紙の本
僕は著者と訳者の思う壺である
2008/04/30 21:20
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹訳というのに釣られてこの本を選んだのは大失敗だった。と言うのも、僕はこれがビーチ・ボーイズの音楽に材を採った小説だと早とちりしたのである(なにしろ作者のフジーリは音楽評論家であると同時に小説家でもあるのだから)。ところがこれはバリバリのドキュメンタリであり音楽書であった。
もちろん小説であれ音楽書であれ、面白ければそれはどちらでも良いことであり、事実この入魂のドキュメンタリは非常に読み応えのあるものであったのも確かなのだが、ひとつの大きな問題として、僕があまりにビーチ・ボーイズを、ブライアン・ウィルソンを知らなすぎるということがある。
ほぼビートルズと同時期に活躍したこのバンドは、僕らよりひとつ上の世代のものである。そして、僕らはビートルズは遡って聴いたけれど、ビーチ・ボーイズについてはほとんどそういうこともなかったのである。だから、この本で並び称されているビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と聞けば俄かに、「ああ、あの曲とこの曲と」といろんな音が脳内に甦るのであるが、『ペット・サウンズ』と言われても正直言ってそのタイトルさえ知らなかったし、多分通して聴くと聞いたことのある曲も何曲かあるのかもしれないが、全く確信がない。
フジーリによるビーチ・ボーイズについての、とりわけリーダーであるブライアンとその作品についてのこのドキュメンタリは、時代背景とブライアンの生い立ちと精神状態、そして曲の構成に対する詳細かつ具体的な分析が一体となって非常に見事な構成の文章となっている。しかし、それだけに、ビーチ・ボーイズの曲をほとんど知らない僕らの世代が読むには、「オルガンのソロがあり、明るくのびのびとした十二弦ギターが入る」とか「コーラスはBメジャーのキーからDメジャーへと移り」などという詳しすぎる分析がなんとももったいないのである。
でも、逆にそれだけに、このフジーリという作者を、同時代の多くの若者を、あるいは村上春樹という訳者をこんなにも夢中にさせ、こんなにも思い入れたっぷりに語らせるこのアルバムって一体何なんだろう、という興味が沸々とわいてきて、終盤まで読み至っても去りがたい感じがするのである。
作者は彼がこの『ペット・サウンズ』というアルバムに出会った体験を普遍化してこう書いている。
そしてそのようなことが起こるたびに、あなたの人生は角をひとつ曲がることになる。ある芸術作品があなたの一部と化したとき、それ以前とは世界の様相が一変してしまうのだ。(p168)
僕はこのフジーリの生き生きとした表現によって『ペット・サウンズ』を疑似的に追体験し、角を曲がるところまではとてもじゃないがたどり着いていないが、角が見えるところまで歩いてきてしまったような気がする。
そして村上春樹は彼の訳者あとがきをこういう文章で締めくくっている。
しかしもしもあなたが『ペット・サウンズ』をまったく聴いたことがないか、あるいはざっと聴き流す程度の聴き方しかしてないと仮定すれば、おそらくあなたは本書を読み終えたとき、「この筆者がこんなにも強く心を惹かれる『ペット・サウンズ』というアルバムは、いったいどういう内容のものなのだろう?」と興味を持たれるのではないだろうか。そして実際にアルバムを聴いてみよう(あるいはもう一度しっかり聴き直してみよう)という気持ちを抱かれるのではないだろうか。(pp186-187)
僕は著者と訳者の思う壺である。僕は『ペット・サウンズ』を聴いてみるだろう。そして、もしかしたらその音源を手許に置き、何度も何度も聴き返してみるかもしれない。
by yama-a 賢い言葉のWeb
投稿元:
レビューを見る
本書に村上のこんな訳文がある。
「スループ・ジョン・B」という曲をバンドに紹介したのはアル・ジャーディンで、それはブライアンによって見事に換骨奪胎された。」とある。
「換骨堕胎」、それにしても何でこんな訳文を使ったのだろう。
投稿元:
レビューを見る
あえて書きます。読む必要なし。村上春樹が歌詞をどう訳したか、という点だけか。興味深いのは。もっとも言葉が長く、歌詞って感じでもない。「33 1/3」シリーズの邦訳。"ペット・サウンズ"は日本ほど本国では評価されてない。いや、日本が異常か。改めて本盤の特異なコード進行へちらり触れて、ナイーブなブライアンの様子をぬるく語った。やたら歌詞を引用するわりに、上っ面の印象論だけで語る薄っぺらさが腹立たしい。いくらか関係者へインタビューしてるようだが、新鮮味は特になし。ビーチ・ボーイズの歴史を60年代終わりくらいまで駆け足で抜けたため、中途半端が否めないエッセイだ。"ペット・サウンズ"へ特化してるわけでもなし。新たな聴き手は、本書なんかでビーチ・ボーイズへ興味持って欲しくない。きちんと"サーフィン"から聴いてって、"ペット・サウンズ"までたどり着いて欲しい。繰り言なのはわかってるけれど。
投稿元:
レビューを見る
2008年7月4日読了。「ペット・サウンズ」に対する著者の熱い思いが伝わってくる本・・・。言ってみれば独断と偏見に満ちた一方的な記述ではあるが、客観的なだけの文章では人の心を打つことはできないもんなのかもな。読みながら、覚えず眼に涙をためてしまう、私も私だが・・・。ペットサウンズとブライアンには、考えただけで心とろかされる魅力があるな。
投稿元:
レビューを見る
夏になったし再読。三年ぶり。
当時は、春樹訳でビーチボーイズだってだけで買った。
Pet Soundsを聞きながら読むと面白い。
でもそこまで神がかった文章ではない。
Pet Soundsは神がかったアルバムかもしれないけれど。
投稿元:
レビューを見る
今夜は私の部屋に引きこもって、発売されたばかりの『ペット・サウンズ』(ジム・フジーリ著、村上春樹訳、新潮社)を読み通しました。素敵じゃないですか。奇跡的な名盤となったビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』を、一度も聴いたことのない人にはなんだか聴きたくなるようにさせ、何度か聴いたことのある人にはどうしてももう一度聴きたくなるようにさせ、ずぶずぶに聴いていた人にはさらに深みにはまらせてしまうような、そういう強い喚起力を持った書物です。村上春樹のすばらしい「あとがき」がトドメになるでしょう。
私がいちばん「いとおしい」音楽家はブライアン・ウィルソンです。この本を読んで、ブライアンには長生きしてほしい、幸せでいてほしい、とますます思うようになりました。
投稿元:
レビューを見る
ロック史に残る大名盤、ビーチボーイズの「ペット・サウンズ」について書かれた本。村上春樹訳で話題になったけど、まあビーチボーイズ好きな人はあえて読む必要が無いような本だし、これを読んで「ペット・サウンズ」に興味が持てるか疑問だと思う。
この本、発売当初は買おうかと思ったけど、買わずに図書館で借りて済ませて良かった。名盤「ペットサウンズ」のサブテキストとしては余りに役不足。読んでいて音楽が聴きたくならない。致命的だと思う。
強いて言えば、村上春樹のあとがきの方が、この音楽のサブテキストとしては本文よりふさわしいかも知れない。
CDやBoxセットに付いている解説書の方がサブテキストとして大変興味深く読めるよ。それで物足りないならブライアン・ウィルソンの自叙伝を買いましょう。
投稿元:
レビューを見る
ビーチボーイズの同名アルバムを持っていたので、
衝動買い。
読んでみると、私のような
「只なんとなく聞いていただけ」な人には高度すぎた。
そして村上春樹の翻訳なので、
どうしても村上春樹色がつよく、好みは分かれる。
正直なところよくわからなかったが、
多分もっとビーチボーイズに精通している人が読んだら
わくわくするんだと思う。
投稿元:
レビューを見る
学生の頃、その頃流行っていた村上春樹を読んであーだこーだと吹聴している先輩がいて、どうもその軽薄な感じが嫌で、「村上春樹を読むとあんな感じになってしまうのか」などと皮肉ったりして、まーその先輩のせいにするのもナンだけれど、結局まだ一度も読んだことがない(笑)。それはいいとして…。
昔、山下達郎だったかが「傑作だ」と言っていて、確かにいいアルバムだよなと聞いていたのだけれど、何がどう傑作なのか、実はよく分かってはいなかった。コーラスの美しいヴォーカルものは基本的に好きだし、メロディーも歌詞も最高の楽曲だと思っている「God only knows」が入っているだけで、オッケーだった。いつか中古CD屋で「Pet Sounds」のボックスセットに、ものすごい数のalternate takeのトラックが入っているのを見て、かなり作り込まれたアルバムなのだな、やはり「傑作だ」などと思っていた。(←単純)
ま、この本にはその制作秘話やつくられた背景なども詳述され、このアルバムやBeach Boysが好きな人にとっては無茶苦茶面白いけれど、カンケーない興味もない人にはふーん…だろうと思う。でも、このアルバムで様々な音楽的実験を試みているブライアン・ウィルソンは、やはり変人天才だったんだなと思わせてくれる。やはり「傑作だ」。(←まだ分かってないかも)
投稿元:
レビューを見る
これじゃないけどテルミンという楽器についてのドキュメンタリー映画にでてくるブライアンウィルソンが、半ばイカレながらにしてテルミンの魅力を語ってる様に引いた。天才のなせる技。
話関係無くなっちゃったけどようはペットサウンズを聴けという事
投稿元:
レビューを見る
『ペットサウンズ』…1966年に発表されたビーチ・ボーイズの代表作。
だけど、リリースされた当時はこれまでのビーチボーイズと違いすぎて、ファンは戸惑ったし、すぐさま評価されたわけではなかった。
わたしはフリッパーズ・ギターが「ヘッド博士の世界塔」というアルバムで、「God Only Knows」をパクるという形でリスペクトをささげているので知った(そういう人は同世代に多いと思う)。
この本は、筆者のこのアルバムの個人的な聞き方を綴ったものといえそう。
全曲ではないけどほぼすべての曲に対して、使われている楽器、演奏、歌、コード進行について詳細に書かれている。聴きながら読んでみたけど、なかなか細かいところまではわからなかったりした(コード進行とか)…
ブライアンは今では統合失調症で鬱病だったことがわかって治療もした(している)そうだけど、社会に対する恐れを抱いている、ナイーブな人であった。このアルバムはビーチボーイズではなくて、ブライアン・ウィルソンが自分の世界を表現した作品なのだ。
各曲について理解するのは難しかったけど、このアルバムに対して持っていた、神々しいようなイメージは正しかったのだと知りました。
P59 どこかの神様がひょっとしてこんなことを言ったのではあるまいか、とあなたは考えるかもしれない。
「多くの人々に対して、多くの大事なものを与えることのできる人間をわたしは創ろうと思う。人々の心を豊かにし、人々の人生に陽光を送り、人々が自らを表現し、また自らを理解するすべを示し、この世界における自分たちの居場所を見つけ出すことができるようにする、そんな作品を生み出せる人間を。しかしその本人は、とことんつらい目にあうように設定しておこう。彼の与える恩恵が自らには決して及ばないようにし、自分が向上させてきた世界が本人にとってはあくまで陰鬱な独房であるようにしておこう。」
ブライアンはフィル・スペクターの「Be my baby」が大好きだったというのは有名な話らしい。
この曲へのリスポンス・ソングとして「Don’t worry baby」を書いたとのこと。1964年、最初のLP『シャット・ダウンvol.2』に入っている。(P42より)
P111~115あたりにビートルズの『ラバーソウル』(1965)についての文章がある。
P112 ビートルズはそれらの「埋め草」を、アルバムの中心をなすヒット曲に劣らず質の高いものにすることによって、従来の方式を破壊してしまった。
ブライアンの言葉。「僕もやってみたいよ。『ラバーソウル』はひとつの完全なステートメントになってる。参ったな。ぼくが作りたいのもこういう完全なステートメントなんだよ。」
『ペットサウンズ』は『ラバーソウル』に刺激されて生まれたといえそう。
そして、『ペットサウンズ』は『サージェントペパーズ…』に刺激を与えた。
『ペットサウンズ』を聞いたジョンとポールについて、「2人は言葉を失っていた」とブルースが言っている(P159)
-----
訳は村上春樹。
あとがきで、
当時はビートルズの『サージェントペパーズ…』のほうが好きだったけど、時を経るう��に『ペットサウンズ』のほうが重要度が増してきたと書いている。
そして、最後、この本を読んでアルバムを聴きたくなったら、ぜひ聴いてください。聴く価値のあるアルバムです、という文章で締めている。
-----
誰かさんのブログより(↓)。
(いいな…わたしもこんな文章が書ければいいのに…)
ブライアン・ウィルソンという人が、ハードな人生を送ってきたということは、
知っていたのですが、実際のどういう意味で「ハード」だったのかは、
実は余り知りませんでした。
この本を読んで、そのことがよく分かったのですが、
僕はそれよりも、レコード会社とブライアンの闘いの方に興味を覚えました。
つまり、ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」、
もしくはビートルズの「ラバーソウル」や「サージェント・ペパーズ」以前は、
僕たちが今聞いているような一つの作品としての「アルバム」という概念は
存在しなかったのです。
ヒットシングルを2・3曲入れて、間を適当な曲で繋いで、出来上がり。
それが当時のアルバムだったのです。
圧倒的にレコード会社の主導権が強く、
アーティストに発言権はほとんどなかった様子。
その強固なシステムを、これらのアルバムが
鮮やかにひっくり返してしまったのです!
ビートルズは「サージェント・ペパーズ」以降も優れた作品を発表し続け、
しかも解散した後も名声を保ったのに対して、
残念ながら、ビーチ・ボーイズは反対の道を辿ってしまった。
つまり、その後はヒット曲のオンパレードを
気楽に演奏してくれるレトロ・バンドになってしまったのです。
それはともかくとして、
自己表現を望んでブライアンが魂を込めて作ったアルバムが、
お金儲けのための既得権益システムを、
アメリカ大陸でもひっくり返したという事実は、
哀しいエピソードを隠しているからこそ、
まさに「ロック的」で、語り継ぐ価値があるのだと思います。
そういうエポックメイキングな作品が、
鮮やかに時代を回転させる瞬間をもっともっと目撃したいと思うのです。
投稿元:
レビューを見る
ロック史の中で名盤として名高い『PET SOUNDS/The Beach Boys』を作者の視点からブライアン・ウィルソンの苦悩を描いた作品。
『PET SOUNDS』はThe Beach Boysの歴史の中でも異彩を放つ作品。
なぜこのような作品が生まれたのか興味がありました。
それがこの本を読むことで少し理解できたと思います。
音楽ファン必読の一冊!
投稿元:
レビューを見る
ブライアン・ウィルソンのことはすこしだけ知っていたのだけど、ペット・サウンズをやっと聴いたのでついでに読みました。
彼は予想以上に病んだ人だったんだなあと。育ってきた環境もだし、周りの人間もだし、そして大人になり切れなかった。それでも音楽にだけひたすら愛情を注いで、偉大なアーティストになった。
あの作品が作り上げられたことが奇跡であるか、それともそこで終ってしまったことを悔やむべきか、それは決められないけど、そこには確かにこれができただけの物語があるんですね。そして聴いた人の物語も。そういうのを読むだけでも、ぜんぜん違ってきますよね。別にこのアルバムに限ったことではないですが。
あと、曲の解説も入ってるんですね。知らなかった。
投稿元:
レビューを見る
この人、どんだけペットサウンズが好きなんだ!?とか言って僕も大好きです、ペットサウンズ。サウンドで世界を作り上げている、それも唯一無二の!単なるポップ・ミュージックをしても聴く事が出来るけど、聴き込めば聴き込むほどその世界の深さには驚かされる。この本はそんなペット・サウンズが好きで好きでたまらない筆者の長い長いラブレターですね。だもんであまり興味がない人には少々退屈かもしれません。村上春樹訳ということで読んでみる人もいるでしょう。僕の個人的な感想ですが「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」のなかの「世界の終わり」の方で村上さんは塀に囲まれた世界を作り上げていますが、その一つの完成された世界を作っているところがペット・サウンズを思い起こさせます。それぞれの世界で見られる風景は全然違うんだけどね。これから読んでみようかなという人はぜひペット・サウンズを聴きながら読んでみてください。
投稿元:
レビューを見る
わたしはビーチボーイズはそもそも好きだったけれど、アルバム「ペット・サウンズ」を買ったのはやっぱり村上春樹氏がすすめていたから。その程度の好きかげんなので、この本は、うーむ、ちょっとついていけなかったような。ブライアン・ウィルソンの自伝みたいな内容かと思っていたら、かなり音楽的な話が多くて。相当きき込んでいて、ここの音がどうとかこうとかわかっていないとぴんとこないような……。 もっと、ビーチボーイズやブライアン・ウィルソンについて基本的なことが知りたかった……。