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商品説明
「海辺のカフカ」出版以前に公式ホームページで読者とのやりとりをした、往復2440通を掲載。さらに著者自身が初めて自分自身について語る。村上春樹の研究書としても面白い、「海辺のカフカ」マガジン。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
村上 春樹
- 略歴
- 〈村上春樹〉1949年京都府生まれ。早稲田大学卒業。小説家。著書に「ねじまき鳥クロニクル」「アンダーグラウンド」「うずまき猫のみつけかた」「レキシントンの幽霊」など。
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紙の本
いいですね
2023/06/29 19:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
このあたりが村上春樹さんの原点かなと思います。シニカルでそれでいて乾いた感触があって、私にはたまりません。
紙の本
真摯に、軽やかに、新しいコミットメントの形。
2003/06/25 01:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:奈伊里 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年、村上春樹氏の久しぶりの長編「海辺のカフカ」9月刊行に先駆けて、8月、氏の意向で作品の公式ホームページが開設された。そのメインコンテンツは、作品に対する読者からのメールと、村上氏のレスポンス。12月20日のメール受付締め切りまでに届いたメール総数は8000通余。村上氏はそのうちの1230通に返事を書き、その都度HP上で公開されていった。この本は、その全記録になっている。
*****
私事ではあるものの。
1979年、群像新人文学賞を受賞した「風の歌を聴け」を、わたしは1980年、早稲田大学文学部の生協Book Shopで手に取った。卒業生だということもあって大量に平積みされた本の一冊を、何の気になしに。それが村上作品との出会いだった。
ジャズ喫茶を営業しながら、夜中の食卓で書き上げられたという処女作には。大学生というモラトリアム期の中でおぼえる社会や現実への違和感のようなものをくすぐるあれこれが詰まっており、他者と上手にコミットできない自分の現在が、現実感の薄い物語の中に確かに生きていた。以降、わたしにとって、ほぼ新作が発売されると同時に本屋へ足を運び追いかける作家になった。
長篇と短篇、創作と翻訳、そして時折エッセイ、と、その作家活動はとてもバランスのよいものに思えたし、ジャズ喫茶から作家専念、度重なる引っ越し、海外への移住、文壇とはつきあわず、といった読者に伝わってくる作家像も、ドロップアウト生活を送るわたしにとって魅力的だった。
その村上氏が「アンダーグラウンド」というサリン事件被害者を取材したノンフィクションを出した時、わたしは少なからぬ驚きを覚えた。読み終えてみると、何のてらいもなく現在の自分が見聞きしたことがそこには記録してあり、小説に見られる、作為による書き手のバランス感覚はまったく感じられなかった。好き嫌いや思想的な云々を度外視して、行動しないではいられなかった作家の姿がそこにあった。
その作家としてのスタンスの変化については、「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」という本の中で、作家が自らのことばで語ってくれた。デタッチメント(関わりのなさ)から、コミットメントへ。何に、どう、コミットするかと考え始めた作家の前で、阪神大震災、サリン事件と、大きな悲劇が続いていく。その時点、その地点から。自分にとっての、村上春樹という作家にとってのコミットメントの仕方を探り、動き始める。その過程を語る彼のことばに、同時代人として激しく心が動いた。
それは、私自身が、社会から諸々を受け取る側から、差し出す或いは渡していくポジションに立ち位置を変えていた時期と重なり、新たな感触で、わたしは村上作品と向き合い始めた。
*****
「海辺のカフカ」は、村上氏の、新しいスタンスの延長上で書かれた作品だと、わたしは思っている。今、作家がどうしても書かなければいられないことを、確かに手渡されたという実感があった。その文体やら物語やら、説話方法を楽しむこととは別に、そのこと自体が力を持つ。そして、さらに新しい形のコミットメントの形としての、HP開設だ。
老若男女、様々な職業、様々な価値観。本を読む人読まない人、ディープなファンがいれば初めて読む人もおり。それらの膨大なメールに、村上氏は実に丁寧に、一通一通真摯に答えていく。とは言え、語り口は軽やかで、安西水丸氏の描く、あの丸っこい顔した村上さんがしゃべっている感じ。実にフレンドリーで読みやすい。
それにしても情報量はすごい。リアルタイムでHPを追っかけていたわたしも、一気に読もうとは思わない。ぱっと開いたページを、気ままに読み進めると楽しめそうだ。「海辺のカフカ」が好きだった人も。そうでなかった人も。
そしてわたしは、分厚い雑誌体裁の本を眺めながら、自分なりのコミットメントの方法のことなど、ふと考えていたりする。