Ｘファイルの科学

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投稿者：木村　智博　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

　UFO，エイリアンなどの超常現象は古今東西を問わず話題にされ，中には科学者を巻き込むケースも珍しくない。ドキュメントが放映され，書籍が刊行され，論争の種になることがしばしばある。そんな中，米国の「Xファイル」というテレビ番組が人気を得ている。わが国でも類似した番組があり，意外と視聴率が高い。生命の不思議に思いを馳せ，この地球上で起こる奇妙な現象は時空を超え，我々を神秘の世界にいざなう。
　数ある超常現象関連の書籍に，1冊の本が加わった。それがここで取り上げる本書である。類書と大きく異なる点は，科学的検証を積み，十分に推敲（すいこう）された記述であること，生命の神秘に迫る作業の過程で生物学的知見を重視し，しかも専門用語を駆使しつつも，一般向けに訳注を付している点である。ち密な文章は専門外の人にも想像力を与え，場面をイメージしやすい。多くの事例を丹念にひもとく作業は研究者とは何か，何のための研究か，といった問題を考えさせる。したがって，本書は単なる解説本ではなく，科学の神髄をとらえている。
　本書で取り上げるテーマは生命の不可思議と宇宙への眼差しに大別される。ただ，生命に関する記述の方が多く，我々が自然の中で生きている意味を問う。遺伝子やミュータントの用語が頻出し，通常考えられている突然変異について再考する。一方で，確認，もしくは未確認情報に満ちたUFOや地球外生命に関しても言及。タイトルからSFと思いきや，科学的に掘り下げた内容で，読んでいるうちに引き込まれる。真実追究の手は緩めず，理詰めで攻める文体に裏打ちされたものとは。皮相的とは無縁な，物理学の考えを持ち出し，たとえば「双子のパラドックス」といった概念を取り上げる。
　本書は実に読み甲斐がある。つたない解説はここで筆を置き，タイトル例を示す。“自分の肝臓を食べなさい！”，“歩くカビ人間”，“地獄から来たキノコ”，“火星からの侵略者”，“疫病神のミツバチ”などなど……。決して奇をてらったものではなく，内容が深い。翻訳書にありがちなぎこちなさが払拭され，流麗な日本語が真実の扉を開ける。
(C) ブッククレビュー社 2000