投稿元:
レビューを見る
初読では海の世界の結末はキャンパスが全部持って行った感が強いことと、現実世界で美和がどうやって立ち直ったのかが書かれないことに物足りなさを感じたが、何回か読み直すにつれ、これしかなかった結末だったと思うようになりました。
まず、三人の人魚の兵隊の選ぶ道。
最強のひとりは人魚を守ることに対する違和感や倦怠を抱きながら、たった一人の人魚を救うために戻り、そしてそれが終わった後、自分が作った元いた世界のジオラマでその生を放棄した。
一番若い子供、そもそも珊瑚の作った世界の核でもある兵隊は人魚たちと共に珊瑚の作った世界から違う海へと出発する。
そして、最後の兵隊は『人魚の兵隊』として陸で人魚を守る道を行く。
珊瑚にとってソルトは失った淡い初恋対象の親友の現身(空想の世界だから逆だけれど)であり、彼が彼女自身の分身であるコーラルと物語の外へ向かうというのは区切りがついたということなのだろう。
幸せな家族がある日いきなり崩壊して、自分の出自すら不明という世界の終わりを見てしまった珊瑚が逃避した世界が終わり、新しい家族の物語が始まるという最終回。
きちんと輪が閉じているのは実にTONO作品らしい。
そして、ばっさり切り捨てごめんなのもTONO作品らしい。
例えばボイルの過去の思い出はなんなの?とふつう具体的に描きそうなものだが、あれはあくまでもボイルに普通の生活があったということの象徴とソルトの存在によりそれが呼び起こされ、人魚たちの理不尽さにいらだちを感じ、普通の兵隊ではなくなっていることが物語なのであって、それ以上書かない。
美和の立ち直りについても、具体的には書かない。
あくまで珊瑚が彼女をどう見るのかが問題なので彼女が立ち直ったということだけが物語上必要なのだ。
読者としては書いてほしい反面、それをいれると物語が散漫な印象になるかもしれないとも思う。
だから、この結末はベストだと思うのだが、淡々と閉じていく最終回は賛否両論になりそうだ。