紙の本
グローバリズムとは。
2016/05/02 21:21
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投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
グローバリズム:
現代では、多国籍企業が国境を越えて地球規模で経済活動を展開する行為や、自由貿易および市場主義経済を全地球上に拡大させる思想などを表す。
この本を読んで改めて、グローバリズムであるとか、グローバリゼーションといった国際的とどう違うの?と不思議に思っていたカタカナ言葉の意味を考えたような気がします。
甲府の産業用人口水晶の製造販売を手掛ける中企業、山峡ドルジェの社長、藤岡が精度の高い水晶振動子の開発の為、インドを訪れた所から物語は始まります。
観賞用の水晶細工ではなく、産業用水晶の為、マザークリスタルと呼ばれる高純度の水晶を手に入れる必要がありました。
大企業なら社員が行く所、山峡ドルジェ社は社長みずからが海外を飛び回っています。
インドの田舎村で、素晴らしい水晶とめぐりあい、買い付けるのですが、そこまでが実に綿密に長く描かれていて、日本の一企業がインドに入り込むのがいかに難しいことか、大変な事か、がびしびしと伝わってきます。
藤岡は、インドの採掘会社の社長の接待を受けますが、そこで、メイド兼性接待の為、夜、部屋にきた少女、ロサと出合います。
身分の低い階級の孤児、ロサが実は素晴らしい記憶力、分析力、理解力を持っていることに気がついた藤岡は、なんとかロサが教育を受けられるようにならないか、と思う。
鉱山産業は、採掘権や法的権利、地元民、政府、行政などが複雑に絡み合うのに、ましてやインドの田舎村です。
根強い迷信や反政府軍、テロリスト、盗賊などが跋扈し、インド人との仕事感覚、金銭感覚、文化、歴史、言語の違いなど問題は盛りだくさん。
たくさんある問題をひとつひとつクリアする藤岡のビジネスマンぶりを描く企業物でもあり、なんとかロサをメイドから解放して、教育を受けさせる人に預けますが、ロサは不思議な才能を持つ、神秘的というかよくわからない部分がいつまでたっても払拭できない過程が描かれます。
篠田節子さんの入念な執拗とも言えるほど細かく調べぬいたリアリティあふれる文章に圧倒されて長い物語ではありますが、目をそらすことができません。
カースト制度、貧富の差、根強い信仰や迷信、テロリストや反政府軍がいつ襲ってくるかわからない環境・・・そこを日本の一企業が乗り込んでいくことの難しさと大変さがびしびしと伝わってきます。
海外へ企業が進出する、と書くとなんだか格好いいような感じもしますが、言葉よりもまず、体力勝負であることが藤岡社長という人を通して描いています。
外交力、交渉力、体力、判断力、メンタルの強さ、グローバリズムに必要な物は言語だけではありません。
しかし、この物語を書くきっかけになったのは、ネパールに今でもある風習、選ばれた幼女が、生き神様となる風習を知ったからだそうで、ただの虐げられたインドの美少女と日本のビジネスマンの出会いは書きたくなかった、と作者が言っている通り、ロサは一筋縄ではいかない秘密を持っています。
インド、カースト制度の中で、貧しい階級の女性の立場は非常に低いものでした。
どこか人を扇動するようなカリスマ性を持つ不思議な黒い女神、ロサ。
安直なグローバリズムに警鐘をならす企業ものであり、ミステリでもあり、女性問題も描き、これだけの要素をひとつの物語に収める手腕はさすが篠田節子さんです。
紙の本
インドの記憶が鮮明に蘇る
2016/03/13 19:42
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投稿者:suka - この投稿者のレビュー一覧を見る
「発展の裏側でこの国の闇はどこまでも深い」という本文に、初めてインドを訪れた時の衝撃を思い出した。私達は自然の法則のなかで生きている。開発は町を潤す様に見えて、本当は町を蝕んでいる。
貧困から救い出すという、ソトの人間の使命感は、実はエゴではないかと思わせる作品である。
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こういう、調査をしっかりした著書って、調べたことをいっぱい書こうとするから読んでて疲れてしまう。
会話系は面白いので、もったいない。
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惑星探査用の高性能水晶振動子を作るため、精度の高い水晶の原石を求めてインドのある村にやってきた、山梨の小さな水晶デバイスメーカー社長の藤岡。その村はインドでも先住民族の住む村で、水晶を得るため藤岡は地主、NGO、宝石商、インド人経営者、先住民、などインド社会の様々な階層の人たちと接触するが、インドの複雑な民族の歴史としたたかな現状に翻弄されていく。
著者デビュー25周年記念出版とあるが、県庁所在地の書店にはあったが悲しいかな地方小都市の我が市には無かった。。篠田氏のインタビューなどによればインドの鉱物とその周辺に住む多くの部族に興味があり、その部族の話を書きたかったと言っている。「小説ではなく大説」で、日常身の回りのことを書く小説ではなく、大説、世界にはこのようなこともある、ということに思いを馳せてほしいと言っている。今までにも「ゴサインタン」「弥勒」などネパールあたりが関係するものがあったが、その系譜か。
不思議な能力を持つ部族の少女ロサと、一筋縄ではいかないインドの民、そこで必死に己の仕事をまっとうせんとする藤岡。暑くて湿気があるのでは?と想像するインドの熱気が伝わってくる。国は違っても人間個人は分かりあえる、とはよく言われるが、ここではやはり国情の違いは大きな岩である、と感じる。
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敵味方が二転三転する人間関係、信頼できない海千山千たち、次々と降りかかる難題に惹きこまれて一気に読めた。
インドの闇を見つめる社会派エンタメ。
綿密な取材があってこその説得力と深みが素晴らしい。
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長ったけど読み応え充分だったが、終盤の誤字で一気に冷めた(¯―¯٥)
気分転換にシャワーを浴びてエンディングへ。
理屈抜きで面白い話ではなく、インドと日本の商売の仕方の対比やインドのカースト制度など興味を持つきっかけになる一冊。
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複雑なんだよ。あれもこれも。ということがよくわかる。
あと、絶妙なリベラルおじさん描写に身ぶるいしてます。藤岡を他山の石に。
ヒロインのロサはゴサインタンに見えたり弥勒にも見えたり。
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5年の準備期間をかけての大作とあって、読み応えのある一冊でした。篠田さんならではの取材力、構成力は、日常生活からは想像のつかない世界を、まざまざとよみがえらせてくれます。
小説の素晴らしさを堪能出来る作品でした。
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自然界にある物質を利用する産業というのは原料の入手にピリピリしそうで落ち着かないもんだね。
安定供給されればいいけれど、一定の品質も必要となると難しい。そこへきて、立ち入りにくい場所にあり習慣の違う人達とのやりとりが発生すると……。
人は、何か価値があると思うと欲が出てきてしまうものなんだな。
しかし、ロサは人を惹きつける力が強い人なんだな。これだけ周囲を惹きつけるって凄い。
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#読了。人工水晶を製造する山峡ドルジェ社長・藤岡は、買付けの為インドに。奥地の村で偶然見つけた高品質なマザークリスタルを定期的に取得しようと考えるが。。。インドの風習や問題などが良くわかる。
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面白かった!!
540ページ、二段組みの大作。
人工水晶の製造開発会社の社長・藤岡は、水晶を求めインドの寒村に赴く。
信義則や契約概念のない相手とのビジネス、謎に満ちた少女ロサとの出会い、先住部族と地主、カースト制度、男尊女卑、暴力、貧困、NGOなど、よくぞここまでインドを奥深く書いたと思う。
日本はなんて平和で、平等意識がしみ込んで、性善説の国民なんだろうか。
次々直面する困難、決して甘い話ではないが、展開が気になり、寝る間を惜しんで読んだ。
(図書館)
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初めてこの作家さんの作品を読んだ。このページ数で上下段の構成なので、かなり重厚な印象を受けて読み始めたけど、盛り上がることなく読了してしまった…。インドの封建制や神秘性を強調してるとも思えないし、よくわからなかった。
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数年前のインド旅行を思い出しながら読み進んだ。
巨大なインド、様々な民族、宗教、カースト、言語、・・・
物語、作家軒からを感じさせる力作。
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篠田さんらしい世界に目を向けた作品だったがインドの問題を描くのか不思議なちからを持つ少女を描くのかまたは日本の企業について描くのかちょっとどっち付かずかなぁ。
全く知らないインドのことはとても興味深く読めたけど。
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題材といい、舞台といい、キャラクターといい、まさに篠田節子氏の本領が存分に発揮された作品。
謎のヴェールに包まれた少女・ロサが登場してくるくだりでは、いかにも篠田氏らしいな、と思うのと同時に、ひょっとしたら硬質なはずの物語に水を差す結果になりはしないかな…と若干不安を抱いたものの、まったくの杞憂に終わりホッとするとともに、最後のページまで堪能させていただいた。
水晶ビジネスやインド国内の通俗等の描写についても、緻密な取材に基づくものであろうことが窺い知れる。
西アジアの空気が醸し出す何某かの影響か、「弥勒」や「ゴサインタン」などを少し髣髴ともさせるが、今作は充分に救いが用意され、真っ暗なトンネルの先に一筋の光明が見える結びになっているのが印象的だ。