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商品説明
巨額の利益を得、ウォール街から12年ぶりに帰国した天知竜は産銀を経営破綻へと追い込む。産銀を荒療治し外資に売りとばすのが狙いだった…。『日本経済新聞』朝刊に連載したものを単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
辻原 登
- 略歴
- 〈辻原登〉1945年和歌山県生まれ。90年「村の名前」で第103回芥川賞受賞。99年「翔べ麒麟」で第50回読売文学賞受賞。2000年「遊動亭円木」で第36回谷崎潤一郎賞受賞。
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紙の本
ウォール街帰りの天才トレーダーが、核軍縮をデリバティブの対象とするヘッジファンドを牙城にして腐敗した権力中枢にバトルを挑むという壮大な物語。「金融」という虚業のファンタジー。
2001/10/01 12:20
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
『村の名前』のような幻想譚を書く辻原さんが金融ビジネスを舞台とした経済小説を?——といぶかしい感じがしたのだけれど、これは壮大な幻想譚になっていると、上巻を一気ひと晩読みして納得した。
今の日本の経済沈滞は米国との覇権争いに負けたのだ、経済戦争における敗戦なのだという見方をするエコノミストやビジネスマンが少なくないと思うが、ここでは、ある意味で米国の傘を外したフィクションが打ち立てられている。そして、霞ヶ関と金融との癒着により機能している権力構造、つまり極めて特殊日本的なものの存在をクローズアップしている。
その上で、ここ数年金融界や官界を揺さぶった事件の数々を別の脈絡のなかに位置づけているのである。
たとえばそれは、たった一人のNY支店行員の自己判断による不正取引の損失と法違反で海外業務から撤退を余儀なくされた都市銀行の事件であり、大手証券会社の自主廃業であり、政府系銀行の破綻。素材としてうまく料理されている。
それらの裏に、アメリカの金融という黒幕を置くのではなくて、天知龍という若き天才トレーダーを配している。
1996年、米国大手投資銀行のチーフ・トレーダーだった龍は他の大手のチーフ・トレーダーたちと密かに結託して、損失を取り戻そうと米国債の空売りを続ける邦銀の行員を駆逐する。
しかし、この一件で龍の内側の何かが切れた。
金融ビジネスを退きヨーロッパに遊ぶ龍だが、元外交官の誘いで日本に本格的なヘッジファンドを設立する。このファンドは旧ソ連の武器処理や旧満州に残る化学兵器の処理にかかる国家予算をデリバティブの対象にして利益を上げることを当面の目標にしているが、大企業の粉飾決算による裏金づくりを続けてきた国の権力中枢の解体、ひいては日本の解体を目すものである。
その狙いに沿って、この上巻ではタイ・バーツが暴落し、大手証券会社が自主廃業の道を辿ることになる。
専門用語オンパレードの経済小説ではない。
龍のターゲットとする権力の先鋒として直接の対戦相手となる穴吹とは、神楽坂の売れっ子芸者をめぐって恋のさやあても展開するし、それに関係して色好みの官僚接待の内容が紹介されたりする。平成の花柳界がわかる。
安藤忠雄をモデルにした建築家の仕事や、知る人ぞ知るチマローザのソナタ、東西の古典文学、野イバラや萩をはじめとする植物、気の利いたカクテル、ヴィンテージ・ウォッチなど小道具となるものにも興味深い情報がいっぱいで楽しめる。
何よりも引っ張られていくのは、出生がはっきりとしない天知龍という主人公のニヒルでミステリアスなキャラクターである。彼を一時期後見していた「右近」と名乗る魅力的な女性が、龍の関わるヘッジファンドを包括する「橘」というコードネームを持つプランの進展の陰に見え隠れするのも面白い。
虚業として金融ビジネスを捉え直すのに、ユニークな物の見方を与えてくれる小説だと思う。
紙の本
2001/07/15朝刊
2001/07/19 18:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:日本経済新聞 - この投稿者のレビュー一覧を見る
源氏物語から紅葉、鏡花、荷風、谷崎らに受け継がれてきた「花柳小説」に、芥川賞、谷崎賞を受賞した気鋭の作家が挑戦した、恋と陰謀が渦巻く長編ロマンである。
一九九七年の東京が舞台。暴走族出身の孤児・天知龍が主人公だ。亡き母の親友で、二十歳年上の篠原綾(右近)から支援され、東大から外資系投資銀行に進み、ウォール街で活躍後、日本に戻った三十六歳の天才ファンド・マネジャーだ。
龍は元外交官の呉周平に協力して、ヘッジ・ファンドを旗揚げする。巨額のマネーを動かし、政治と金融が癒着した既成権力集団や、腐りきった戦後日本のシステムに挑戦状をたたきつける。
龍と女性たちとの恋。神楽坂芸者から銀座のクラブのママになった暴走族仲間の風子。浄瑠璃寺の秘仏、吉祥天女像のような永遠の美しさを持つ篠原綾……。
ここでの恋は、精神性を強調した西欧文学の近代的恋愛ではない。金銭、好色、遊芸がからみ、いかにいい女をものにするかという、日本伝統の「色ごのみ」である。愛しながらも拒み続ける年上の女と、追い続ける若い男の恋の極致が描かれていく。
巨大銀行・証券会社の経営破綻(はたん)、ヘッジ・ファンドの壮絶なマネーゲーム、神楽坂や銀座の夜の情景、野イバラや紫陽花の花、チマローザの美しい音楽などが織り込まれ、「現代の源氏」が華麗に展開される。小杉小二郎の挿絵も、上品で味わい深い。
(C) 日本経済新聞社 1997-2001