紙の本
『罪の声』の塩田武士さんの超リアル労働組合小説
2019/08/07 13:51
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
天王寺からはじまる痛快物語。「罪の声」で初めて塩田武士さんを知ったあなたへ、次はこれですよ。地方新聞社を舞台にした小説。実経験をもとに描く、経験者だから書けるディテールと、圧倒的なリアリティの会社小説です。面白さというのは素材ではなく、それを見つめる作家の目にあります。労働組合なんて呆れるほど退屈そうな素材が、ここまで笑えて、労働の本質を考えさせるエンタテインメントになるなんて! 「心を折らん奴は筆も折れへん」てセリフにしびれた。
投稿元:
レビューを見る
『罪の声』の著者が圧倒的リアリティで描く仕事小説! 地方新聞社、入社六年目の武井。極度のあがり症で一切の交渉に向かないが、委員長に口説かれ労組執行委員を務めることに。組合対経営陣。緊迫の団交を克明に綴り、働くことへの熱い思いを描き出す傑作小説!
投稿元:
レビューを見る
会社員だった頃は組合のある企業に勤めたことがなく縁がなかったが、派遣社員として働き始めた会社は組合活動がそこそこ活発で、ある日ストが行われた。
朝から会議室に閉じこもる社員を尻目に、残った部長と派遣社員2人で一日中電話対応の嵐。電話の向こうの取引先に怒鳴られながら、部外者の私はどんどん心が冷え切っていった。新聞社ではないが同業界の会社だったのだが、あの裏側にはこんなにドラマチックでないにせよそれぞれの人間ドラマがあったのかな、と読み終えて少しだけ共感できる自分がいた。
関西人ノリのちょこちょこ差し込まれるツッコミが小気味よくニヤリとさせられ、最後は組合活動という未知の世界ながら登場人物の”志し”にグッときて胸が熱く込み上げてきた。
爽やかな読後感に溢れる一冊。
投稿元:
レビューを見る
前半が軽くて笑っちゃう場面多いのに後半は重くなる(よい意味で)本でした。初めてのパターンだったな。これは。面白くてかつ心に響く本であった!!
投稿元:
レビューを見る
筆者の作品は初めてであったが、人物描写が的確で、関西弁もナチュラル、文章全体のテンポもよく、他の作品も読みたいと思った。株式会社における労働組合と経営側の交渉模様を描いた作品で、実際に労使交渉に関わる仕事をしていた私にとっては、緊張感やスピード感などが非常にリアルでとてもおもしろかった。ただ、労働組合の動きの中で比較的ポピュラーな春闘やストライキではなく、その前段にあたる「交渉」というコアな部分に焦点をあてているので、なじみのない人からすると「???」という部分もあると思う。おそらくそういう人のことを思って描かれたのであろう若干の恋愛模様が、私には余計なものに思えたので★-1とした。
投稿元:
レビューを見る
低成長時代の新聞社を舞台にした労使交渉の物語。
主人公は、突然に組合役員になった(ならされた?)、まだ若く内気な記者。
彼の鋭い観察眼を通じて、個性豊かでそれぞれの職種の匂いを漂わせた年上の組合役員、経営側との駆け引きや交渉の真髄に、拘束時間の長さや緊張からへろへろにならずに、読者として触れることができます。
現場を熟知しないままの安易なコストカットがもたらした若く有望な記者の悲劇も描かれます。「タクシーなんか贅沢や。そんな金、使う余裕ないで」という言葉は、一見説得力があるだけに、想像力がないことの恐ろしさや削ってはならないものを見極める目の大切さを思います。そして、立場の違う人に、自分の考えや思いをわかってもらうために、どうあるべきかということも。
あと、舞台が大阪なだけに、大阪ならではの「くすぐり」が随所に効いてます。
ただ、ほんまは大阪は、全国紙が本拠地とした土地だから、いわゆる地方紙は影が薄いんやけど・・・と思ってたら、作者さんは、阪神・淡路大震災の時に奮闘したあの神戸新聞の記者さんで組合活動してはったとか。自らの経験から生まれた物語なのかな。
それにしても、労使協議の様子を一瞬で文書にまとめて配布し、交渉を担当する組合役員と一般組合員のパイプを作るって、プロの記者さんならではの組合活動やなぁ。普通はでけへんで・・・。
投稿元:
レビューを見る
デフォルメ、カリカチュアライズは一部にあるが、全体的にはリアルで生真面目な「お仕事小説」。ただ、題材はふつーの仕事ではなく(いや、仕事というわけでもなく)組合役員としての組織活動、団交などを取り上げている。塩田の神戸新聞勤務での経験に取材とのこと。
投稿元:
レビューを見る
まったくの個人的事情から書かせて頂くと、もう10年近く前、労働組合のない会社から組合活動が真っ赤に燃え上がる会社に転職しました。身の回りの単語すべてが不可解で、オルグなんてきっと怪しげな集まりなんだろうと新人ほぼ全員でサボって怒られた、なんて事もありました。
あの頃この本に接していたら、もうちょっと上手く立ち回れたかなあ、と(笑)。労使交渉という取っつきにくい分野に果敢に手を出したエンターテイメント小説です。政治的に何か訴えるわけではなく、一方で活動の時代錯誤感を嗤うわけでもなく、ただひたすら読み物に徹する姿勢はこのジャンルではむしろ稀有と言ってよく、純粋に面白く、ためになりました。
ただ、舞台設定の秀逸さとは裏腹に、人物設定はちょっと甘いのかなあと。主人公は自己主張ができないダメ男と言うよりは、冷静な観察眼を持つ切れ者という要素が目立ちましたし、セクハラ広告のオチはちょいと酷いかと。楽しいんだけど、もうひと押し踏み込みたかった。惜しいなあ、という印象です。
ちなみに、身の回りの単語は今でも半分くらい分かっていません。役員、回ってこないといいなあ…。
投稿元:
レビューを見る
ぼちぼちでしたね。
よみやすかったですが、 題材的少し惹きつける
ところが難しかったような。なかなか入り込みにくかったですね。残念ながら少し流し読みしてしまいました。
もう一冊読んでみようかなと思います。
投稿元:
レビューを見る
大阪の中堅(?)新聞社、上方新聞の記者である武井は、ある日曜にボーッとしていたところを、上司の寺内に捕まる。そこで突然、組合の教宣部長を任命されるが、そもそも組合とは何をするものなのか…。
塩田武士を読んでみたいと思って買ったものの、相変わらず何も考えずにあらすじも読まずに手にとったので、「あれ?応援団とちゃうんかい?」というのが最初の印象である。よく見たら「団交」と書いてあったな。
書き始めは、若干「雑」であるため、「七分丈がまだ立っていた」と服装で人物を描写するなど、誰のことやねん?という書き方が引っかかる。
それも、組合の12人の同士と会うまでの話。そこからは全キャラクターが例外なく濃く、忘れようにも忘れられないからたちが悪い(?)。いやほんと、主人公の武井がむしろキャラが立っておらず、準主役とも言える寺内と源さんが出てくると、ホッとする。
さて、内容の方は、新聞社の仕事は完全に横に置かれたまま、「一時金の金額」「深夜帯の手当カット」「セクハラ対策」という組合の仕事の話だけが進む。いくらなんでも新聞社なので、記者としての仕事もしていると思うのだが、一般的に組合の人って仕事せんのかな?
半分をすぎると、ひたすら団交(団体交渉)がメインステージとなるため、若干つまらないかなあ。☆マイナス1。
しかし、これまでほとんど目にすることのなかった組合の世界に着目したことと、黒川博行ばりの関西弁、面白くないわけがない。
最後に、どう考えてもそういうオチが来るよなあ、この「戦いの後に」で溜めて溜めて落とす方向はそっちやろなあと思ってたら、案の定。これ以外のオチはありえない。
また、解説を同級生の弟が書いてたのでちょっと甘めの採点かも。
投稿元:
レビューを見る
労働組合エンターテイメント小説
それぞれ 一癖も二癖も
あるような登場人物の
描かれ方が おかしく 楽しい
地方の新聞社につとめておられたころの
経験がそのまんま見事に活かされている
おそらく、
そのモデルとなった「お人」たちも
読みながら苦笑されておられることでしょう
最後まで
興味深く読ませてもらえました。
投稿元:
レビューを見る
おそらくこの作家の代表作であろう『罪の声』は未読ですが、それより前の作品『拳に聞け!』が私の「どストライク」でした。さらに前に戻って『女神のタクト』もかなり好き。
で、これに進んだら、私が労組のない職場に勤めているからなのかあまり興味を持てず、中盤は本作の「山下スイミングスクール」状態に。組合と経営側のやりとりがなかなか頭に入ってきません。
しかし、無理に教育宣伝部長にされた主人公が、新聞記者になった頃の初心を思い出してスピーチするシーンはいい。敵は倒すためにあるんやない、歩み寄るためやという言葉にもジーン。
投稿元:
レビューを見る
地方新聞社、入社六年目の武井涼。極度のあがり症で一切の交渉事に向かないが、委員長に口説かれ労働組合の執行委員を務めることに。折しも会社からの深夜労働手当引き下げ案が大きな波紋を呼んでいた。組合対経営陣。緊迫の団体交渉を克明に綴り、働くことへの熱い思いを描き出す傑作エンターテインメント!
塩田作品三作目。ユーモアたっぷりの筆致にやられました。
投稿元:
レビューを見る
著者の塩田さんが労働組合役員経験者ということもあり、労組の組織形態や取組みについて細かくおさえられている。広報を担当していたということも、リアルな描写に一役買っている。交渉相手の経営陣についての人物評がおもしろくて、賃金や一時金などを決める団体交渉は、本来はそれ自体としてある程度の客観性や理性的な部分が要求されると思うのだが、いかに人のパーソナリティが交渉に影響してくるかが詳細に描かれていて、不条理ながら現実にも即している。
何かとバッシングの多い企業別労働組合(公共部門の労働組合も含むが)であるが、その実際を知る上では良い本だと思う。全組織を一緒くたにはできないけど、労組の大変さが分かる。残業前提で職場と兼務なんて、誰が好きでやるのか。同僚からの矢面にも立たされるし。
ただし、唯一の女性役員の描き方は少しヒステリーに過ぎる。その理由が最終盤で明かされる(そしてその理由はとても個人的なものだった)のだけど、途中まではステレオタイプのフェミニストのそれで、そのまま受け取るには注意が必要。
投稿元:
レビューを見る
組合の執行委員について知りたくて読んだ本。組合員の事を考え代表して上層部と意見を言い合う立場。組合員の気持ちだけでなく、会社の事情にも精通していなければ、大胆な提案もできないし、押さえ込まれてしまう。『ともにがんばりましょう』良い言葉だ。組合はともにがんばるためにある。