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紙の本
いやはや恐れ入りました
2000/09/01 11:23
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投稿者:愛・蔵太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハルキ・ホラー文庫の、創刊時の作品では、これが一番かな。
山の中に埋められた死体(美人のピアニスト)が、霊として生き返って、自分を殺した人間とその動機について知ろうとする(ここらへんは幽霊もののお約束か?)。魂を乗り移らせる相手として、目が見えないプラネタリウムの案内人(地味な女性)をたまたま選んでしまうが、それがどんどん意外な方向に行く。目の不自由な女性はレイプされ、そのレイプ犯と殺された女性(幽霊)とは、「大正時代に不幸な一生を送ったある別のピアニスト(女性)」を通して繋がっていることが分かる。その後山奥で見つかった死体は、DNA鑑定によるととてもありえないような真実を示し、その意味を探る若手刑事が物語を動かすキャラとなる。
描かれている世界とかはまぎれもなくホラーだが(「死んだ人が、なぜ私には見えるの?」「きみが死んだ人間だからだよ」「あなたも?」「そうだ」と言った会話とか)、ホラーとしてのハッタリとか、読者を怖がらせようというようなあざとい仕掛けは恐ろしく欠如しており、個人的な印象としてはマーガレット・ミラーのような心理スリラー(ホラー)の妙を感じました。本文の間に入っている「現実に起きた事件の報告書」みたいなものの挟まれ具合とか。
霊と合体したヒロインが、いきなりピアノの名手となってしまったりとか(ショパンなど平気で弾いてしまうのだ)、テレビドラマ的に「えー、そんなのよなー」と思えるような演出もあるのだが、これは実は裏の裏の真実に対する伏線でもあったりする。
鎌田敏夫という作家に関する私のイメージは、テレビドラマ・映画の脚本家出身だとか、ミステリー系評論・時評で話題になっているのを見たことがない、とかで、正直言ってあまりいいものではなかったのですが、土下座してお詫びします。物語構成・キャラクター・物語のテーマ、という、作家として持っていなければならない能力を、この作品を読んだ限りでは見事に持ち合わせています。また文章力も人なみにあります(読んでいてちゃんと、シナリオではなくて小説を読んでいるという気分になります)。いやはや、恐れ入りました。