紙の本
「文壇タブー」ってあるんだ、やっぱり
2020/09/04 11:33
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリー小説はほとんど読んだことがない。
だから、それが原作となったテレビドラマに夢中になったこともない。
けれど、この本でその生涯を描かれることになる山村美紗の名前は知っているし、その容姿も記憶にある。
何しろ彼女は「ミステリーの女王」と呼ばれた超有名な作家だったから。
「二百冊以上の本を出し、その半分以上がドラマ化され、高額納税者として新聞に名前が載り、赤やピンクのドレスを身に着け人前に現れた」と、この本に記された人。
そして、京都を愛し、そこに住んだ作家。
そんな山村美紗には二人の男が濃密に関わっていく。
一人は夫。そして、もう一人はベストセラー作家西村京太郎。
この作品を書いた花房観音はデビュー作『花祀り』で団鬼六大賞を受賞、それ以降京都を舞台に数々の官能小説を書いてきた。
花房もまた京都を愛する作家であることはまちがいない。
だから、絶頂期の1996年、62歳で亡くなった山村美紗のことが気になったのだし、彼女に深く関わった男が二人いたこともまた花房の関心を惹いたのだろう。
しかし、花房が直面したのは「文壇タブー」の問題。
かつてのベストセラー作家の生涯を描くためには、もう一人の現役ベストセラー作家との関係も描かざるをえない。
そこに多くの出版社が拒絶反応を示したという。
それでも花房は山村美紗を書きたいと思った。そこには興味本位で「文壇ゴシップ」を書こうとするものではない、花房観音の作家としての矜持を感じる。
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例えば20代の人でも「山村美紗」という名前を聞けば「二時間サスペンス」を思い浮かべる。
あるいは「紅葉さん!」と。
実際には山村美紗が亡くなってすでに24年が経とうとしているのに。それだけ日本のサスペンスドラマには欠かせない作家だったということだろう、それはもう今さら言うまでもなく。
全盛期の数字を見ると驚愕する。そんなに本って売れていたんだ、と信じられない数字が並ぶ。
本が一番売れていた時代。そんな時代を命がけで、全力で駆け抜けた一人の小説家。語られるエピソ―ドのすさまじさよ。ある意味それが許された時代だったのだろう、とも思う。
年間11冊の本を出す、って、それは、ほぼ毎月ってことで、しかもミステリってことはそれだけのトリックを持っていなければならないわけで、そりゃもうすごいとしか言いようがない。
けど、これだけ書いても「まだまだ書きたい!時間が足りない!」とか「新しいトリックを思いついた!」と言い続けていたというのだから恐るべきことだ。
そんな山村美紗と西村京太郎の関係といえば、文壇界ではタブー中のタブーだ。それをあえて今、世に出すという。なぜ、いま?
例えば、ものすごく失礼な言い方だけど、夫であった巍氏や、西村京太郎に何かあった、というタイミングだったり、未発見の書簡が見つかったとか、都市伝説でもあった地下トンネルが発見されたとか、そういうことはなにもないのに、なぜ、いま、なのか。
巍氏も西村京太郎氏も山村美紗の死後再婚し、それぞれに幸せに暮らしている。娘たちもそれぞれに平穏に暮らしている。なのに、なぜ、いま、なのか。
けれど、本が生まれる、というのはそういうことなのかも。すべて、何かのタイミング。
膨大な参考資料を見ると花房さんのこの本に賭ける意気込みや使命感や覚悟というものが伝わってくる。
生半可では書けないものでもあるし。
ならば、というか、だからこそ、というか、巍氏と西村京太郎と山村美紗の不思議でいびつで、だけど安定した三角関係の「本当のこと」をあぶりだしてほしかったという気もする。
西村京太郎の二転三転する証言の意味、本当はどうだったのか。
もしかすると、書けないものを見つけてしまったのか、だから最終的に「藪の中」で終わらざるを得なかったのか。だとしたら、西村京太郎の『女流作家』『華の棺』に対する「小説」としてそこを描く手もあったのでは…
と書きながら、でも、それって本当に必要なことなのか、とも思う。
二人が男女の関係だったとして。その関係が30年続いていて、それを目の前で夫はずっと見ていたとして、それが、「トリックの女王」と呼ばれ死後20数年たってもまだドラマの原作者としてその名を遺す山村美紗に、何の関係があるというのだろうか、と。
山村美紗という女がいた。小説家としての業、女としての性に命ごとからめとられた一人の女がいた。
それ以外、何の必要ないのかもしれない。
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山村美紗といえば、京都を舞台に数々のミステリー作品を執筆し、ベストセラー作家として名を馳せた存在であり、近年はTwitterでも話題になった正しい京都弁「死ねどす」の創始者としても知られる。そんな彼女の生涯を2人の男性と共に描いたノンフィクションが本作である。
その2人の男性とは、夫であり彼女の死を看取った山村 巍と、彼女との色恋沙汰が噂されたミステリーの巨匠、西川京太郎である。この2人の男性との関係性を軸に、山川美紗という作家の生涯を追っていくわけだが、この奔放華麗な生涯は事実とは思えないくらいに華々しく、ドラマチックでもある。
特に夫である山村 巍は、黒子として献身的に山村美紗を支えつつ、その死後には油絵を習得して、彼女の作品を残すようになる。そんな夫の静かな愛情が心に残る。
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正直言って、読みたいけれどそっとして置いても良い内容の本だった気がします。海外のミステリしか読まなかった私が読んだ国内ミステリは、山村さんの作品だけでした。舞妓シリーズが好きで、探して読みましたっけ。ご主人の描かれた絵は、少し怖くて、亡くなって、傍らに他の女性を置いて山村さんを描くというのは、まるで西村京太郎氏と美沙さんの関係に、誰も入れなかったことの合わせ鏡のように見えました。死んだ彼女は、新しい奥様との間には入れないのですから。深い愛というより、妄執のような重さを、全体に感じてしまうのは、ちょっと申し訳ない気がしましたね。
そういう印象を拭うために、淡々と書かれた精緻な評伝ですが、内容が衝撃的であるわりに、もうひとつ面白くなっていない気がしましたので、途中で中断しました。覗き見してるようで、自分が嫌になってしまったのです。
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東京都庁に根を張る女帝・小池百合子が話題となる中、京都の女王と呼ばれた作家は山村美紗だそうだ。
山村美紗と言われてもなんとなく聞いたことはあるがピンとは来なかったのだが、「山村美紗サスペンス」というよくやっているドラマの番宣を思い出して「あーあの山村美紗ね!」となる。ついでに西村京太郎は作家という認識はしっかりあるが、そちらも「西村京太郎サスペンス」というドラマの番宣フレーズによって記憶されているのだと思う。
そんな山村美紗を知る世代も減り、紙の本全盛期の申し子とも言える存在だった山村美紗の記憶が世の中から消える前に彼女の一生を辿ったノンフィクション本でした。長く連れ添った旦那もいながら、西村京太郎というパートナーも隣接する家に住まわせ華麗なる一族ばりに不可思議な生活を送っていたミステリー作家の生涯は彼女への予備知識がなくともかなり楽しめる内容でした。
バラエティにもよく出る女優の山村紅葉さんが彼女の娘とはつゆ知らずでしたが、売れっ子作家である母が書いた原作ドラマに主演するというのも凄い話。さぞかし苦労とかもあっただろうにそっちの話も興味があるな。
と京都にルーツがある身として、少しは山村美紗も西村京太郎の本も読んでみようと思った次第です。
華やかな和柄が本のカバーとなっているが、西陣織の紋様のようです。
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賞をとれなかったことが山村美紗を
こんなにもバイタリティー溢れる人に
なしあげたとは
松本清張との子弟話や
西村京太郎との戦友とも愛情とも言えない関係性
山村美紗がなくなった96年
翌年に阪神大震災があり
それに呼応するように
書籍の販売数がガクンと落ちる
様々な理由が重なった結果だと思うが
彼女ほどの仕事量と冊数を出さなくなったことが
出版不況に関係していると知って
もう無理だなと思う反面彼女にはかなわない方法で立ち向かわなければとも思う
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花房さんも書かれていたが、ちょうど私も思っていたところだった。
本屋さんに山村美紗の本がない、と。
サスペンスドラマの印象が強く、本は読んだ事がなかった。
1冊だけ、京都を紹介する本は持っている。
そしてご主人の存在を初めて知った。
西村京太郎さんとの事は知っていたが、夫婦ではないと知っていたし、そんなに深く考えた事はなかった。
それから紅葉さんの他にもお子さんがいらしたのは知らなかった。
出版業界が一番輝いていた時代を生き抜いた、まさに女王。
こんなにも誰もが頭が上がらない方だとは思いもしなかった。
弱さを隠して強がっていたんですね。
それをよく知る2人の男性に愛されて、幸せだったのでしょう。
きっといろいろ苦しい思いもされてはいるでしょうが。
いろいろ読んでみたくなりました。
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京都のミステリーの女王のミステリーは、山村巍(たかし)という夫の存在でした。妻の才能を信じ、その才能を持って自分の人生を全うすることにすべてを捧げた人。妻と西村京太郎との関係に微動だにせず(したかもしれないけど…)、妻の死後、その面影を追って肖像画を描きまくり、そのモデルとなった妻に似た三十九歳年下の女性と結婚した人。本書には彼の絵が掲載されていますが、なんか異様なエネルギーを感じ、つい彼の顔を見てみたい、と検索してしまいました。そこには高校教師として定年まで勤め上げたというプロフィールにふさわしい穏やかそうな小柄な男性が確かに山村美紗に似ている新しい妻と微笑んでいました。著者でも書き切れない「ある愛の詩」が美紗と巍の間にあったのでしょう。この本のもう一つの陰の物語は、出版社と作者の関係です。書籍の販売のピークは1996年で、それまでは出版社にとって山村美紗や西村京太郎のようなベストセラー作家はまさに触ったものをきっとすべて金に変えてしまうミダス王。しかし、その後激減を続ける出版界においても本書の出版がタブーなのだとしたら、それもすごい話だと思います。出版社の期待に死の直前まで全力で答えようとし、一方で自分の存在感維持のために無理難題を押し付ける、京都のミステリーの女王は紙の時代のラストエンペラーだったのかもしれません。ページ数は薄い本ですが、濃厚な一冊でした。
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ミステリーの女王山村美紗。西村京太郎と存在を消した陰の夫。三人の関係を中心に描くベストセラー作家の壮絶な生き様。
凄まじい多作、数多くのサスペンスドラマの原作。山村美紗は超売れっ子。しかし新人賞など賞を逃したコンプレックス、売れなくなる不安、編集者を集めたますパーティー、女王のように振る舞う姿。62歳にして帝国ホテルのスイートルーム執筆中に逝去する壮絶な人生が描かれる。
山村美紗と西村京太郎は京都で隣合う大豪邸に暮らす。二人の関係は疑われるが、大のベストセラー作家二人、出版社はそのことには触れられない。タブーを書けたのは唯一「噂の眞相」だけだったというのが面白い。読んでから良く見ると本書の出版社はマイナーな西日本出版社。
売れなくなる恐怖からひたすら創作に没頭する姿、作家の業ともいえるだろう。晩年の林芙美子と似ている。
京都という保守的な土地、そこを舞台とした多くの小説。「京都で人が殺されてないところはない。」とまで言われる。
あるベストセラー作家の情念を描いた素晴らしいノンフィクションでした。
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今尚、原作推理小説が読まれ、そのテレビドラマ化される作家、山村美紗の評伝。彼女を取り巻く人々、特に夫と生涯の作家としてのパートナー西村京太郎との関係などを親族や関係者への取材を通して描く。
バブル経済がもてはやされた時期に京都という日本人なら誰もが憧れをもつ土地を舞台に推理小説を描き続けた。京都を「現在」の姿と歴史深い土地という二つの観点から取り上げ作品にした功績は大きい。また女流の推理作家の草分け的存在の一人である。
ミステリアスな部分もあった山村美紗の人生に切りこんだ作品だ。
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山村美紗というとミステリの女王として名をはせた名手である。
が、死後20年になることも驚きだし、今本が手に入りにくい状況だというのも驚きだった。
これを読むまでは、天才型の華やかな作家さんだと思っていたのだが、ここまで身を削って書いていたのか……とぞっとする。鶴の恩返しでつうが羽を使うようことすら生ぬるく思えるような、生き方やスタイルや何もかもを売れる作家になるために費やすという割り切り。凄まじいとしか言いようがない。
西村京太郎視点というのも読んでみたくはある……が、さて、男性から見た彼女はいかがなものなんだろうか。
ある一時代を築いた山村美紗。もう一度読んでみたくなる。
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完全にミーハー気分で読んだ。
山村美紗も西村京太郎も読んだことはないし、ドラマもチラッと一瞬横目で見るくらいでしかなかったのだが。
京都、それも私の得意な?東山と伏見がメインで読んでいてうれしかった。
ご主人がいらしたとはホントにビックリした。2人の男性の支えがあったとはいえ、精力的な執筆、セルフプロデュースの力、すごい人だったんだなぁと思う。
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山村美紗の生涯、興味深かった。
松本清張と西村京太郎との関係に驚き。
したたかにミステリー作家として、
時代を生きた人だった。
夫との関係も不思議だけど、、、、。
それだけ尽くしてもらえるなんて、凄い
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名前だけはよく知っていた作家 山村美紗について書かれた評伝。
恥ずかしながら、西村京太郎や松本清張との関係は全く知らなかった。
一番関係値があった、出版関係者への取材は出来たのか気になる。
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1996年に65歳で死去したミステリーの女王、山村美紗の生涯をたどる筆者初のノンフィクション。副題がふたりの男。京都・東山の霊山神社の近くで隣同士で居を構えた大作家、西村京太郎、そして影で支え続けた夫で東山高校教諭の巍氏との関係性が主題になっている。西村京太郎との関係は、結局本人取材(湯河原の西村京太郎記念館で本人と立ち話した程度)がかなわず、男女関係があったか明らかにならない。本人は「面白い人だった」と回想するのみだ。山村を題材に西村が書いた「女流作家」「華の棺」の出版前後に西村が受けたインタビューも男女関係があったとも、なかったとも話しており、分からない。作者は、西村との関係が世間で噂される中、黒子として支え続けた巍氏には取材しているようだが、あまり濃密なエピソードはない。西村邸と山村邸の間に秘密地下通路はなかったということぐらいか。また文壇に出る際には、松本清張の心を掴み、足がかりにしたこともわかった。
あとは山村の父親、木村常信は祇園出身で、京大法学部卒で、戦後は京大教授を務めたこと、母方のみつは伏見出身で、俳優の長谷川一夫といとこ同士なこと(後にノンフィクションを出版)、長者番付で、西村がダントツの一位で、京都在住では山村もその次につけていたことなど。最後は帝国ホテルで執筆中に、半ば過労死的に急死したこと、娘の山村紅葉は早大卒で、結婚して国税局を退職した後、女優になったこと、山村の墓は泉涌寺の塔頭・雲龍院にあること、などがふーんと思った。
出版社の担当編集を招いての派手なパーティー、そして小説誌に自身の名前が大きく載っていないと恫喝するなど、なかなか押し出しが強い人だったのは想像がつく。作品が売れても、通俗的だとか文学的でないとかの批判がつきまとったことも丁寧に説明してある。
山村が死んだ1996年は、出版物の売り上げが最高だった年だったという。流行作家のあり方として、もはや山村、西村、そして赤川次郎のような存在というのは、今後ありえないのだろうと思わされた。大作家である西村の怒りを恐れて、本書が西日本出版というマイナー出版社からしか出せなかったことも、いずれ笑い話になるのではないか。