……というか、そういうのを気にする人にはなる。
作品の評価を作品外の事情に左右されてするのはどうなのかという部分もないわけではないのであまりはっきりとは言えないが、実質的にこの作品は円城塔の作品のようなものなので、彼がそこまで計算していないわけがないようには思う。
まあ計算というと聞こえが悪いが、想いを重ねたとでも言っておこう。
円城塔のイメージはとにかく難しい単語も無いのに何故か読むのに時間が掛かるっていうイメージなんだけど、多分僕と文章のリズムが合わないだけで、芥川賞作家だし文章はうまいし普通の人はそれなりにテンポよく読めるんじゃないだろうか。
そんな円城塔が伊藤計劃のプロローグを引き継いだのだけれど、これが思いの外違和感のない接続だった。
物語としては実在の人物や実在の物語の登場人物か登場するパスティーシュ小説の形を取っていてそれが非常に面白い。
例えば主人公ワトソンは言わずと知れたホームズの相棒。フレデリック・バーナビーはエラリー・クイーンから来てるし、ハダリー・リリスも非常にネーミングが秀逸。
Mと呼ばれる人が出てくるが、これも最初はモリアーティ教授かと思ったがどうやらマイクロフト・ホームズのようだ。
まあこのようにいろんな作品や実在の人物が登場する。
世界観は大きく二つの要素がある。
一つはスチームパンクの世界観、19世紀の世界を舞台とするSFだ。
そしてもう一つは屍体蘇生の技術が存在し、社会に普及している世界である。
主人公ワトソンは優秀な医学生であり屍者技術者である。彼はヴァンパイアで有名なヴァン・ヘルシング教授に見込まれて大英帝国の諜報機関であるウォルシンガム機関の諜報員になる。
そしてアフガニスタンへ送り込まれることとなるのだが、彼はそこで屍者の���国を築いていると噂のアレクセイ・カラマーゾフを追うこととなる。ちなみにこのアレクセイはフョードル・ドストエフスキーの最後の長編小説『カラマーゾフの兄弟』の登場人物でもある。
そして彼を追う旅の中でワトソンは旅を記録する屍者フライデー、豪快な巨体の相棒バーナビー、謎の美女ハダリーと、まあいろんな人物と出会い仲間になり敵となり時には別れ、謎を追っていく。
そして謎の先にあるヴィクター・フランケンシュタインによる最初の屍者ザ・ワンの影と、「ヴィクターの手記」の存在。
冒険モノとしてもなかなかの出来じゃないかなと思う。謎を追うミステリとしてもそのストーリーテリングは非常に惹きがある。
そしてSFとしては、SFに内包される哲学的なテーマとともに非常に考えさせる物語だ。あとあまり書評では見かけないけれど、キリスト教や旧約聖書についても非常に下敷きにされている部分が多くストーリーにも大きく関わってくる。宗教というものもテーマの1つだろう。
ネタバレ要素が多すぎて多くは語れないが、第33回日本SF大賞・特別賞、第44回星雲賞日本長編部門受賞に相応しい大作であることは確かだろう。
好みは分かれそうだが、伊藤計劃と円城塔の関係と想いを物語に当て込んでも面白いかもしれない。そういう読み方は必ずしも推奨されないが、今回ばかりはエピローグの解釈において悪くない読み方とも思う。
劇場アニメ版ではその解釈が全面に出ている。特に屍者としてワトソンに付き従うフライデーの設定が原作とは大きく違う。だが、エピローグにおける上記の解釈が劇場アニメではフライデーの設定の改変によって大きく拡大されている。
それを良しとするか否かは好みによるが、アニメによる原作の改変もこういうやり方があるのかと思わせる。
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ワーグナーは出てくるけどスクリャービンは出てこない。
レット・バトラーは出てくるけど緋村剣心は出てこない。
テーマは「言葉の大切さ」。
大切ならもう少し言葉を節約してもいいような気もちょっとだけしたけど、まあ、面白かったです。
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遺稿部分を先に読んでからの読了。
ちょうどカラマーゾフの兄弟をさわったところだったので、アレクセイの名前が出てきたときのトリハダ感はすごかった。それと、個人的には、はじめに女性の屍者を見たときの描写と。
たぶん、わたしは伊藤氏の文体がすきだったのだなあと思ったし、再読はなるべくしたくない……というか気が進むような手軽さはないし、おいてけぼりをくらってからは本当にページをめくるのがしんどかったのも否めないが、エピローグは、共著だからこその重みがあるとも言える。
書き綴られたものにこそ。
というわけで、星4。
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屍者を使役するというコンセプトで,多様な歴史的要素を用いて世界を構成する.これまでの作品と同様,ネガティブな発想を使ってポジティブな世界の構築に挑む姿勢には,確かに伊藤計劃氏の後ろ姿が感じられる.観残念ながら,全体を支える柱を読み取れず,難解.
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一度読んだだけでは理解しにくい部 分が多々あるのだが、それでもス トーリーにどんどん引き込まれって いった 戦場や経済活動の場など社会 の至る所で屍者が利用される世界を 題材にすることによって、最終的に 人間にとって究極的なテーマである 意識や魂の所在について描くという 着想が面白いと思う なので後書きを 読んで今まで未読だった伊藤計劃氏 の著作を読みたくなった