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主に政治外交と軍事の観点から、第一次世界大戦の実像を描く。
各国の思惑や複雑に絡み合う利害関係、各国の戦術・兵器・戦力、戦線や攻勢の展開など、史実を丁寧に追う。
タイトルにもあるとおり、皮肉やユーモアに富んだ諷刺画が多く挿入されており、当時の人々の生の感覚を理解する助けになる。
その後の世界秩序に多大なる影響をもたらし、今もなおくすぶり続ける問題(例えば、パレスチナ問題はその最たるものと言える)さえも残した戦争であり、改めて学ぶ価値は高い。
記述は分かりやすく、高校世界史を一度学んでいるくらいであれば難なく読めると思われる。
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サラエボ事件100周年となる2014年以降様々な第一次大戦本が発刊されたが、それらにやや遅れて世に出た本書の特色は何と言ってもその豊富な風刺画の数々。個人的に印象深かったのは大戦の帰結を描く第5章の扉絵。連合国側の勝利を告げる乙女の周囲に描かれる各連合国の紋章の中に、日本の十六八重表菊が見て取れる。日本と縁遠いとの印象を持たれがちだが、この大戦において日本は一応戦勝国なのだ。
前書きには主に主要人物の人物像と意思決定に焦点を当てたとあるが、新書という制限の多いメディアではそれが成功したとは言い難いと思う。何せ人物そのものの数が多すぎて、個々の内面にまで光が当たる頻度が少ない。文章も硬いため他の類似本との差別化に乏しく、何より人間臭さが伝わりにくい。風刺画と組み合わせるなら、比較的描写されることの多い人物に絞ってそのバイオグラフィーを追う形にした方が、本書の目的をより達せられたと思う。
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第二次に比べて学ぶ機会の救えない第一次世界対戦。「人物」に主眼を置き、堅苦しくない文章はドラマ的で読みやすかった。
センスと毒気がある風刺画が戦況や国民感情を上手く表現していて各国の複雑な背景や駆け引きもイメージしやすい。
君主制の終結、戦時中に起きたロシア革命など歴史の転換点でもあり、第二次世界対戦や現在まで続く国際問題の始まりにもなった戦争なので教養としても役立つ。
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実は教科書の記述以上のことって知らなかった。
どの国もこんな戦いになるなんて思ってもいなかったし、やってみたら技術革新とあいまって犠牲者の数も信じられないことに。こんなマヌケな話が事実だってことに驚く。オーストリア皇太子夫妻が認められない結婚だったから、サラエボ旅行が可能だったというのは悲しすぎる逸話だにゃあ。
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1914年
6/28 サラエボ事件
7/28 オーストリアがセルビアに宣戦布告
7/30 露 総動員令
8/1 仏独 総動員令
8/4 独がベルギー侵攻、英参戦
8/7 日英同盟のよしみで日参戦
日本は7番目の参戦国(墺セ露仏独英日)
10/29 オスマン帝国参戦
1915年
4/22 ドイツ軍が史上初めて、本格的に毒ガス(塩素ガス)を戦上で使用
4/25 アンザック軍(オーストラリア・ニュージーランド)トルコのガリポリ半島上陸。ムスタファ・ケマル率いるトルコの勝利。
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第一次世界大戦に関する本が少ない中、本書は戦争の原因から経過まで一通り記述されており全体像をつかみやすい。新書とコンパクトでありオススメ。
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本書は、大戦の勃発から終戦に至る一連の歴史経緯を、基本的に時系列の中で主要な出来事をおさえている網羅的な歴史解説本です。
飯倉さんの歴史(戦史)本は、その文体には劇的な点が少ないので読んでいてスリリングな経験はあまり望めないかもしれません。しかしその著作の素晴らしさは、経過を淡々と記している一方で重要な局面での内幕や、歴史家たちの様々な意見にもしっかり触れられている点だと思います。
例えば、開戦の要因としてよく言われるのは同盟・協商間対立ですが、
「しかし、各国は同盟・協商に完全に拘束されてはおらず、独自の外交の余地もあったので、この関係性がそのまま第一次世界大戦を引き起こしたとみるのは早計だ。」
と指摘しています。実際に、三国干渉ではドイツ、フランス、ロシアが協力して日本の中国利権に対する介入を行っており、これを裏付けているように思います。
また、凶弾に倒れたオーストリアのフェルディナンド大公について、
「むしろ、彼はセルビア人を含むスラヴ民族に融和的で、帝国内のスラヴ人地域により多くの自治権を与えようとしていた。(これまでオーストリアで対セルビア強硬策が取りざたされた時、常に「待った」をかけてきたのはフェルディナンド大公であった。)
しかし、そのような考えこそ、民族の支配地域を拡大したうえで統一を図ろうと考える人々にとっては脅威であった。
・・・
歴史家クリストファー・クラークはこう指摘している。テロ活動の論理からすると、明白な敵や強硬派よりも、このような改革派や穏健派のほうが恐れられるのである、と。」
これはとても示唆に富んだ指摘だと思います。実際にフェルディナンド大公はオーストリア=ハンガリー二重帝国において、ドイツ人、ハンガリー人に加えてスラヴ人も加えた三頭政治を模索していたという説あります。これが実現した場合、スラヴ人に「それなりに大きな飴」が与えられるわけで、これによって民族活動が萎えてしまう可能性がある。過激派がこれを危惧するのは当然でしょう。
(ただ一方で帝国内の責任閣僚たちにとって、この案は受け入れがたいものだったでしょう。その意味で大公の暗殺で安堵した人間は多かったのではないでしょうか。)
また1916年のヴェルダンの戦いでは、これを主唱した時のドイツ参謀総長 ファルケンハインはフランス軍兵力の消耗を期してこれを実行したというのが一般的に言われる説ですが、一方で、
「軍事史家のストローンによれば、ファルケンハインは、三月半ばまではヴェルダン戦の目的を述べる際に消耗戦という言葉を繰り返し用いてはいない、という。つまり、彼はヴェルダン戦で突破に失敗したことを正当化するため、消耗戦が目的であるとした可能性もあるのだ。」
と別の視点も紹介してくれています。実際にドイツにとってフランス軍の消耗を正確に把握するのは不可能である一方、自軍の損害は正確に把握しえます。ドイツの損害は三月末でも8万人以上に達しており、自軍の損害だけ見ても動揺を禁じ得ない数字です。そうなると目に見える戦果は要塞の陥落ということになります。作戦を指示する将領がこれを求めないというのは心理的に難しいでしょう。
それ以外にも、大戦勃発の重要な契機となったロシアによる総動員についても、フランスが暗にこれを後押ししたのではないかという推察が述べられています。
「露仏両国の駐在大使が、ともに反ドイツのタカ派であったことも災いした。駐露フランス大使は、フランス首脳が帰途にある間、ロシア政府にロシアの動員をフランスは支持すると伝えていたと推察される。」
これも鋭い指摘だと思います。個人的にも当時の駐露大使であったパレオログがロシアに白地小切手を渡したことで、ロシアが総動員という過激な前軍事行動に舵を切った可能性が高いと思います(そうなると、一般的に大戦の一方的被害者と考えられていたフランスが、大戦の契機に重要な役割を演じたことになります)。
その他にも「当初部分動員のみを想定していたロシアがなぜ、総動員へと舵を切ったのか」、「非力な宰相とイメージされやすいベートマンの努力」など、一般的には知られていない歴史事実や、著者の鋭い指摘が本書にはふんだんに盛り込まれています。
一般的な大戦史を読んだ上で本書を参考にすると、一気に視野が広がることでしょう。
おすすめの一冊です。
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各政府の指導者層を中心によくまとめられた概説書だと思う。風刺画は豊富だが、著述の核になっているわけではなく、ユーモアを添える役割を果たしている。
以下、記憶の限り。
ヒンデンブルクとルーデンドルフの英雄コンビのその後やカイザーの最後。ニコライ公皇帝の最後。ラッセルとヴィトゲンシュタイン。イタリアの扱い。無限潜水艦作戦について。オーストリア皇太子夫妻かわいそう。
ヴィルヘルムの世界政策とチンタオ。ロイドジョージとクレマンソーの共通点。民主主義のための戦いアメリカ。ロシア革命がアメリカ参戦を後押し。