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紙の本
浅草・深川のぶらり歩きのお供にぴったり。無類の変わり者・文豪荷風の色好み、けち生活を生き生きと再現した本。
2001/09/13 11:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
対象として取り扱われた永井荷風も変わり者であれば、この著者の方の経歴もちょっと変わっている。大学で物理学を修めて出版社で長らく科学書の編集に従事。で、40代前半に勤めをやめて著述業と画業に入ったようである。著作は、東京の風景に関したもの、そして荷風を偲ぶものが中心のようだ。
この本の魅力はふんだんに取り入れられた挿画。荷風先生の年譜を絵で紹介したり、移り住んだ家々の付近の絵地図を地形を入れて描いてみたり、散歩道のあとを辿って現代の風景をスケッチしたり…と楽しい。「アサヒグラフ」に掲載された荷風の孤独な死体が写った写真の模写もある。生々しい写真を転載するのではなく絵にしていることに、ファンとしての暖かな気持ちがある。著者が手に入れたカストリに近い雑誌に、荷風の小説が掲載された。ヌード写真がいくつか添えられたということなのだが、そのレイアウトの様子もスケッチで見せたりしている。
作品より荷風という人間が面白いのだと著者は言う。文化勲章をもらうほど偉いのに、どれだけユニークな変わり者だったかということが紹介されている。痛快なエピソードばかりで大笑いである。
荷風先生には生涯を通じて貫き通した3原則があったらしい。「人前で酔っ払わない事」「処女を犯さない事」「素人の女と関係しない事」−−だが、かたぎの娘さんを嫁にもらうことになった。そこで、初夜から避妊具を使用。2つめと3つめの原則を遵守したという。なるほど、ルールには抜け道がある。
父親は資産家。株券と広大な屋敷を遺産として継ぐことになったが、屋敷は維持も大変だからと母親に相談せず売りに出してしまった。それが芸者を身受けしたり、次から次への遊蕩を続ける軍資金となったらしい。56歳のころ、愛人一覧表を作ってみたら、16人の玄人さんの名が並んだ。
空襲で麻布の偏奇館を焼かれた荷風先生は、市川で間借り生活を始める。8畳間の離れを万年床のある寝室、書斎、食堂に使っていたのはいいけれど、古新聞に七輪を乗せ、ハンゴウで炊事までしていたというのだ。中身は、一山いくらの野菜を切り刻んで入れてぐつぐつ煮たものだった。
戦前から始まった浅草六区通いは、戦後も続く。出歩くときのスタイルがまた楽しく、こうもり傘を手放さず、買い物カゴかボストンバッグを持っていて、その底に札束など貴重品を隠していた。ストリッパーたちの楽屋に入り込み、たまに菓子などふるまうのであるが、買うのはお気に入りの子と自分の分だけ。同じ部屋にいるというのに、他の子たちにはふるまわなかったとか。
まあ、全部書き出してもいられないけれど、食べ物屋に入ったときの注文の癖やら、「荷風」という筆名の由来やら、他にも奇人の面目躍如たるエピソードがいっぱい出てくる。
荷風作品を読んでいなくても、確かに愛すべき人物像を知るだけでエンジョイできる本なのだ。