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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2004.10
- 出版社: 日本経済新聞社
- サイズ:20cm/308p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-532-13287-8
紙の本
人民元と中国経済
著者 白井 早由里 (著)
人民元の現行レートは過小評価されている? 将来ドル・ユーロと並ぶ国際通貨へと成長するのか? データと経済理論を駆使して、生産などの実物面、為替レート面、金融システム面、国...
人民元と中国経済
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商品説明
人民元の現行レートは過小評価されている? 将来ドル・ユーロと並ぶ国際通貨へと成長するのか? データと経済理論を駆使して、生産などの実物面、為替レート面、金融システム面、国際通貨体制面から総合的に分析。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
白井 早由里
- 略歴
- 〈白井早由里〉1963年東京都生まれ。コロンビア大学経済学博士号取得。IMFエコノミストを経て、現在、慶応義塾大学総合政策学部助教授。著書に「検証IMF経済政策」「入門現代の国際金融」等。
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紙の本
シンプルな道具立てによる緻密な議論
2004/11/06 16:56
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:梶谷懐 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆる人民元の「切り上げ」問題に関する本は最近盛んに出版されているけど、百家争鳴、っていうよりは玉石混交といった感じで、きちんと中国の金融問題と真正面から取り組んだものは案外少ない。中には、中途半端な現代中国経済事情や、アメリカの「ドル支配」の話を持ち出してお茶を濁しているようないい加減な便乗本も結構ある。その中でこの本は、理論的な整合性が最も高く、緻密な議論が展開されているものといっていいだろう。
さて、その人民元をめぐる議論だが、単純化すれば次の3つのパターンに分類されると思う。一つ目は、本来「為替レートは市場メカニズムによって決められるべき」だが、「現在の人民元(の対ドル)レートは市場均衡レベルより過小評価されている」ので、より適正なレートに戻さなくちゃいかん、という議論。アメリカや日本の多くのエコノミストはこの意見だ。次に、確かに「現在の人民元レートは均衡レベルより過小評価されている」が、現在の中国で「為替レートを市場メカニズムによって決める」のは時期尚早なので、とりあえずそのままにしておこう、という議論。ロナルド・マッキノンなんかがこの立場だ。最後に、そもそも「現在の人民元水準は市場評価による実勢より過小評価されていない」、だから現行の対ドルレートを切り上げたり変動幅を拡大する必要はない、という議論。
で、本書の白井さんの立場はというと、一番単純明快な3.である。この結論だけ見ると、まるで日米からの切り上げ圧力に苦しい言い訳をしてしのごうとしている中国政府の立場そのままで、思わずハァ?といいたくなってしまうかもしれない。
しかし、白井さんによれば、「人民元は過小評価されている」という通常信じられている命題のほうこそきちんとしたデータに基づかない、恣意的なものでしかないのだ。その主張の主な根拠をあげると次のようになる。
1.発展途上国では購買力平価よりも実質為替レートが過少に評価されるのは一般的な現象だ。現在の中国も全体で見ればまぎれもなく途上国なのだから、購買力平価が実質為替レートよりかなり高めに出てくるからといって、それはすぐに為替レートの調整が必要だ、ということを意味しない。
2.実質為替レートの市場均衡水準は、長期的にはその国と相手国のISバランスによって決まってくる。中国の場合、一貫して国内の貯蓄率が高く、政府によるインフラ投資も頭打ちの状態にあるので、適正な為替レートの下では経常収支は黒字傾向を示すはずだ。しかるに中国の経常収支はすでにマイルドな黒字状態であり、現在の実質為替レートは長期的にみても適正な水準に近いと思われる。
3.一般に、ある国に通貨の切り上げ圧力がかかるのは、国内の製造業における急激な生産性の上昇が起こり、それに続いて賃金水準一般の上昇が生じる場合である。しかし、中国の場合、確かに製造業における生産性の工場は観測されるものの、内陸部から無制限の労働供給を受けるため、生産性の上昇に見合ったような賃金水準の上昇は起きていない。だから実質為替レートの大幅な調整も必要ない。
このように、国際金融論のシンプルな道具立てのみを使っているので全体を通じて議論が一貫しており、非常にわかりやすい。理論的な分析を踏まえた政策的提言もかなり包括的なもので、中国のマクロ経済についての入門書としても優れた一冊だといえるだろう。