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- カテゴリ:一般
- 発行年月:1998.8
- 出版社: 日本経済新聞社
- サイズ:20cm/498p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-532-14670-4
紙の本
リスク 神々への反逆
古代ギリシャの人々の思考様式、パチョーリ・パスカルらのパズル解明、ルネッサンス・宗教改革による思考の自由化、保険の仕組みの考案など、「リスク」の謎に挑み、未来を変えようと...
リスク 神々への反逆
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商品説明
古代ギリシャの人々の思考様式、パチョーリ・パスカルらのパズル解明、ルネッサンス・宗教改革による思考の自由化、保険の仕組みの考案など、「リスク」の謎に挑み、未来を変えようとした天才たちのドラマを紹介。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ピーター・バーンスタイン
- 略歴
- 〈バーンスタイン〉ハーバード大学卒業。コンサルタント。全米および世界各地で講演経験を持つ。著書に「証券投資の思想革命」ほか。
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紙の本
リスクの観念は時間に対するある特異な意識の上に成り立つものである
2001/02/17 16:19
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳者あとがきによれば、著者はアメリカの投資社会で「賢人」と呼ばれる現役の投資顧問。一読して、実に刺激的かつ深く濃い内容に満ちた書物、として記憶に止められることになるのではないかと予感させるものがあった。本書前半の記述から、いくつか素材を拾っておく。
われわれが生きている現代と過去何千年もの歴史との一線を画する画期的アイデアは「リスク」の考え方に求められる、と著者は書いている。未来を現在の統制下におくこと、つまり将来何が生起しうるかを定義し、代替案の中からある行為を選択するリスク・マネジメントの能力が、現代社会の中核に存在するというのだ。
著者によれば、本格的なリスクの研究が開始されたのはルネッサンスの頃なのだが、リスクの現代的な考え方のルーツは、ヒンズー‐アラビア式の数字システムにある。そしてこのことが、ルネッサンス以前になぜリスクの考え方が登場しなかったのかを説明してくれる。
《もしギリシャ人が、彼らの知的な子孫であるルネッサンス期の人々が何千年も後に発見する確率論のことを当時から予知していれば、今日の文明はさらに進化していたかもしれない。(略)最も重要なことは、ギリシャ人は自らの行動結果を記録することはできても、計算することができるような数の体系を持っていなかったことである。》
ところで、アラビア人の高度な数学知識をもってしても、確率論やリスク・マネジメントの議論にまでは踏み込めなかったのはなぜか。
《けだし、その答は彼らの人生観と関連している。(略)リスク・マネジメントの考えは、人々がある程度自由な振る舞いができると信じた時に芽生えてくる。ギリシャ人や初期のキリスト教徒と同様に、宿命を信じるイスラム教徒がその段階に到達するには未だ早すぎた。》
《漠然とした蓋然性を系統的な確率概念に置き換えるというラジカルな考えを生み出したり、未来は予測可能だし、未来をある程度はコントロールできるという考え方を示唆したのは西洋人だけだった。しかし、その西洋人でさえアラビア数字だけではそのような考え方には到達できなかった。アラビア数字を超えて西洋人がラジカルな考え方に到達するには、人間は与えられた運命に対して全く無力というわけではなく、現世での宿命は常に神によって決められているわけではないことを悟らねばならなかった。/ルネッサンスと宗教改革がリスクの謎を解明する機会を与えた。》
私なりに要約しておくと、第一に、リスクの観念は、時間に対するある特異な意識の上に成り立つものである。それは過去と未来が現在のうちに織り込まれているような(無時間的な)それではなくて、過去と未来が鋭く斬り結ぶ裂け目のうちに現在を位置づける時間意識でなければならない。第二に、確率概念を基礎とした統計学的‐計量的アプローチによるリスク・マネジメントは、徹底した抽象化の上に成り立つものである。
ピュタゴラス的な数秘術[numerology]やカバラのゲマトリアが、それぞれ幾何学的な形やヘブライ文字と結合した数の表記システムに固有の象徴的あるいは魔術的な解釈術(既知のもの=普遍的なものの「予言」ならぬ「遡言」術)として編み出されたものであるとするならば、ヒンズー‐アラビア・システムが切り開いた世界は、「簿記と予測」の二つの活動によってもたらされる脱神秘主義的な資本主義だった。
ギリシアの古典古代とルネッサンス以後の近代との二千年余の間に、もしかしてリスクの観念が発達しえた時代があったとすれば、それは西暦一世紀から三世紀にかけて、まさにグノーシス主義が地中海世界に蔓延した時代だったのではないか。──そんなことを、私は漠然と考えている。