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商品説明
至上の愛を得ること、既成権力集団の巣窟である巨大銀行をつぶすこと。2つの野心を抱く天才ファンド・マネジャー天知竜の前に立ちはだかる壁とは…。『日本経済新聞』朝刊に連載したものを単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
辻原 登
- 略歴
- 〈辻原登〉1945年和歌山県生まれ。90年「村の名前」で第103回芥川賞受賞。99年「翔べ麒麟」で第50回読売文学賞受賞。2000年「遊動亭円木」で第36回谷崎潤一郎賞受賞。
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紙の本
政府系銀行の破綻後、日銀闇特融のからくりは明らかにされるのか。正義感ではなく利益(パフォーマンス)に突き動かされて、闇のシステムを解体させようと挑む天才トレーダーの経済ファンタジー・ノベル。
2001/10/02 11:23
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後日本の権力機構を裏から支えてきた闇の金融システムをターゲットとして、天才的ファンド・マネージャー天知龍が政府系銀行くずしを仕掛けようとするところから下巻が始まる。
このモデルとなっている元長銀の日比谷の本社ビル。日の光を効果的に取り込んだロビー吹き抜けにある長いエスカレーターが、天に昇っていくような幻想的な心象を見る人に与え、その存在自体が日本経済の愚かさを象徴するように思えて仕方ない。長銀株が下落し売買取引のストップがかかったちょうどその日の夕暮れ、たまたま私はその前を通りかかった。
天知龍は政府系の「産銀」を叩くために周到なワナを仕掛ける。自らが率いる証券会社と産銀の業務提携に続き合弁会社を設立するのだ。金融ビッグバンのさきがけとなる投資銀行である。当初その噂が市場に流れたとき、不良債権で死に体だった産銀の株は反騰する。
龍をバックアップする呉が敵の工作で逮捕され、末期癌の限りある命を縮めるというハンデを負いながらも、産銀内部や大蔵省に同志を得たり、過去の疑獄事件の真相の証拠となるメモを提供することで東京特捜を力に変えることができた龍の陣営は、いよいよ産銀破綻へのバトルに挑む。
このトレードの場面はなかなかの緊張感である。読んでいると、自分が株の空売りをシミュレートしている気にすらなってくるが、本物の興奮に突き動かさされているトレーダーにしたってシミュレーションという意味においてどこが違うのだろうと思う。札束の現物を遣り取りしているのではないのだ。電話での口約束で何十億もの姿なき数字を売り買いする。ファンタジックな虚業である。物語にそのままスライドさせられやしないか。
龍は、その紳士協定の上に成り立つ口約束ゆえに、絶体絶命のピンチに立たされる。が、自分が逮捕される前に、相手の身柄が拘束されるように画策する。
産銀への日銀闇特融のルートを辿っていけば、上巻で自主廃業に追い込まれた大手証券会社の秘密口座や政治家たちへのリベートなどを白日の下にさらすことができ、金融の闇将軍を叩けるという壮大な展開に結びついていく。この金融ビジネスを下部構造として、上部構造には龍の20年越しの恋がじらされるように織り込まれ、その恋人を境ににらみ合う、日本経済の裏を操ってきた二人の老将が描かれる。
下巻では、自然の恵み豊かな丹波篠山(河合雅雄・隼雄兄弟の故郷だ)や庄内藩の城下町・鶴岡、箱根明神平の森など移動がいろいろあるのも楽しめる。文化学院の中庭が密会にはいいなんていう、高度東京人情報もあったりする。
物語はすべておしまいという感じではなく続編があってもおかしくないような、トレーダー天知龍シリーズが成り立つような終わり方が私には好もしかった。今後は構造改革が進展していき暴き出されるものがあるだろう。それをまたこの作者の眼鏡で見たい気がする。