紙の本
元夫に対する痛烈な女の意地
2015/10/18 18:54
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hiroさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
元夫への何十年に渡る女の恨みと意地を綿綿と綴った作品。でも不思議と飽きないで完読できた。何故か?底流に晩年に到達しつつある女の理屈では割り切れない愛と感謝が憎悪という表面の嫌悪感とは裏腹に、女性の滾る哀切という複雑さ故の面白さであろうと男性の小生には感じられた。
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【私は書きたい。夫であった「彼」のことを。】老作家・藤田杉のもとにある日届いた訃報――それはかつての夫、畑中辰彦のものだった。杉は回想の中にあらためて辰彦の姿を探す…。
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昔、「素晴らしき仲間」という番組で、北杜夫、遠藤周作と対談をしていて、いかにも仲良さそうなのが今でも印象に残る。
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日経(1/11) 別れた夫畑中辰彦の生涯をえがいた実録モノ。元気の先に人生の暮れ方に漂う哀感、深い不条理の思いがわきあがってくる。畑中の人生を狂わせたのは文学、そういう時代があった(千石英世・文芸評論家)
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愛子先生九十歳にしての新作長篇。一気に読んだ。胸を射るのは、戦後遅れて味わった青春への哀切な回顧と、老境に至った今の切々とした孤独感、寂寥感である。
「オール讀物」に目を留めることもなくなっていたので、連載をまったく知らず、この新刊は広告で見てびっくりした。エッセイの連載も終わりにされていたので、新しい小説を読むことはもうできないと思っていたから。長年のファンとしては本当に嬉しかった。そして内容を知り、さらに驚く。元夫の田畑氏については、なんども書いてこられたのだ。なぜ今またこれを?
読み終えた今は、これはある種の覚悟なのだなと思う。親しかった人たちは皆亡くなり、過去の記憶を共有する人はもういない。あの時はああだった、こうだったと言い合うことはもうできない(長生きするとはそういうことだと繰り返し語られている)。自分が世を去れば、あっけなく夢まぼろしのように消えていくであろう、過去の出来事や人々の記憶を、書くことで確かめたいという強い思いを感じた。
著者がたどり着くのは「人間は結局わからない」という静かな諦念である。どれほど親しかった人でも、自分自身でさえ、ついに理解することはできないのだと。その象徴が、夫であった田畑氏(作中では畑中としてある)なのだろう。人を惹きつける不思議な魅力を持ちながら、簡単に人を裏切り、何事もなかったように平然としている。著者は負わなくていい借金をあえて背負い、怒濤の人生を送ることになる。誰もが、どうして?と聞き、いろいろ答えてはきたものの、ここにいたって「わからない」というのである。「それがわたしという人間なのだ」という述懐が、重い。
最後のほうで、小学生だったお嬢さんが書いたノートの内容が出てきて、ここにわたしは泣きました。愛子先生の悔いの深さが思われて、心が痛くてたまらなかった。自らを「あらくれ」と言う先生は、その実、人一倍情の濃い人だ。がむしゃらに働きつづけ、わが子を顧みることができなかった日々が、いまだに先生を苦しめつづける。
最初の結婚が破綻したとき、先生は幼かった子供を置いて婚家を出てきた。その子との別れの時、ふと見た子供の靴が汚れていた。「そのことが長くわたしを苦しめた」と書かれていた(「幸福の絵」だったように思う)のが忘れられない。子供は無心であるがゆえに不憫なのだ。取り戻しようがないという気持ちが胸に突き刺さる。
刊行時に文春に載ったインタビュー写真で見る愛子先生は、以前と変わらずシャキッと背筋が伸びた姿で、気品と気概が伝わってくる。遠藤周作さんが「マドンナだった」と言った美貌も健在。驚異的だ。
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著者の実生活をモデルに描かれた小説とのこと。
これまでも、同種のキャラクターを登場させた実体験ベースの作品を出されているようだが、私にとってはこれが初めての佐藤愛子氏の著作。
まず驚くのは、実に齢90をまたいでこの作品を書かれたということ。
構成的には込み入ったものではなく、述懐風の文章なので、ド級のミステリーを仕上げてしまう皆川博子氏から受けた衝撃には若干届かないかもしれないが、それにしてもこれだけのヴォリュームに達する半生記を綴るエネルギーは凄い。
90年以上生きているその著者が、人間というものは分からない、他人はおろか自分のことだって分からない、と仰っているのだから、それは真理なのだろう。
人とコミュニケーションを取るということは、古今東西問わず、本当に至難なのだ。
これぞ文学。
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愛子センセイが繰り返し繰り返し書いてきた前の夫、田畑氏と彼から蒙った有形無形の爆弾。
私は長年の読者なので、その都度、同じ流れの田畑氏話に呆れたり、そんな夫に振り回されつつもケツをまくってしまう(すみません、下品で。)愛子さんに男気を見たり、痛ましくも思ったり。
で、愛子さん御年90歳でまたまた田畑氏の所業がこれでもか、と書き連ねられる・・・。
これはお互い年を重ねるたびに、書かずにいられない、それほど愛子さんの人生行路の中での大きな深い話なのだろう、と思っていたのだけど、今回、田畑氏が亡くなったことを踏まえて書かれた「晩鐘」で、結局、私には彼のことも自分のその時の気持ちもわからない、と記されているその諦観にストンと頷けた。これまで彼のことを書いた原動力は怒りだったり、怒りを通り越した可笑しさだったり、でも、この年になっては、わからない、という不可解さに押されて書いたのだ、という愛子さんのお気持ちがすごくよくわかる気がする。
こんな長い著作を90歳を超えてから上梓されるなんて、しかも、田畑氏のいわゆる“悪行”をこれでもか、と微に入り、細に穿ち滔々と書き並べるその体力に驚きはしたけれど、愛子さんはホントに彼のことがわからないんだなぁ、わからないまま彼から気持ちが離れ、そのまま死なれてしまったんだなぁ、と。
きっとこれが愛子さんの最後の単行本になるのではないだろうか。(なんて、ここ10年程新作が出るたびにそう思ってきたのだけど)
それもまた愛子さんらしくていいのでは、なんて思ってしまう読者です。
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☆5つ以外の評価は私としては考えられない銘著です。文章の重みに生きた人生の経験や苦労が読み取れ、私なぞまだまだ若造だと改めて思いいたるばかりです。
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今までさんざん持っていかれ、またネタにもしてきた元夫についての最後の本。
ここまで書かれるというのは、ある意味名誉であり、書かれ続けても、それを楽しんでいたという意味では、立派な男であったのかもしれない。
資産家の息子ゆえの上品さ、頭の良さに、小児麻痺からくる激しいコンプレックス。まさに選ばれてあることの恍惚と不安に翻弄された一生。この人と太宰治の何が違っているかと言えば、文才の一言に尽きるかもしれない。また、妻が、後輩が、自分より才能があると認めざるを得ない苦しさが、親兄弟を見返したいという思いが、ベンチャー企業の成功者という妄想になったのではないか。才能のない小説を書いている時が、人に迷惑をかけないだけ一番良かったというのは、本当に皮肉だ。
最後の「かく生きた」には、涙が流れた。
人間の人生は、結局、そうとしか言えないのかもしれない。
しかし、畑中は幸せだったのではないか?したいことはした。成功しなかったが。
伴侶に恵まれた。二人の妻が、生活を支えてくれた。娘に嫌われなかった。妻が自分の名を残してくれた。これだけのことができた男がどれだけいるだろうか。
佐藤愛子の潔さ、(本人は否定しているが)優しさが、わかった気がした。
90で筆力が衰えないだけでなく、90たからこそ書ける域に達していることに感銘を受けた。
自分が老人となった時に、また読み返したい。
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ひとが怒るポイント、笑うポイントはほんとにそれぞれなんだな。同じひとでも、時間が経つと変わるし。
怒ることで相手がなにかをするのをヤメさせよう……とすることもあるけど、だからって相手は変わらないんだね。
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腹を立て 呆れ
面白がり 面倒くさくなって
気が向いたら
あら そういえば昔は
夫婦だったわね
みたいな 不思議な関係
なんとなく 元旦那さんは
身に巣くう 厄介な慢性病みたいに
旦那さん(病)が いて
膨大な借金(痛み)をつくったからこそ
がむしゃらに書けたのか
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これは著者の実体験なのか!?主人公の女性作家・藤田杉を主人公として、直木賞を受賞し、離婚した元夫・畑中辰彦(田畑麦彦がモデル)の膨大な借金を返済していく。辰彦の人生は壮絶な破滅への道。もっとノスタルジックな世界を想定していたら、杉の男勝りの強い性格と何とも頼りない夫への怒りを超えた諦め(呆れ!)の姿勢が悲しいほど。読後感はあまり良くない。作家仲間との交流場面が多く登場するが、明らかに川上宗薫と思われるモデルである川添という作家も登場する。他の作家は分からなかったが。
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氷点・道ありきの三浦綾子さんと間違えて、坊主の花かんざしの佐藤愛子さんを読み終えてしまいました。
決して坊主の…のような面白い作品ではありませんが、山あり谷ありの日々の生活を本当に淡々と描いた良い作品でした。佐藤愛子さんの素晴らしい書きっぷりを見たような気がします。
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藤田杉の人生を手紙という形で書かれた小説。
小説のモデルもいるとかいないとか。
毒舌?裏表ない?お腹に溜めない?誰も叱ってくれない部分をしっかり諭す?そんな佐藤愛子さんだけどこの作品は別物。
好きか嫌いかはっきり分かれると思う作品だと思う。私は半分位まではいつ読みやめてもおかしくない感じでした。でも、いつしか杉の人生と人柄に共感し、読みながら心で泣きました。温かい涙ではなく、氷つきそうな涙を。
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どうしようもない人がいます
環境とか育ちとか性格とかそんなことは関係なく
どうしようもない人
そんな人に会うと
人が生まれてくる理由なんてない
そこにいる
それだけだと思い知らされます