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紙の本
後宮は大奥ではない
2015/10/09 08:28
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:史学ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の古代において女性について、というとまず卑弥呼・台与が挙げられ、次に推古天皇から始まる女帝の時代、その次は清少納言や紫式部をはじめとする平安の女流作家の時代といったところだろうか。このようないわゆる教科書的な要素以外の部分に目を向けたのが本書である。
古代では女系社会だったとか、妻問婚はむしろ女性が地位の高さがあったからとかそういうあたりさわりのない話はない。六国史はじめとする文献、古文書等を駆使し、具体的にどのような女性が、どういった官位を帯びて、どのように古代社会で活躍していたのか説得力をもって語ってくれる。
特に後宮が天皇に個人的に隷属する(そして性的に奉仕するような)ものではなく律令に規定されている官司であり、ともすれば後世の大奥と同様のものかと世の人に誤解されがちという著者の嘆き(あきれ?)は自分にとってもぎくりとくる部分があった。
女官たち…地方から都を目指した采女、一族の期待を背負った氏女といった多くの女性たちはさまざまな場でそれぞれの仕事をこなし、国政にも主体的に関与しうる存在だったのだ。
いたずらに古代における女性の評価を上げるでも下げるでもなく、歴史的事実に基づいて論を立てていてとてもわかりやすかったと思う。
紙の本
古代から続く男女共労社会
2021/11/27 15:20
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
以前別の書籍のレビューでも書いたが、古代には洋の東西を問わず、宦官が宮廷に存在していたが、何故日本はその文化を受容しなかったのかという謎の一部が解けたのが本書だった。
この本で取り上げているテーマは、律令制官僚機構の中での女官の意義と実際のライフスタイルだが、資料といっても、官選の史書である六国史や発掘された木簡や数少ない文書しかないなかで、よくぞここまで調べ上げてくれたという感謝と、知られざる古代女官の生活に目を開かされた思いが交錯する。
歴史に名を残す有名なトップ女官からコツコツ下積みから位を登ってゆく(出身氏族により自ずと限界はあったようだが)下級女官まで、様々なコースがあったことがわかる。そして、彼女らは決して側室予備軍のようなものではなく、天皇の政務と生活に密着して、それを支えるという重要な使命を帯びて宮中へと出仕するという栄えある存在なのだ。
やがて律令制が日本に合わせて変容していくなかで、彼女らの位置づけも変わってくる。成人した天皇に代わり、幼帝が母后とともに内裏内で同居し、後見役としての母后の存在がクローズアップされてくると、幼い天皇に代わり母后に仕える女房たちが、律令女官の占めていた役割を担うようになる。紫式部や清少納言たちの世界が始まるのだ。
だが、物語で描かれる宮廷の華的性格ばかりが、後世の我々の目をくらまし、彼女たちの本質に真実の光が当てられることはなかなかなかった。現代なら大統領の女性補佐官やブレーンたち、公の会議の裏方で根回しをする実務官僚としての性格が彼女たちの真の顔であり、宮中や政治の秘密に触れるような重要な立場こそが本質なのである。
著者の経歴(20年間の社会人生活から大学院に入り、この大変なテーマを選んだというだけでもすごい)からも、古代から連綿と続く女性の公けの活動が、いかに当たり前のことであり、男性中心の律令社会にあっても、それは変化しながらも続いていたことに、もっと社会の注意を向けたいという熱意がひしひしと伝わってくる。
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